英国男子、焼き菓子にハマる? 料理番組が人気沸騰
英国の酒場パブでビールを片手にした英国男子の話題と言えば、サッカーが相場。ところが、最近はどうやら事情が異なるらしい。
「この間、国に帰って友人とパブで話していたら、彼が『ケーキを焼いたんだ』と言ってね」と目を丸くしたのは、大阪市・玉造で英国菓子店「ブロードハースト」を営む英国人シェフ、ピーター・ジョン・ブロードハーストさん。そう言えば英国では今「ザ・グレート・ブリティッシュ・ベイク・オフ」(すばらしき英国焼き菓子コンテスト)というテレビ番組が大人気だと以前聞いたのを思い出した。
2010年に英国放送協会(BBC)でスタートしたこの番組は、12人(第1シリーズは10人)のアマチュア料理人が、オーブンを使って焼き上げるケーキ、ビスケット、ペストリー、パンなど、与えられたお題をこなして優勝を狙う料理番組。
コンテスト出場者の横顔やお菓子の歴史紹介、調理のヒントなどをはさみながら、ドリズルケーキ(シロップで生地をしっとりさせたケーキ)やジャッファケーキ(オレンジ味のゼリーとチョコレートを使ったお菓子)などといった英国の伝統菓子から外国のお菓子まで、参加者は決められた時間内でお題を完成するために悪戦苦闘する。
これまでに3度も英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)賞のテレビ部門フィーチャー賞を受賞、国民的人気番組に成長した。出場者は主婦、美容師、大学生からロンドンの金融街シティーに勤務するビジネスマン、牧師まで様々な背景を持つ。そして、その半分が男性だ。
「そこがまた、番組の魅力になっているんです」と、東京・東麻布の英国菓子店「モーニングトン・クレセント」の店主、英国人女性ステイシー・ウォードさんは言う。
「出場者は英国社会の縮図で、生粋の英国人だけでなく、移民もいます。年齢も様々で、共通するのはみな家庭料理を作るのが大好きな人たちであるということ。プロの料理人が腕を競う番組と違って、コンテストとはいっても温かみのある内容で、たとえ調理がうまくいかなくてもそこに至る努力に敬意が払われる。すばらしいお菓子が出来上がることもありますが、手ひどい失敗もある。まるで自分自身のことのようで、視聴者を『自分でも作ってみたい』という気持ちにさせる番組なんですよ」。
一方、ピーターさんは、やさしい課題から始まってだんだんお題が難しくなっていくことも、人気の秘密ではないかと推測する。「視聴者の菓子作りのインスピレーションにもなるんです」。
番組の放映後はスーパーマーケットで、番組に登場した材料が売り切れるという状況が続出しているらしい。
番組のタイトルにもある「ベイク(ベイキング)」(オーブンで焼くという意味)という言葉は、この単語単体より「ホーム(家庭の)・ベイキング」という言い回しで使われることが多いという。
「これは、英国ではかつてオーブンのあるキッチンが家の中心だったからでしょう。『ホーム・ベイキング』は英国人にとって幸福な響きを持ちます。出来合いの料理やお菓子が当たり前の時代だからこそ、何百年もの歴史があったり季節の食材を取り入れたりした手作り焼き菓子が、英国人の心を捉えたのでしょう」(ステイシーさん)。
さて、この番組は英国の制作会社ラブ・プロダクションズによるもの。実は、昨年を最後に放映がBBCからチャンネル4に移ることになった。新シリーズは2018年まで放映できないとするBBCとの契約条項があったと言われ、英マスコミは人気番組がどうなるのかと大騒ぎ。
今年1月下旬にようやく事態はようやく決着し、チャンネル4は今年から新シリーズを開始することが明らかになった。目下、新しい放送局で番組がどう変わるのかにマスコミの関心が集まっている。
同番組の影響からか日本でも「ベイク」菓子は人気上昇中だが、果たして日本男子も焼き菓子にハマるのだろうか?
(フリーライター メレンダ千春)
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