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葬儀業界で数少ない東証1部上場企業である燦ホールディングス。「終活」とともに成長する市場と、葬儀という難しさの狭間でマーケティングを担って10年。常に時代の注目を集める業界で新プロジェクトを任され続ける、その仕事術とは。

――葬儀は地域に根ざしたもの。だからこそ全国各地に5000社以上

現在、日本全国に葬儀社は5000社以上あると言われています。葬儀はもともと地域に根ざしたものであり、家族経営のような小~中規模の葬儀社がほとんどです。燦ホールディングスは、1932年(昭和7年)創業の公益社を中心に、山陰地方を拠点とする葬仙、神戸一帯を拠点とするタルイなどで構成されています。

現在は東京と大阪の2本社体制で、首都圏・関西圏を中心にサービスを提供。年間1万件を超える葬儀をお任せいただいています。葬儀社としては数少ない東証1部上場企業でもあり、10人規模のマーケティング部署があるというのも、とても珍しいです。

――「終活」というキーワードの登場とともに激変した葬儀業界

私が葬儀業界にきて10年がたちますが、この間、日本の葬儀を取り巻く環境は大きく変わりました。キーワードは「終活」「多様化」「価格の明確化」です。

以前は葬儀について語ること自体がはばかられていましたが、「終活」というキーワードとともに世の中の意識は変わりました。「亡くなってから周囲を慌てさせるよりも事前に自分の葬儀について相談しておこう」と考える方が増えました。私たちも葬儀を執り行うだけでなく、『私の人生アルバム』というファイルなどを用意し、生前にご自身のことを整理したり、葬儀について考えたりするお手伝いをしています。

生前のご本人やご家族の意向をくんで葬儀を行うため、葬儀も「多様化」してきました。その背景には日本の社会全体にある宗教観の薄れという大きな流れもあります。近年の主流は花いっぱいの祭壇で、故人を皆で囲めるようなスタイル。そのほか、ベッドのようにクッションが入った棺を望む方がいたり、お料理にこだわる方がいたり。何に重きを置くかはそれぞれの方の価値観によります。

――価格は明確になったけれど、次はその先の「質」

3つ目のキーワードは「価格の明確化」です。以前は、例えば「葬儀一式200万円」のようにパッケージ化されていて、内訳がわからないことも当たり前でした。前述の通り、葬儀を話題にすることがそもそもはばかられていましたし、葬儀は急に執り行うことになるため検討する余地があまりありませんでした。

そんな中で数年前に私たちが価格や内訳を明確化したところ、お客様からの反響はもちろんでしたが同業者からの反応も大きく、当初は厳しいご意見をいただいたこともありました。しかし、お客様の葬儀への意識の変化や、業界としても異業種からの新規参入などによる変化があり、今では価格の明確化もスタンダードになってきました。

ただ難しいのは先に申し上げた通り、葬儀には地域性があるということ。全国一律料金で葬儀を行うことに少々難しさを感じています。業界を問わず、まっとうな価格競争があることや消費者がサービスを比較検討できる情報が増えることは歓迎すべきですが、数字の先にある目に見えないサービスや質がどうなのか……。大切な故人を見送ったセレモニーを誰も悪く言いたくないがゆえに、葬儀の問題点についてなかなか公にならないという側面もあり、業界全体がよりよくなるためには、まだたくさんの課題があると感じています。

――最初に就職したのは、生まれたてのIT業界で女性だけのシステム開発会社

私が燦ホールディングスにきて10年になります。以前はIT業界、保険業界にいました。最初に働いたのはシステム開発の会社で、入社したのは1988年。ソニーがVHSのビデオテープレコーダーに新規参入したような時代で、まだITと言っても一般には通じませんでした。その会社も私たちが2期生。黎明(れいめい)期のIT業界でしたが、入社時、親会社から出向してきていた管理職を除く約40人の社員全員が女性でした。優秀な女性がたくさんいました。

初めてプログラミング言語に触れ、コンピューターと格闘しながら始まった社会人生活。新しい業界、設立したての会社、とても自由な雰囲気に満ちていました。私は親会社の情報管理システムの開発などを担当。約9年間働いたのですが、20代で生命保険会社の子会社立ち上げプロジェクトのチームリーダーを務めた経験は大きかったです。とても視野が広がりました。

――外資系企業のスピード感のなかで磨かれた仕事術

その後、外資系の保険会社に転職。前職同様システム開発に携わったものの、手を動かす側から、プロジェクトを進める側になり、仕事の領域が変わりました。しかし何よりも変わったのは仕事のスピード感でした。外資系企業の承認から実施までのプロセスは本当に速い。物事がものすごいスピードで進んでいく中で、当然私に要求されるスピードも以前とはまったく違いました。

