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英国ロイヤル・バレエ団「うたかたの恋」 苦悩の皇太子になりきる

2010/7/7

19世紀末、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子ルドルフと17歳の男爵令嬢マリーがマイヤーリングの狩猟別荘で心中。謎の多いこの事件を扱った映画やミュージカルは、ほとんどがロマンティックでセンチメンタル。だが振付家マクミランの手によるバレエ作品は、重苦しい緊迫感と、ときに目を覆いたくなるような生々しさを持つ。

マリー役のガレアッツィ(手前)とルドルフ役のワトソン=写真 瀬戸 秀美

ルドルフを中心に展開される物語は込み入っている。だが母エリザベートへの愛に飢えた孤独感や、その立場ゆえのストレスなど彼の心理状態は、自身や周囲の人間の踊りと演技で明らか。だから、たとえば初夜の寝室で髑髏(どくろ)を手にし、花嫁にピストルを向ける奇行を、変質者のそれとは観客に思わせない。ルドルフ役エドワード・ワトソンは、どんなエキセントリックな行為でも品格を失わず、激しさのなかに哀(かな)しみをにじませる。身悶(みもだ)えするような苦痛の表現は観(み)る者の胸を刺す。まさに役を生きる名演だった。

母、妻、愛人との互いの感情も踊りが明らかにしていく。最も壮絶なのはマリー(マーラ・ガレアッツィ)とのシーン。全力で突進、ルドルフの腕に飛び込むや宙で姿勢を変化させるなど、アクロバティックで複雑な動きは、直情的に求め合いながらも、どこか歪(ゆが)んだ2人の関係性をも示す。

リストの楽曲から編まれた音楽も意味深い。居酒屋で「メフィスト・ワルツ」にのせてのダンスは陽気だが、なるほど、かすかに悪魔的だ。

1987年の日本初演時には、この題材のバレエ化自体が衝撃だった。それから23年。作品の凄(すさ)まじさは色あせていない。同時に、愛情の欠乏、暴力、麻薬、銃など悲劇へ至るキーワードがすべて、あまりにも今日的であることに驚嘆を超え、恐怖さえ覚える。6月24日、東京文化会館。(舞踊評論家 桜井 多佳子)

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