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年に1度の憂さ晴らし……

ある勉強会で知り合った仲間との忘年会が10年ほど続いている。年齢は20代から60代まで、職業もバラバラで互いに利害関係ゼロだから、お互い言いたい放題が実に心地よい。「年に1度の憂さ晴らし」としては最高の舞台となっている。本年は気がつけば「厄介で面倒くさい人たち」の話題で大いに盛り上がった。

某区役所の福祉関係部局で働く28歳の男性が話し始めた。

A:「うちは、乳児から高齢者に至るまで、毎年多くの啓発イベントを任されているんです。告知のためのポスターも試行錯誤しながら自分たちで作ります。ところが、それに必ずいちゃもんをつける、全く関係ない部署の係長がいるんですよ。『そんなんで、人集まるの? 君んとこの上長は、それでOK出しちゃうんだ……へえ……あれ? ポスターの真ん中にでーんとあるハートマークの真ん中に<ラブ>って文字を入れちゃう感覚って、どこから出て来ちゃうわけ?』ってねちねち言うから、『区長直々の提案ですが』って返したら、すーっといなくなりました。ああいう人って何なんですかねえ……」

(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

何にでも「ひと言いいたい人」というのはいるものだ。

B:「人を不愉快にすることに生きがいを感じる人って、結構いるんですよ!」

そう言ったのは40代半ばの代理店勤務の男性だ。

具体的な指摘が一切無いネガティブ反応野郎

B:「私がまだ若い頃ですがね。某有名企業さんから依頼を受けてキャンペーン企画を出したんですよ。若いと言ったってこっちもプロですから、周到な準備と自信を持って提出するわけです。それをベースにスポンサーさんから忌憚(きたん)のない意見、注文、ご指導をいただきながら、さらにより良い企画に仕上げたいと思っていたんです。先輩からも『クライアントのダメ出しは大歓迎との姿勢で臨め』と言われていましたから。ところがその担当者からはそういう具体的な指摘が一切無いんです」

人を"不愉快にする"気配が漂ってきた。いったいどんな反応をその担当者は示したのだろうか?

B:「企画書を見るなり『え? えー?? これ?(驚)……ふー……(深いため息 → 落胆 → 舌打ち)あー……ふはぁー(両腕で頭抱える)……このレベルか(肩を落としうなだれる)……やっぱ……やめときゃ(デスクに突っ伏す。泣いているのか?)……信じられない……』。ひたすらネガティブで絶望的なため息ばかりが聞こえてくるんです。最後に『今回は、無しということで……』って、これ見よがしの失望ポーズで部屋を出て、そのまま2度と再び姿を見せない。なんだか自分は、とんでもないミスを犯してしまったらしいが、何をどう間違ったのかがわからない。自分の存在そのものを全否定された感じで、ヒドいショックを受けて会社に帰ったら、『ああ、あの人はいつもそうだから気にするな』だって。最初から言っておいてよって感じですよね、ハハハ……」

結局、多少の修正でその企画は通ったのだそうだ。

世の中にはこんなふうに「面倒くさい人」が少なくないと教えてもらったことは、その後の彼にとって決してマイナスではなかったと話を結んでいた。まあ、そうとでも考えないとやりきれない思いだったのだろう。

名前を口にするのさえ嫌

忘年会は「嫌な人・遭遇体験自慢」の様相を呈してきた。「ならば私も」と、先日お目にかかった、経営コンサルタントでタナベ経営社長、若松孝彦さんから伺ったお話を紹介することにした。

梶原:「2代目経営者にも、優れた人もいれば、そうでない人もいる。後者のケースなんだけどね……」

忘年会参加者は、私を含めみんなサラリーマンやたたき上げの自営業者ばかりだから、「2代目経営者」と聞けばなんとなく「憧れの存在」。それだけに「優れていない2代目」という話に身を乗り出してきたのだと感じた。

梶原:「某社の『2代目経営者候補』は、幼い頃からエリート教育を受け、一流大学を卒業後、東京の一流大企業で勤務した後、創業者であるお父さんの経営する、東京ではない地方のそんなに大きくもない会社に『社長候補』として帰ってきたんだそうです。超一流大企業に比べると『若様』の目には、会社も、社員もすべて『幼稚』に映ったらしい。大事なお父さまが築き上げた会社を『幼稚』はないよねえ」

ここからさらに「嫌な人」遭遇自慢のアクセルを踏む……。

梶原:「その愚かな2代目は自分の能力を棚に上げ、『社員のレベルが低い! 人材がいない!』と、社員を見下すばかり。あろうことか、この彼が実際に後継社長の座に就いたから大変。新社長は社員の声には一切耳を貸さず、会議は一方的な指示・命令伝達の場と化した。自分より社歴の長い年上部下たちは、仕方なくメモを取るふりをする。私は、どこかの国の暴君を思い浮かべましたねえ……」

(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

すると会社は当然こうなる……。

梶原:「で、社員は自分の頭で考えることを放棄し始める。社業は急速に衰える。まるでテレビドラマに出て来そうな『愚かな2代目』。社長は社員のことを『君・あんた・おまえ』呼ばわりする。社員たちだって、面と向かうときこそ『社長』と、一応立てた言い方をするけれど、陰では『彼のやり方は納得できない』などと『彼呼ばわり』したらしい。『彼』と、よそよそしく呼ばれる社長に、人望があるわけがないよねえ? 優秀な社員は1人抜け、2人抜け……『彼の会社』に未来は無さそうでしょう?」

C:「厄介で面倒くさい人って、言われてみれば、みんな『彼』と呼ばれる気がする。面倒くさい人の名前を口にするのさえ嫌だって気持ち、わかるなあ……」

この日参加の紅一点、キャリアコンサルタントとして活躍するCさんがしみじみと語ったところで、今年の忘年会はめでたく、お開きとなった。

[2016年12月15日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]
梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は2017年1月5日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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