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1日の通行台数約280万台、延長約3800kmの高速道路を運営・管理する東日本高速道路(NEXCO東日本)。道路公団時代に女性総合職第1世代として入社し、20年前から仕事と子育ての両立に奮闘。料金所統括から新事業開発まで多部署で管理職として活躍し続ける、その舞台裏とは。

――日本のインフラ高速道路の世界で25年

日本道路公団に入社し、高速道路という日本の主要インフラに携わって25年になります。昨年夏に広報・CSR部へ異動し、現在はCSR推進課長としてチームメンバーとともに、経営層からなるCSR推進委員会の運営や年次リポートの作成などに取り組んでいます。

CSR(企業の社会的責任)は会社全体のことを把握しなければできない仕事、かつ、世の中の情報にも敏感でいないと務まりません。外部の人と話す時間も大事だと感じ、社外の会合にも積極的に参加。先進企業の事例を学び、社内の学習会などでも共有・展開しています。

――「東京湾アクアライン」開通というビッグプロジェクトを経て、所沢管理事務所へ

当社では多くの社員が2~4年程度のジョブローテーションで様々な部署を経験します。私の初任地は広島建設局。管理課で道路管理の基礎を学びました。3年後、東京に異動しアクアライン建設というビッグプロジェクトに従事。開通にともない終航を迎えるフェリー会社や船員さんへの補償などの調整業務を担当しました。

その後、28歳で第1子を出産。復職の後、32歳で所沢管理事務所へ異動し、管理職として現場の最前線に立つことになりました。女性の現場助役は例がなかった当時。初めての子育て、初めての管理職、しかも会社の根幹であるお客さまから通行料金をいただく料金所をまとめるという現場業務。私にとって大きな試練になりました。

――「管理職=会社の人間になった」という思いがモチベーションに

高速道路は24時間365日営業なので、10日に1度の頻度で当直夜勤もあります。管内には14カ所の料金所があり、そこで働く約300人の料金収受員さんを統括するための巡回も欠かせません。100キロメートルにも及ぶ広範囲に点在する14の料金所を回るだけでも一苦労でした。

ちょうどこのころ、料金所にETC(自動料金収受システム)が導入され、お客さまとのトラブルも多く、苦情が入ればいつでも駆けつけなければいけませんでした。何を言われようと「私が責任者です」と毅然とした態度で謝罪や交渉の場に立ち続けました。4年半働いたこの現場で、私が電話や訪問で対応したお客さま対応件数は延べ約2500件にのぼりました。

本当に苦労の連続でしたが、ここでの経験は自信にもつながりました。管理職になったことで「ようやく会社の人間になった」という実感もありましたし、一社員の時には流れてこなかった経営層に近い情報が身近にあることで、モチベーションも上がりました。子育てしながらでも絶対に前任者や後任者の男性と同じように業務を遂行するという強い気持ちもあり、とにかく懸命に働きました。

――ずっと長いトンネルの中にいたような30歳代

そんななか、第2子を妊娠。20歳代の終わりに第1子出産で職場を離れて、またすぐに産休に入っては会社に申し訳ないという思いがあり、先延ばしにしていたら9年がたってしまいました。私自身も37歳になっていました。

30歳代は正直、ずっと長いトンネルの中にいるような気分でした。同期の男性たちが着々とキャリアアップしていく中、私は現場勤務が続いていましたし、本社は現場のことを真に理解し、評価してくれているのかと理不尽さを感じることも……。

そんな私を救ってくれたのは育休中に出会った、とある大手メーカーの50歳代女性からのアドバイス。「30代、40歳代で置いていかれても大丈夫。50歳代になってから私のようにグループ会社の役員に抜てきされることもある。今が苦しくても長い目でキャリアをとらえてみて」と言われたのです。気持ちがスーッと晴れていきました。

――新事業開発の中で高まっていったビジネスマインド

復職して2年は、第三京浜道路などを管理する京浜管理事務所で課長として働き、その後は、NEXCO中日本へ出向。道路会社各社から集まったメンバーとともに、全国の通行料金統括事務を約1年務めました。

そして、課長代理として本社に戻り、担当したのが新事業の開発。05年の民営化で法律も変わり、それまで収益を求めてはいけなかった我々も、新しいビジネスチャンスを求め変革を進めていました。私が取り組んだのは、ポイントで高速道路が走れるクレジットカード事業、沿線地域の商品を発掘・販売するEC事業、旅行事業など。昼食を食べる時間がないほど忙しい日々でしたが、国家資格である「国内旅行業務取扱管理者」を取得し、高速道路を使って車で楽しむ旅も企画しました。

