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農業分野の革新に女性の能力を生かす取り組み進む

国連が昨年、採択した「2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)」では、飢餓・貧困の解消や生態系の保全などと並び、女性のエンパワーメントや持続可能な農業生産などの項目が掲げられた。アメリカ大豆輸出協会(USSEC)の立石雅子さんとアメリカ農産物貿易事務所(ATO)のレイチェル・ネルソンさんに、女性の社会進出やサステナブルな農業実現に向けた取り組みについて聞いた。

米国では農家の3割、100万人が女性

――お二人の仕事の内容について教えてください

ネルソン 米国の農産物生産者や輸出業者の方々に向けた日本の規則や制度、日本市場のニーズについての情報の提供などが主な仕事です。特に日本の場合、食に関するトレンドの変遷が非常に速いので、それを調べて対応していく仕事はとてもエキサイティングですね。中でも大豆関連の仕事はその傾向が強いです。

立石 私はUSSECの日本事務所で、食用大豆のディレクターとして情報提供や海外視察、コンファレンス、業界イベントとのコラボなどを通じ米国産大豆と大豆製品の市場拡大支援や輸出プロモーションなどの仕事をしています。

ネルソンさんには私たちが主催する米国産大豆振興の会議に参加してもらったり、米国からキーパーソンを招聘(しょうへい)してもらったりと、連携を密にしています。

――昨年、USSECは60周年記念行事として、米国の女性大豆生産農家の方々と日本の女性大豆加工業者の方々とのディスカッションを実施しました。生産農家の方々の自信にあふれた様子が印象的でしたが、米国では女性の農業分野への進出はどの程度進んでいるのでしょう

ネルソン 米国では約100万人の女性農家が農業経営に携わっており、米国農業全体の31%にあたります。 

しかし、米国の農業の中でも組織の役員になったり、経営者としてリーダーシップをとることに、いまだジェンダーギャップがあることは否めません。解消のための具体的な対策として、米国農務省では「Women in Agriculture」プログラムや教育啓発プログラムなどを実施しており、女性の農業への参入支援や、経営サポートなどを実施しています。

立石 日本の大豆業界は、やはり伝統業界ということもあり、中核的な部署で女性がリーダーシップを発揮する機会は少ないと感じています。ただ、最近豆腐や豆乳業界などでは主婦や消費者視点に立ったPRが盛んになっており、レシピ開発やマーケティングなどの分野で女性の活躍が目立ってきていると感じます。

ネルソン そうですね。先ほどの「Women in Agriculture」プログラムでも生産部分だけでなく、加工や販売、マーケティングなどバリューチェーン全体を対象にしているので、女性に対しても窓口が広がっています。日本の農林水産省も女性の農業への参画を促す取り組みを推進しているようですし、日本でもよいロールモデルが生まれているのではないでしょうか。

意識的な変革で多様性実現 柔軟で強靭な組織づくりへ

――女性の社会進出を進めるため、さらに努力すべき点はありますか

ネルソン 無意識の偏見というものはまだあると思います。データ的にも裏付けられているのですが、例えば人事担当者は雇用の際に無意識に自分と似通った人間を選ぶという傾向があり、あえて自分と全く違う人間を選ぶべきだというアドバイスもあるほどです。意識的に労働環境を変えようという姿勢が大事です。

立石 男女それぞれが意識を変え、制度を変えて人種、国籍、性別、年齢などの多様性を確保することが、業界や企業に様々な視点をもたらし、変化に柔軟に対応できる強靭(きょうじん)な組織をつくると思います。

ネルソン 本当ですね。日本の食品業界は変化と競争が激しいので、多様性に基づいた新鮮な視点がなければ生き残れません。

――女性のエンパワーメントは多様性の維持につながり、企業の持続可能性(サステナビリティー)をも左右するということでしょうか。USSECもサステナビリティーを非常に重要視していますね。

立石 米国産大豆を世界に安定供給するというミッションのため、米国の大豆生産者が健全で適切な農場経営を次世代にわたり続けられること、それが私たちのサステナビリティーです。そのために森林を伐採せず多様性に富んだ生態系や健全な土壌資源、生産者などの労働環境を守り、農業に関わる技術を継続的に改善し続けています。

USSECでは「アメリカ大豆サスティナビリティー認証プロトコル」を策定、環境への負荷が少なく、サステナブルな手法で生産・管理された大豆に対し証明書を発行し、持続可能な大豆の継続的な供給を顧客に約束しています。

日本でもそうした認証に対し、かなりの関心が寄せられています。食の安心・安全や原料調達における社会的責任などの面から導入を検討されているところも増えてきているようです。

ネルソン 日本では一般消費者でもリサイクルの意識が進んでおり、エコな商品に対しても関心が高いので導入が進むのではないでしょうか。

サステナブルな農業が 社会の持続可能性を強化

――USSECではどのように啓発を進めていますか

立石 業界向けのセミナーの実施や、サスティナビリティー専門のウェブサイトを構築したり、加工業者の受賞制度を新設したりと、啓発に努めています。今年の夏には日本の関係企業のCSRや広報の担当者を米国に招き、現地の大学や生産農家のサステナブルな取り組みを見学していただくことも予定しています。

実際、私も米国の大豆生産農家で女性が活躍し、家族が力を合わせて農場経営を何十年も続けている様子に大変感銘を受けました。女性が働きやすく、リーダーシップをとれるように社会を変えていくことは、組織の多様性や柔軟性を高め、大豆生産だけでなく産業そのものの持続可能性をも高めると確信しました。

ネルソン 日本の労働力が将来不足することは予測されています。女性の力を活用し、子どもを育て、次世代に引き継いでいくような社会をつくることが、日本社会のサステナビリティーを高める上で極めて重要なポイントになると思います。

立石雅子(たていし・まさこ)
アメリカ大豆輸出協会(USSEC)北アジア地域HUコーディネーター兼日本HUディレクター
 東京都生まれ。小学校から高校までカトリック系ミッションスクールで学ぶ。立教女学院短期大卒業後、都内の金融機関で2年間の勤務を経て渡米。ボストン大学心理学部卒、同大学院卒業。同大学大学院の視覚科学・認知心理学の研究員や食品会社でマーケティングを経験後、2003年に帰国。米国大豆協会(現・米国大豆輸出協会)入社、現在に至る。フードアナリスト、豆乳マイスターの資格を持つ。
レイチェル・ ネルソン
駐日米国大使館・農産物貿易事務所(ATO)ディレクター
 ニューヨーク州シラキュース出身。1998年にペパーダイン大学で国際経済学の学士号を、2000年にニューヨーク州立大学で森林資源管理の修士号を取得。同年、米国農務省に入省。トルコ・東京での配属のほか、海外農業局の首席補佐官としてワシントンDCにある農務省本部で勤務、また国・地域問題課、多国間貿易・国際協定課、農林水産物課でも様々な職務を担当した。14年から現職。
[2017年1月公開の丸の内キャリア塾を再構成]
丸の内キャリア塾とは、キャリアデザインを考える女性のための実践的学習講座です。毎回、キャリアやライフプランに必要な考え方と行動について多面的に特集しています。
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