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kou / PIXTA

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「若さの象徴=黒髪」への執着

2017年1月5日をもって私は白髪染めをやめた。

「えらいたいそうな言い方をするなあ」とあきれる方もいらっしゃるだろうが、私に限らず、白髪染めに一度手を出した人が「やめよう」と決断するのはなかなか難しい。

一般的に「白髪発見!」でおののくのは30歳代半ばだと言われる。私は40歳を目前にした頃だった。テレビの生放送前。メークさんが「分け目のところ、スプレーかけておきましょうか?」と、白髪隠しの「黒スプレー」を手にして言った。

仕事を終えて自宅で入浴。洗髪後、鏡を前に「その部分」をかき分けて見たら確かに白髪がそこにいた! 「まだまだ若さを武器に、やりたいことがあるのに、自分はこのまま老いさらばえていくのか……」

行きつけの美容師は、ヘアカラートリートメントだのヘアマニキュアだの「ソフトなタッチ」を進めてくれた。「まだまだ軽傷」とうことだったらしい。

それで用が足りなくなったのは40歳代半ばに差し掛かった頃だった。

「たかが白髪」についてこんなに細かく覚えていること自体、「若さの象徴としての黒髪への執着」を表している。以来、月に1回、「カットのついで」に美容室で「しっかり」染めてもらうことにした。

白髪との格闘がハイペースに

ところが50歳を過ぎたあたりから「月1」では間に合わなくなった。先日、当時の私の状況と心境がそのままつづられている記事を雑誌で見て「そうそう、その通り」と「あの日の自分」を「懐かしく」思い出した。「週刊朝日」の坂口小百合記者(49歳)が2016年7月1日号に書いていた。

「染めるべきか、ありのままか…どうすりゃいいの?この白髪~染めたと思ったらもう白髪~染めて1週間もすればもうキラキラしたモノが額のはえ際に出始める。鏡を見る度うんざりする~とはいえ染めないわけにも行かない。白髪ほどハッキリと目に見える老化現象はないからだ~一体白髪と、いつまで格闘すればよいのか?」

美容院での「染め」に加え、自宅での「染め」の回数が増え、最終的には、仕事のない私の土曜の昼下がりは「髪染めデー」と化した。

一昔前に比べればだいぶ「お手軽」になったとは言え「染め作業」はそれなりの手間がいる。着衣や周辺を汚さぬよう、「お地蔵さんの『よだれかけ』みたいなビニール前掛け」を首から垂らし、ゴム手袋をつけ、風呂場の鏡の前でチョコレート状の液材を刷毛(はけ)で塗り込んでいく。下から上へ、髪全体を逆立てるように。時々、黒い雫(しずく)が顔に落ちたりする。最近の白髪染めは極めて安全にできているから問題はないのだが。

そんなときに限って「ピンポーン」と、宅配便のお兄さんがやってくる。「パパ出て!」と、2階から妻の声がする。妻の命令が絶対の我が家。私は、そのままの格好で玄関まで走り込みドアを開ける。鼻をつくにおいと、私の「妙な姿」はどう映ったのだろう。

「ああ、染めてるんですか?仕上がりが楽しみですねえ、へへ」なんて具合にツッコんでくれた方がまだありがたい。実際の訪問者は表情ひとつ変えず「ここにハンコ、お願いします」。整然と職務をまっとうするばかり。本当はどう思ったの?

チータン / PIXTA

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染めないメリットを再確認

「ああ、一体俺は、こんなことをいつまで続けなきゃいけないんだ……」

正月明け、いつもの美容室で「胸のうち」を語ったら、長年の友人でもある美容師は笑顔でこう言った。

「今年は染めるの、やめちゃいません? 梶原さんもようやく白髪がさまになる歳になったって気がします。髪が白いとファッションの幅も広がるし。ジョージ・クルーニー的な上品な服は、白髪だからこそ似合うんです。絶対女性にもモテると思うなあ」

最後の一言が私を決断させた。普段よりグッと短く刈り込んで、染めた痕跡をほぼ切り落とし、ジェルで仕上げてもらったら思ったより悪くない気がした。

美容師「番組なんかでのコメントの説得力が増すと、僕は思います」

梶原「言われてみればそんな気がしてきた! 白髪のほうが得するんだ!!」

美容師「お得と言えばもうひとつ、ヘアメイク代金も半額です」

梶原「ワオ!」

高揚した気分で家に帰ったら、思わぬ反響が。

「あらま! 老けたわねえ、その白髪頭!! どうしちゃったの?」

「他人の髪の毛」は意外と関心外

その後、各所へ赴き、反応をチェックしたが、「すごくよい」という声も無ければ「最悪」という声もなかった。「他人の髪の毛」なんて、しょせんその程度のものだった。そのうち、2人の男性の声が心に残った。

男性A「斎藤実盛が出陣に際し白髪を黒く染め、討ち死にしたという話は有名ですね。昔から我が国では、白髪を黒く染めるのは戦う男の心意気を示す儀式だった。私は現役である限り、面倒でも染め続けようと思っています。染めながらモチベーションを高めています」

男性B「白髪にはダイエット効果がある。なぜ? 白髪で肥満は黒髪の人より何倍もダサく見られるから、白髪で生きると決意した人は運動や食生活に気を配る。それなりの白髪は、みんな引き締まった体してるでしょう?」

私の「決断」が正しかったのか、間違っていたのか、答えはまだ、見つかっていない。

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年2月9日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。著書に『すべらない敬語』など。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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