山菜「春の苦み」は大人の味 フキノトウ、タラの芽…
和食の世界では「春は苦味の季節」。「春は苦味を盛れ」とも言われ、苦みのある食材が冬の間に体にため込んだ老廃物をキレイにする働きがあると考えられた。
苦みを味わせてくれる春の食材の代表といえば山菜だ。
ハウス栽培で通年採れる野菜が多いなか、山の木々が芽吹く時期しか味わえない山菜は季節を感じさせてくれる貴重な食材。近年ではハウス物も増えたが、自生する山菜の香りはピカイチだ。品種改良された野菜とは違い、新鮮な香りと独特のほろにがさがある。
そもそも小さな子どもは苦味が苦手だが、大人になるとだんだん苦いものも食べられるようになってくる。苦味をおいしいと感じることは大人の証だとすれば、山菜こそ「大人の味」といえるだろう。
春の訪れを告げる山菜の代名詞といえばフキノトウ(蕗の薹)。フキの花茎の部分だ。
九州では早ければ2月に、東北でも5月ごろになると地面から頭をのぞかせる。フキは数少ない日本原産の食用植物で、平安時代にはすでに栽培が始まっていた。
東北では「ばっけ」と呼ぶが、味噌と炒めた「ばっけみそ」はちょびちょびとなめれば独特のほろにがさとすがすがしい香りが広がり、おにぎりにも、冷やっこにのせてもいい。つぼみのまま天ぷらにすると、ほろにがさだけでなく甘みも出ておいしい。昔は咳止めや痰切の薬としても使われた。
タラの芽はウコギ科のタラノキの新芽の部分。香りがよく、天ぷらにするとほんのりとした甘みと、ホックリと芋にも似た食感になる山菜の王様だ。
炒め物にしてもいい。細かく刻み焼き味噌とあえ、ごはんにのせてもおいしい。栄養価が高くベータカロチンやカリウムを多く含むのも魅力だ。
フキノトウを皮切りに、ウド、ノビル、ツクシ、コシアブラ、ワラビ、ゼンマイ、ウルイ…と、山はこれからが芽吹きの最盛期。山菜の旬がやってくる。一足早い春を感じるなら、食卓から。今宵の酒のつまみはフキノトウ、タラの芽に決まりだ。
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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