水のまち、富士宮で「蔵開き」を楽しむ日帰りの旅
浅間大社の門前町として栄え、今は「富士宮やきそば」でも知られる静岡県富士宮市。富士山の西南麓に位置することから、豊かな伏流水に恵まれ、実は県内有数の酒どころでもある。新酒の季節を迎え、蔵元では酒蔵を一般に開放する「蔵開き」も催される。富士宮までは東京から新幹線経由で2時間ほど。週末に日帰りで楽しめる、飲んで食べての富士宮の旅をご紹介しよう。
富士宮市はもともと、富士山をご神体とする富士山本宮浅間大社の門前町。浅間大社は全国の浅間神社の総本宮で、富士山頂に奥院を擁し、富士山8合目以上は奥宮境内地だ。
本宮境内にある湧玉池(特別天然記念物)は、富士山の雪解け水が伏流水となって湧き出している。湧水量は1日約20万トンといい、この池を源流とする神田川を見れば、その豊かな水量が分かるはずだ。
市内のあちこちには同じような水源がある。このため、富士宮市には4つの酒造会社が立地する。県内では、7社が集まる静岡市に次ぐ酒どころとなっている。
市中心部、浅間大社からわずか徒歩数分のところにも蔵元がある。天保年間から180年余り、同地で酒造りを営む富士高砂酒造だ。
富士山の伏流水で仕込んだ「口当たりの優しく少し甘く感じる酒質」に加えて、能登杜氏(とうじ)による「山廃仕込み」「再仕込み」などの味口造りが特徴という。
「高砂」「中屋」など、富士高砂酒造のさまざまな銘柄を一度に楽しめるのが「蔵開き」だ。今年は1月15日(日)午前9時から午後4時半まで開催される。
100~500円でカップやぐい飲みを購入すれば、振る舞い酒がいただける。吟醸酒、山廃仕込み、純米酒など、多様な清酒が振る舞われるので、飲み比べもいいだろう。「当日、蔵だけでしか飲めない銘柄もあります」(同社)とのこと。
市内の富士山麓に広がる朝霧高原のヨーグルトをブレンドしたという「ヨーグルト酒」など、ちょっとレアなお酒もある。四合瓶や一升瓶を買い込んで、その場で飲んでいるグループも少なくない。
来場者数は1万人を超えるという人気ぶり。蔵開きの当日は、特設の屋台も軒を連ねて縁日のようだ。
もちろん、ご当地グルメの代名詞「富士宮やきそば」は欠かせないだろう。コシのある麺や「肉かす」と呼ばれるラードの搾りかす、イワシの削り粉が特徴だ。
ちなみに富士高砂酒造の日本酒には、富士宮やきそば人気に便乗して開発した大辛口「だいびんじょう」がある。「ソースの風味にも負けない、すっきりとなめらかな味わい」という。地元特産のニジマスに合う「鱒々(ますます)だいびんじょう」もある。
富士宮市では養豚も盛ん。富士高砂酒造の目の前にある食肉加工販売「さの萬(まん)」は、寝かせてうまみを増した「熟成肉」のパイオニアとして全国的に知られる。乾燥熟成させた牛肉「ドライエイジングビーフ」、独自のブランド豚肉「萬幻豚(まんげんとん)」などはぜひお土産に買って帰りたい。
せっかくなので、市街地からちょっと離れた市内の観光名所もめぐるのもいいだろう。
JR富士宮駅から白糸の滝までは路線バスで約30分。高さ20メートル、幅150メートルの絶壁から大小数百の滝が絹糸のように流れ落ちるようすに、きっと心を洗われるはずだ。白糸の滝を経て、朝霧高原まで行っても日帰り圏内だ。
さて、午前9時からの蔵開きのスタートに間に合うように、東京から向かうとなると、午前6時半発の新幹線「こだま」に乗る必要がある。早起きは苦手という人には、富士宮市の南隣、富士市での前泊をおすすめしたい。
駿河湾に面した富士市は豊富な水資源などを背景に、製紙業の街として発展してきた。製紙工場や化学プラントなどが集積することから、美しい「工場夜景」を新たな観光スポットとして売り出し中だ。
夕暮れどきに、田子の浦の海岸沿いにある「ふじのくに田子の浦みなと公園」の小高い築山に上ると、海と工場の明かり、そしてシルエットとなった富士山を一度に楽しむことができる。「逆さ富士」ならぬ、海面に映る「逆さ工場夜景」も実に美しい。
蔵開きでしこたま飲んでおきながら、帰るころにはまた飲みたくなるのが酒飲みの性(さが)。そんなときに立ち寄りたいのがJR富士駅前の人気そば店「金時」だ。静岡の味をちょこちょこつまみながら富士宮の酒、焼酎のそば湯割りなどを楽しめる。
ぜひとも食べておきたいのが桜海老三昧。桜海老(えび)はすぐ近くの由比の名産品だ。生海老は生姜醤油(しょうがじょうゆ)で、空揚げはちょっと塩がきつめでビールのつまみにピッタリ。そしておろしにはかんきつの搾り汁が入っていてほんのり甘い。
いい感じに酔いが回って、お腹もいっぱい。熱海駅で乗り換え、在来線でのんびり帰るのもいいが、寝過ごせば栃木県や群馬県まで行ってしまう恐れも。三島駅で新幹線に乗り換えるのが安全かもしれない。
東京都内から富士宮市へは、東海道線本線ルートなら、富士駅でJR身延線に乗り換える。新幹線が停車する新富士駅は富士駅から離れているので、新幹線でもいったん三島駅で東海道本線に乗り換えるのが基本だ。東京駅から富士高砂酒造の最寄り駅、西富士宮駅まで、乗り換えを含め約2時間。東京駅から出る高速バスもある。
(渡辺智哉)
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