ゴールドに明石 B-1グランプリの10年を振り返る
12月3、4日の週末、東京・臨海副都心で「2016B-1グランプリスペシャル」が開催された。今回は東京での開催ということもあり、これまでの、団体ごとに「どれだけ地元の魅力を発信できたか」を競うのではなく、都会に住む人たちに「行きたいまち、住みたいまち、応援したいまち」を、恒例の箸の投票で選んでもらう趣向になった。
箸の投票によって選ばれたのは兵庫県明石市。泉房穂市長を先頭に、あかし玉子焼ひろめ隊が一致団結してまちの魅力をアピール。泉市長の声を枯らすほどの奮闘もあり、念願のゴールドグランプリに輝いた。
シルバーグランプリは、熱血!!勝浦タンタンメン船団を擁する千葉県勝浦市。シルバーグランプリは、釧路ザンタレなんまら盛り揚げ隊の北海道釧路市・釧路町だった。
B-1グランプリを主催する愛Bリーグ(ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会)の渡辺英彦会長が「B-1グランプリの新たなステージの幕開け」と語ったように、前大会までは投票の対象外となっていた、これまでにゴールドグランプリを獲得した団体が所在する都市も投票の対象になり、それぞれ熱くまちの魅力のアピールを競った。
2006年、青森県八戸市で誕生
第1回のB-1グランプリは、2006年2月に青森県八戸市で開催された。地元の食品市場・八食センターの一部を会場に10団体が出展。初回ながら、予想を超える来場者が訪れ、昼過ぎには多くのご当地グルメが底をつくうれしい悲鳴の幕開けとなった。
ゴールドグランプリは富士宮やきそば学会。このときは副賞が「第2回大会の開催権」で、翌第2回大会は2007年6月に静岡県富士宮市で開催された。
会場からあふれた来場者がまちのにぎわいを呼ぶ
第1回大会の成功を受け、出展団体は21団体と倍増。会場も屋内では対応できず、浅間大社の境内、屋外での開催となった。しかし、前回に引き続き予想をはるかに上回る来場者で、広い境内には人があふれかえり、周辺の道路にまで行列が伸びた。
しかしあふれた来場者が、近隣の飲食店でやきをそばなどを買い求めることで、会場に限らず、中心市街地全体が活気にあふれるうれしい誤算となった。富士宮やきそば学会の連覇で幕を閉じた。
夜のまちも活性化
第3回大会は、福岡県久留米市。2008年の11月に開催された。富士宮大会の成功を受け、中心市街地の周辺に会場を分散、意図的に商店街を歩かせる会場配置をとった。出展は24団体。
商店街だけでなく、夜の屋台街も活況を見せるなど、B-1グランプリが地域活性化の強力な起爆剤になることを見せつけた。ゴールドグランプリは厚木シロコロ・ホルモン探検隊(現在は脱退)。
周辺都市も巻き込む
第4回大会は2009年9月、秋田県横手市。26団体が出展し、中心市街地と郊外の大規模施設をシャトルバスで結んで開催した。同時に横手市はじめ県内のご当地グルメをアピールするイベントも併催、開催都市だけでなく、近隣も含めてまちの魅力をアピールする大会となった。
ゴールドグランプリは、地元、横手やきそばサンライ'S。
長期的な観光誘客にも寄与
第5回大会は、2010年9月、神奈川県厚木市。初の首都圏での開催となった。規模も大きく拡大、46団体が出展し、甲府鳥もつ煮でみなさまの縁をとりもつ隊がゴールドグランプリに輝く。
首都圏、しかもゴールドグランプリが隣県の山梨ということで、大会後、多くの観光客がとりもつ煮を求めて甲府のそば店に殺到した。地元の老舗そば店は、かつてほどではないにしても、現在でも週末は大行列の盛況ぶりだ。
B-1グランプリが開催当日のにぎわいだけでなく、長期的な誘客にもひと役買うことが明らかになった。
被災地からも出展