そこで学んだことは、「ものごとの枝葉ではなく幹をしっかり見極めること」「落としどころを見つけること」でした。スピード感をもってプロジェクトを進めていく際、期間内で着地させるためには譲れる部分と譲れない部分の見極めが重要。また、何においても「リスク面を徹底的に洗い出すこと」も肝心で、これは今も欠かさずにやっています。リスクが出そろったところで、それを取ってでも打って出るか否かはケース・バイ・ケースですが、想定しておくことで危機的状況は回避できます。

さらに私が社会人になり約30年間、変わらず心がけていることは「ひとつ上の人の立場に立って考えること」です。「上司だったらどう考えるだろう?」という視点で常にものごとを考えます。実はこれは公務員だった父が、就職が決まった私に伝授してくれた仕事術。とても役に立っています。父に感謝です。

――今、新規事業のためにラーメンを食べ歩いています

私には自分の仕事やキャリアに対して「こうなりたい!」という強い思いはありません。ただいつも「おもしろい仕事をしていたい」と思っているだけです。当時は未知数だったIT業界への就職も、新しい潮流だった外資系の保険業界への転職も、大変革を始めた葬儀業界への転身も、すべての背景には「これから伸びそう、おもしろそう」と新天地を見渡す明るい気持ちがありました。

実は今も社内の新規事業に携わっています。これがまた意外なジャンルで、なんとラーメン事業なのです。この年になってラーメンを食べ歩く日が来るとは思いませんでした(笑)。でも、おもしろいです。新しいことを始めるときには、思い込みをなくすようにしています。できるだけフラットな状態で、見たり食べたり考えたりしていきたいと思っています。

――週末は愛犬と登山。年に一度は夫婦でタフな海外旅行へ

会社を出て仕事を離れてしまえば、私の頭はオフに切り替わります。週末は愛犬のウインキーと山に登るのが楽しみですし、年に一度は夫と海外旅行へ出かけます。南アフリカやボルネオ、ガラパゴスなど、近年はネーチャー系の旅がお気に入りです。

今のようにプライベートを大事にするようになったのは、とある先輩夫婦のおかげです。私にとってまさに理想のご夫婦というおふたりだったのですが、仕事もようやく一段落ついた頃、旦那様が50代という若さで逝ってしまったのです……。本当にショックでした。「そのうち○○しよう!」の「そのうち」が来るとは限らないことを知りました。当時私は30代半ばで働き盛りでしたが、もっとプライベートを大切にしよう、やりたいことはやっていこう、と働き方も生き方も変わりました。

かつて夫が「海外でMBA(経営学修士)を取得したい」と言ったときも「行ったらいい!」と背中を押しました。その時は、思いがけず私が一家の大黒柱として稼ぐことになり焦りましたが……。世のお父さんたちは本当に偉いですね(笑)。それはさておき、やりたいことは、やったほうがいいと思います。

――いくつになってもフットワーク軽くトライ&エラーを

そんな私の人生哲学をひとことで言うなら「とどまらない」。同じことを繰り返すよりも、新しいことに踏み出していたいです。失敗しても反省と振り返りはしますが、後悔はしません。それよりも、次でのリカバリーへ動き出したほうがいいと考えます。

過去は変えられないですし、エラーを恐れて動かなければ、人も会社も置き去りにされていくだけです。昨日と同じことをやっていては、現状キープにもなりません。トライ&エラーをしながら、新しいことに挑戦し続けていくことが大切だと思います。いくつになってもフットワーク軽く、とどまることなく生きていきたいです。

宮島康子(みやじま・やすこ)
1988年、日本のIT(情報技術)業界の先駆けだったシステム開発会社へ入社。その後、外資系生命保険会社を経て、2006年から公益社へ。現在、燦ホールディングス専務執行役員・情報システム本部長、公益社専務執行役員・マーケティング企画本部長などを兼任。東京都生まれ。

●取材後記

青山墓地に程近いオフィスビルにある燦ホールディングスの東京本社。取材の終盤、話題は「散骨」に及びました。「問い合わせは多いのですが、墓地埋葬法との兼ね合いや残された人達の手元によりどころが残らないことなどから、最終的に散骨を選ぶ方は少ないです」(宮島さん)。ちなみに宮島さんご自身の葬儀については「模索中」とのことでした。この年末年始、久しぶりに親や兄弟、親戚と顔をあわせた人も多いのではないでしょうか。誰もがいつか迎えるその時のために、話しておくべきことがいっぱいありますね。でも、何はともあれまずは今をしっかり生きること。2017年も明るい気分で目の前の明日を見晴らしていきましょう。

公益社のホームページ https://www.koekisha.co.jp/ 燦ホールディングスのホームページ http://www.san-hd.co.jp/

[2017年1月12日公開のクラブニッキィの記事を再構成]

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