ポーランド「脂の木曜日」 国挙げてドーナツ食べる日
2月23日木曜日の夜。都内で一夜限りの「ドーナツ店」が開店した。ポーランドのドーナツ「ポンチキ」を売る店だ。店を開いたのは、坂元萌衣子さん。ネットやイベントなどでポンチキをはじめとするポーランド菓子の販売を手がける。
キリスト教の主な祝日のひとつイースター(復活祭)に向け、ポーランドの人々はかつてごちそうや甘いものを食べることを控えた。そして、この「断食期」に入る直前の木曜日においしいものを食べだめた。
「脂の木曜日」と呼ばれるこの日の習慣は今も残り、現在は国を挙げて、ふんわりまん丸のドーナツ、ポンチキを食べまくる。
「この日にポンチキを食べないと不幸になるとも言われているんです」と坂元さん。老若男女、みながポンチキにかぶりつき、学校でも職場でもポンチキを食べるのだ。ホテルでも「どうぞご自由にお持ちください」とポンチキが配られたりするらしい。
日本の人にももっとポンチキのことを知って欲しい思っていたところ、ポーランドのお隣の国チェコの料理の専門店「だあしゑんか」店主、高野文雄さんの協力を得て、今年の「脂の木曜日」にポンチキやポーランド料理を食べまくる「第1回 ポンチキ祭り」をこの店で行うことになったという。
ビルの2階の小さな店には、120以上の人々が入れ替わり立ち替わり訪れ、ぎゅうぎゅう状態。中には、先日初の外国人女流プロ棋士になり注目を浴びた、ポーランド人のカロリーナ・ステチェンスカさんの顔も。
「だあしゑんか」のバーカウンターには、「バラジャム」「ラズベリー」「カスタード」などと、様々なフレーバーのポンチキが山積みになり、お客さんは大行列。買ったばかりのポンチキの袋を抱えたつややかな長いおさげ髪のポーランド人女性にどれを買ったのかと聞くと「もちろん、バラのジャムよ」と一言。ポーランドでは、華やかなバラの香りがするバラジャムのポンチキが最も人気なのだ。
「日本人はクリーム系のフィリングが入ったポンチキが好きだけど、ポーランド人はジャムが好きなの。ラズベリーも定番ね」とは、隣にいた明るい金髪の女性。「日本ならではの抹茶味も買ったわ。抹茶はすごくおいしいもの」。
後で坂元さんに聞くと、会場に集まったポーランド人には、抹茶味ポンチキの評判がよかったらしい。坂元さんは、この日800個ものポンチキを販売したが、そのほかにも「ポンチキの日」とも呼ばれる「脂の木曜日」に向け全国各地のポーランド人などから何十個単位でポンチキのオーダーが入ったそうだ。
先のポーランド人女性2人が席でポーランド料理を食べ始めたので、料理についての話も聞いてみた。手にしていたのはポーランドの水ギョウザ「ピエロギ」だ。ポーランドの定番料理で、現地には専門店もあるほど。
「ジャガイモとカッテージチーズを使った具が一番ポピュラーね」とおさげの彼女。金髪の女性はぱっと目を輝かせ「クリスマスイブにはキャベツとキノコを包んだピエロギを食べるのよ」と楽しそうに言う。
「だあしゑんか」では、ひき肉入りとマッシュポテト入りのピエロギを提供していた。ギョウザだけになじみ深いようでありながら、やはり異国の香りがする。サワークリームが添えられ味わいはさっぱり、つるんと口の中に入った。
もっとも、ポーランド人に一番人気だった料理は「ビゴス」だったという。牛肉とザワークラウト、キャベツなどの野菜をプルーンをはじめとするドライフーツとともに長時間煮込んだ郷土料理だ。
「昼食や夕食時に食べるほか、イースターなど伝統的な祭日にもよく作るようですね」(坂元さん)。じっくり煮込まれた肉とザワークラウトの酸味やドライフルーツの甘さが合わさり、食べ飽きない味だ。
そんな料理を食べているうちに始まったのが「ポンチキ早食い競争」。ポーランド本国でも各都市で開催される人気イベントだそうで、なんでも「10個のポンチキを水なしで早食いする」というのがルールらしい。こちらでは、若い女性も参戦し、2個のポンチキの早食いを競い合う中「ポンチキの日」の夜は更けていったのだった。
(フリーライター メレンダ千春)
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