第6回大会は、2011年11月、兵庫県姫路市。初の関西での開催となった。修復中の姫路城を取り囲むように63団体が配置され、多くの人々が姫路のまちを埋め尽くした。
姫路大会最大の話題は、年初に起きた東日本大震災の被災地からの出展だ。最悪の犠牲者を出した宮城県石巻市から石巻茶色い焼きそばアカデミーが、原発事故で全町避難を余儀なくされた福島県浪江町から浪江焼麺太国が姫路に駆けつけた。
出展はおろか団体の存続すら危ぶまれる状況での出展を、ともにまちおこしに携わる人々が温かく迎えた。震災時、原発内で作業中だったという浪江の代表・八島貞之太王らが、各出展団体の仲間たちと目を真っ赤にして抱き合う姿は周囲の涙を誘った。
ゴールドグランプリは、ひるぜん焼そば好いとん会。
政令指定都市も活性化
2012年10月の第7回北九州大会は、福岡県北九州市に63団体が集結、61万人もの人を集めた。初の政令指定都市での開催となり、規模の大きさがひときわ目立った大会になった。
B-1グランプリ生みの親でありながら、長年2、3位を定位置にしてきた八戸せんべい汁研究所、悲願のゴールドグランプリ受賞が大きな話題になった。
門前町、初詣をしのぐ人出
第8回大会は2013年11月、愛知県豊川市に64団体が参加して開催された。名古屋はもちろん、豊橋、浜松など近隣に大都市が多いため、乗換駅の豊橋では、新幹線、東海道線からの下車客が豊川に通じる飯田線に乗りきれず、乗り換え客が駅の外にまであふれ出てしまう。初詣の人出にも対応できる豊川のまちの広い道路が人で埋め尽くされた。
そんな多くの来場者が箸の投票でゴールドグランプリに選んだのは、原発被害で全町避難が続く浪江焼麺太国。その喜びに、メンバーも故郷を取り戻す決意を新たにする。
被災地・福島県でも開催
第9回大会は、その浪江からの避難民も多く暮らす福島県郡山市で開催された。B-1グランプリの開催は、まちおこし団体の地元が基本だが、避難が続く中、浪江焼麺太国のホスト大会として開催された。出展は59団体。
ゴールドグランプリは、十和田バラ焼きゼミナール。ご当地グルメ・十和田バラ焼きの「バラ」を薔薇の花になぞらえ、フランス革命よろしくバラ焼きで市民革命を目指すと「ベルサイユの薔薇」風の出で立ちで「ラビアンローズ」を連呼し、注目された団体だ。
地元が一丸になってまちを盛り上げる
第10回大会は、彼らの地元・十和田で開催された。初の人口10万人を下回る都市、鉄道がないまちでの開催になったが、62団体が出展し、33万4000人を動員した。
高校生だけでなく、市内の中学生、小学生までもが一丸となって出展団体、来場者を迎えた。ゴールドグランプリは千葉県勝浦市の熱血!!勝浦タンタンメン船団が受賞した。
まちおこしに終わりなし
B-1グランプリは料理を競うグルメイベントではないと主催者は言う。まちおこしのフロントランナーとともに活動することでノウハウを学び、まちの魅力の発信力を磨く。それを競うイベントだ。
地方都市では、中心市街地の衰退、人口の減少が続く。しかし、富士宮はやきそばが観光資源化し、東京駅から富士宮へ通じる高速バスが開通、やきそばは膨大な経済波及効果を及ぼし、製麺工場の活況で雇用も増えた。
B-1以前は観光地とは呼べなかった八戸も、朝市や朝風呂など様々な観光資源をせんべい汁とともに発信、人気の観光地になった。避難からの帰還準備のために今回出展できなかった浪江焼麺太国も、仮設商店街にアンテナショップを開設、温かいやきそばで故郷に戻る人々を迎える。
B-1グランプリを発案した八戸せんべい汁研究所のスローガンは「まちおこしに終わりなし」。今後もB-1グランプリに出展した都市、団体のまちおこし活動は続く。
(渡辺智哉)
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