民間企業の様々な最新事業に触れながら協業する機会も多く、社外のウェブやビッグデータなどのご担当の方々と接する中で、私自身のビジネスマインドは高まりました。問題解決への意識、前向きな思考プロセスなど、仕事へのモチベーションがさらに一段階上がっていくのを感じました。ここでの4年間が、仕事人生で2度目の転機です。そして、今に至ります。

――18年続いた「お迎え生活」からの解放

実は昨年の春にもう一つ、ある意味で転機を迎えました。「お迎え生活」が終わったのです。子供2人が9歳差ということもあり、18年間保育園と学童クラブのお迎えをし続けていました。長男が中学生になってからは代わりにお迎えしてくれることもありましたが、長かったです。

私が子育てを始めたころは、ワーク・ライフ・バランスという言葉もありませんでした。「お迎えがあるから残業はできない」では働く仲間として受け入れてもらえないと思いましたし、「子供がいる」と伝えたら信頼してもらえなくなるのではないかと感じ、子供がいることを隠して働く場面もありました。かつてはデスクに灰皿が当たり前でしたから、妊娠しても働き続けるのは特殊なことでした。

私たちの世代が経験した綱渡りのような、仕事と子育てとの両立を後輩たちにはさせたくないと思ってやってきたので、今、当社で女性の育休取得率が100%になったことは感慨深いです。世の中も、会社の制度も大きく前進しています。さらに、生産性向上につながる経営戦略として働く男性にもメリットがある「働き方改革」が、当社で、そして日本中で、早く本物になってほしいです。

――子育てしながら働き続ける人へ、3つのアドバイス

私が仕事と子育てとの両立に奮闘するなかで、やってよかったことをお伝えします。

1つ目は、シッターさんについて。わが家では複数のシッターさんにお願いしていたのですが、信頼できる方に出会え、1人の方にまかせるようになったら子供の心が安定していきました。そして、シッターさんとの信頼関係を大切にするために、たまたま仕事が早く終わってもキャンセルしないようにしました。同じ働く者として、予定を組んでくれたシッターさんを尊重すべきだと思ったからです。

2つ目は、子供との時間について。帰宅したらすぐに短時間でもしっかり子供と向き合って遊んであげること。私は自分の夕飯を移動中に済ませ、帰宅後すぐに20分くらい子供に集中するようにしました。すると子供も気が済むようで、それまで寝るのをぐずっていたのが素直に寝てくれるようになりました。大切なのは、時間の長さではなく質です。

3つ目は、取捨選択について。仕事でも家庭でも自分なりの基準で「大事にすること」と「捨てること」を判断しています。例えば家事でも、「ごはんはしっかり、お掃除はほどほど」など。全部はできません。

つらい時期もありましたが、仕事を辞めようと思ったことはありません。「続けた人だけに手応えを感じる瞬間が訪れる。途中で辞めた人には決してその瞬間は訪れない」とは、子供の担任の先生の言葉ですが、私も同感です。何事も辞めずに続けることが大切。これからも、先を見通し長いスパンで物事を捉え、働き続けていきたいと思っています。

竹川郁子さん(たけがわ・いくこ)
NEXCO東日本・CSR推進課長
1992年、日本道路公団へ入社。広島、東京、神奈川、埼玉の事業所にて勤務。2005年、東・中・西の3社に分割民営化。東日本高速道路(NEXCO東日本)へ。15年から広報・CSR部 CSR推進課長。19歳と10歳の2児の母。広島県生まれ。

●取材後記

竹川さんの仕事への熱い思いの源は、大学進学で広島から上京した時に感じた「東京と地方の格差」だといいます。「あまりの違いにショックを受けました。将来は地域の活性化に貢献したいと思いこの会社にたどり着きました。"地域をつなぎ、地域とつながる"をキーワードにCSRを進め、高速道路を通じて地域社会の発展と暮らしの向上を支え、日本経済全体の活性化に貢献するという当社の経営理念は、まさに私の思いそのものです」。そして最後に、「こうして25年共働きを続けられた背景には、夫や義母、園やシッターさん、ママ友や職場をはじめとする周りの方々から理解を得られたことがあります。深く感謝しています」とのこと。支えがあってこそ、何かを続けられるものですね。週末には家族で、高速道路を使った小旅行へよく出かけるそうです。

NEXCO東日本のホームページ http://www.e-nexco.co.jp

[2017年2月2日公開のクラブニッキィの記事を再構成]

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