華麗に謹賀新年 正月にカレーを食べたくなるのはなぜ
「おせちもいいけどカレーもね」
覚えておられる方も多いだろう。昭和の正月風景の中に「お正月を写そう」とともにある、素晴らしいキャッチコピーだ。
昭和51年に始まったこのCMは、実にセンセーショナルだった。核家族のため早くから伝統の崩壊が進んでいた我が実家ですら「正月からカレー!?」と、イケナイものを見るような気持ちになったものだ。
当時の正月のしたくは、とにかく大変だったという記憶しかない。
年末の大掃除と並行して、母親は1日中料理を作りまくっていた。デパートは遠いし、ネット通販などない。スーパーも年末年始はきっちり休む。店が開いてるうちに大量の買い物をし、だしをとり、野菜を刻み、コンロはフル回転。そして料理はできあがり次第、奥の部屋へと運ばれる。
都会はいざ知らず、田舎の家には必ずひときわ寒い部屋があり、そこを天然の冷蔵庫として使っていたのだ。
我々子どもたちの仕事は、母親の言いつけに従い料理の手伝いをすること。できあがった料理を天然冷蔵庫へ運ぶこと。そして何度となく部屋へ忍び込んで、つまみ食いをすること。
子どもだけでなく、父親まで一緒になってつまみ食いをするものだから、大変だ。いざお重に詰めようとして「こんなに減ってる!誰が食べたの!」と、年明け早々に叱られるのも毎年のことだった。
正月は、ほとんどの人が「1年でイチバン暴飲暴食をする日」ではないだろうか。何しろ年末からの備蓄食料で、冷蔵庫はいっぱいだ。食べても食べても同じ料理が出てくる。
さらに平日と違い、家族と3食をともにすることも多い。食べる場所はだいたい家の中だ。家の中で、同じ顔ぶれと、同じ料理を食べ続けていたらどうなるか。
飽きる、のだ。
そこで、カレーである。
ごちそうに飽いた舌をリセットし、ごろごろしていた自分に喝を入れ、正月に引導を渡す。おせちのあとのカレーとは、そのためのものだった。
日本人はあらゆるものをカレー色に染め上げて来た。
カレーうどん、カレーパン、カレースパゲティ、カレーまん、カレーコロッケにカレーラーメン。カレー味のスナック菓子は当たり前だし、カレーアイスやカレーキャラメルだってある。
街へ出ればインド、スリランカ、マレーシア、ネパールなど本場のカレーと、日本独自の発展を遂げたニッポンのカレーライスが共存している。
大量に作って大勢で食べるのに向いている一方、手早いひとり飯にもちょうどいい。
カレーほど自由で、強い料理はないだろう。カレーに何を加えてもカレーはカレーであり、カレー以外のものにはならない。
逆にどんな食材もカレーになる。カレーにならないものを探す方が難しい。
カレーを食べよう。今日がその日だ。
(食ライター じろまるいずみ)
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