新鮮フルーツの生ゼリー プレミアムな味に行列絶えず
静岡県富士市吉原に美味あり(2)
デパート催事の人気商品として知られる「杉山フルーツの生ゼリー」。
新宿のある百貨店では、上層階の催事場から伸びる行列が、階段を通して地上まで連なるほどの人気で、全国の百貨店から催事出店要請が相次ぐ。あまり交通の便がいいとはいえない、静岡県内の店舗にも、遠方から多くのリピーターが足を運ぶ。
そこまでして食べたい生ゼリーとはいったいどんな味なのか。人気スイーツの秘密を探りに、静岡県富士市にある吉原商店街を訪ねた。
吉原商店街は、旧東海道の宿場町に位置する。1966年に旧吉原市が旧鷹岡町とともに旧富士市と合併したが、東海道本線の吉原駅が中心市街地から離れていることなどから近年、商店街の「シャッター街化」が深刻な問題になっていた。
ここ数年は、ご当地グルメのつけナポリタンでも注目を集めるようになったが、その少し前から吉原商店街に本拠を構えながら全国にその名を広めていたのが、杉山フルーツだ。
各地の大型商業施設からの出店要請は多いものの、その人気にもかかわらず、現在も東京はじめ、都市圏には常設店舗がない。その背景にあるのは、ご主人である「フルーツアーティスト」杉山清さんの味への強いこだわりだ。
フルーツゼリーは一般に、缶詰や砂糖漬けの果物を原料にする。フルーツが持つ酸味がゼリーを溶けやすくしてしまうからだ。果物を生のままゼリーで固めるのは意外に難しいという。
ゼリーの原料となる寒天は、海藻から抽出生成した植物性のもの。富士山麓の地下水を使って、加熱・液化してから容器に注ぎ、それを冷やして固めてゼリーにする。機械を使って大量生産すると、生のフルーツが「煮えて」しまうリスクも生じる。
そこで杉山フルーツでは、現在でも、手作りにこだわっている。
キッチンはお店の一角にある。フルーツは包丁でカットし、カップに鍋で加熱した寒天をおたまで注ぐ。すぐに氷水に浸し、寒天が固まればできあがりだ。
機械で寒天を注ぐと、できあがったときに内部に気泡ができやすいのだという。
下ごしらえにも細心の注意を払う。みかんは、果肉だけをひと房ひと房丁寧にカットする。高糖度トマトも、皮が歯に触らないよう、湯むきしてからゼリーにする。
ゼリーも甘さはぐっと控えめ。缶詰や砂糖漬けで作るフルーツゼリーはどうしても甘くなりがちだが、手作りにこだわることによって「ほのかなやさしい甘さ」が実現する。
そして手作りは鮮度へのこだわりでもある。生フルーツを売り物にするだけに、作り置きせず、店頭在庫を見計らいながらゼリーを作る。
かつて、バナナとりんごの生ゼリーにも挑戦したというが、いずれも皮をむくとすぐに変色してしまう果物。何度か試作をしながらも、結局商品化は見送ったという。
そこまでこだわった生ゼリーだけに、地方発送はできない。百貨店の催事でも、販売は個数限定。結果として非常に希少な商品となり、それがさらに人気に拍車をかけた。
東京などの大型商業施設で販売しようとすれば、この作り方では、採算は合わない。大量生産が見込めない以上、出店しないというよりは出店できないのだという。
また、地方スイーツが注目を浴びて全国展開する例は多いが、長続きしない例もまた多い。「レアもののご当地スイーツ」として注目を浴び、その後全国展開しながら、現在はあまり見かけなくなったり、閉店してしまったりという例もある。
杉山さんにとって、生ゼリーは自分の子どものようなものだという。手塩をかけて育てただけに、できるだけ息の長い商品にしたい、一過性のブームには終わらせたくないという思いがある。それが、吉原商店街に根を下ろした現在のスタイルになった。
杉山フルーツでは「進物需要」も強く意識しているという。希少な生ゼリーだけに、おみやげに喜ばれる。わざわざ遠方から吉原の店を訪れるリピーターの中には、知り合いに配る分も合わせて買って行く人も多いという。
プレミアム性の高い商品だけに、もらう方も喜びもひとしおという訳だ。
価格は「時価」。取材時は500円前後の価格設定が多かった。ゼリーとしては高価な部類に入るが、それでも、価格に見合うだけのおいしさ、プレミアム性を認識しているからこそ、遠方からでも、リピーターが次々と訪れるのだろう。
味への強いこだわりとそれが故のプレミアム性が、どうやら人気の秘密のようだ。
(渡辺智哉)
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