刺身で食べる養殖サバ 若狭小浜、伝統と最新鋭が同居
探訪:若狭湾の味(1)
しめサバや塩焼き、みそ煮…、新鮮な魚といえば刺身で食べるのが定番だが、ことサバに関しては刺身はなじみが薄い。サバはサケやサンマ、ホッケなどと並び寄生虫がつきやすい魚で、生食は危険とされているからだ。
そんなサバを安全に刺身で食べられるようにする取り組みが、福井県の小浜市で行われている。
小浜市は若狭湾を囲む嶺南地区の中心都市として、京都へサバを運ぶ鯖街道の起点となったまちだ。しかし近年は、乱獲などもあり、地物のサバは少なくなってきていた。
2015年4月に鯖街道が日本遺産へ認定されたことから、小浜市では、地物のサバの復活を目指し、サバの養殖事業への取り組みを始めた。
サバは、盛んに泳ぐ回遊魚で、温度変化にもデリケートなため、適切な水温を求めて回遊する性質を持つ。しかし、これが寄生虫が付く原因にもなっていた。一方で、九州では「瀬付きのサバ」と呼ばれる一定の海域に住み着くサバがいて、そのため「ごまさば」などサバを生食する料理が存在する。
そう、回遊しなければ、いけすの中で肥育すれば、生で、刺身で食べられるというわけだ。
小浜市の養殖施設は、古くからサバ漁で栄えた田烏地区にある。いけすは3つあり、稚魚用、肥育用、出荷待ち用に分かれる。稚魚を購入して一定の大きさに育て、それをいけすを移してさらに肥育、最終的にエサを絶って出荷に備えるという。
肥育用のいけすにエサをまくと、見事な虎目をまとったサバが元気よく集まってくる。加熱と違い、生食は脂が強いとくどくなるため、エサの配合が難しいという。
出荷用に水揚げされたサバは、船上でしめられる。見事な手さばきでえらや頭を切って鮮度を保つ。水揚げてからしめ終えるまではあっという間だ。
小浜市中心部にある「小浜市まちの駅」で、さっそく刺身を食べてみる。価格は1尾で3000円。4人前相当だ。大衆魚だけに、手の届く価格設定になっている。歯ごたえはぷりっぷり。店内のガラスケースにはサバが泳いでいて、注文を受けてからサバをおろす。鮮度抜群だ。
脂は思ったほど強くない。とはいえ、わさびよりもショウガのほうが合うように感じた。背よりも腹の部分がより脂が強いので、食べ比べてみるといい。人数が少ないときは、半身でも注文できる(1800円)。
現在は実証実験の段階で、各地に出荷するほどの数は確保できていない。田烏地区の民宿やまちの駅でしか小浜産養殖サバの刺身は食べることができない。
とはいえ、小浜はサバのまち。ほかにも1尾まるごと串に刺して炭火で焼く浜焼きサバやへしこなどおいしいサバ料理には事欠かない。
鯖の刺身をメインに「サバ三昧」を目指して若狭小浜まで旅してみるのもいいだろう。
(渡辺智哉)
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