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肉も麺も卵もボリューム満点 下町の名物そば「冷肉」

冷たいうどん・そば(番外編)

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NIKKEI STYLE

前回いただいたメールの中に台東区竜泉にある「角萬(かどまん)」の人気メニュー「冷肉(ひやにく)」に関するものがあった。大変に食欲をそそられる内容であった。

私は、地下鉄を乗り継ぎ日比谷線三ノ輪駅に降り立った。国際通りを7、8分歩いたところに「角萬」はある。暖簾をくぐって中に入ると8割の入りである。カウンターは3人掛けと小さい。厨房の正面に細長いテーブルがふたつあって客は向かい合って座るようになっているが、一人客は知らない人と面と向かって食べるのが嫌なのか、みんな同じ方向に1列に座っている。教室みたい。

私は隅っこの小さなテーブルに席を取った。実はその日の昼飯がそばで、しかも食べたのが午後3時だった私は全然腹が減っていない。酒でも飲んで腹が空くのを待つことにし、お銚子を頼んだ。杯を重ねている間、客はずるずる食べ、食べ終わると帰り、それと入れ替わりにどんどん新たな客が入ってくる。相当な人気店である。

「大盛り(念のためですが、これはもりそばの大という意味です)」

「肉なん」

などといった普通のメニューを注文する人もいるにはいるが、圧倒的に聞こえてくるのは、

「冷肉!」

「冷大!(ひやだい)」

という気合いの入った声であった。

壁のメニューを見ると「冷肉」はその中に入っていない。温かい「肉なんばん」はあるから「冷肉」は「冷やし肉なんばん」の略で、一種の裏メニューのようである。裏メニューといってもこれだけ注文が多いと立派な表メニューであり、むしろ表に出ているやつの方がマイナーな印象。

閉店が早いのでゆっくり飲んでいる場合ではない。頃合いを見計らって「冷肉」を注文した。

運ばれてきた丼を前にして私は無言の叫びをあげた。でかい。とてもでかい。普通の店の大盛り以上。見た目2杯分である。

そばではあるが、きしめんクラスの平打ちで、そば粉が入ったうどんという趣である。しかも麺は切りそろえた感じではなく1本1本が不ぞろい。長いの短いのが絡み合って、どっしりと丼に収まっている。その上に切り落としなどではない厚みのある豚肉が折り重なり、煮たネギが青々とうねっている。

大きく口を開けてそばをほお張る。もちっと歯に抵抗する。十割そばの歯応えとは少し違う。形状と同じく、味わいもまた限りなくうどんに近い。

つゆはカツオがぎゅいーんと効いている。それに豚肉を煮た煮汁が加わってただ甘辛いというのではない、魚と肉のエキスの競演とも言うべき味わいが生まれている。つゆを箸でかき回すと、底に沈んでいる肉から出た小さな脂の粒が雪のように舞う。K泉教授なら「頭の中が真っ白になる」であろう。

簡単に言うと、うまい。私は通常うまいまずいは書かない。でもこれはうまいと思った。といっても私なりに食べたつもりではあったが、食べても食べてもなくならない。

という具合に食べながら、いや飲みながら店内の模様を伺っていると、驚くべき事態が次々に展開されていた。

超重量級冷肉でも物足りないらしく、ご飯と漬物をもらっている若者がいた。

「冷肉玉(ぎょく)落とし!」

高らかに注文したカップルのテーブルを、トイレに行く振りをしてのぞいてみると、冷肉の中央に金色に輝く卵の黄身が落とされていた。

「冷肉、持ち帰りで」

こんな注文が通ったところをみると、大方のメニューがテークアウト可能のようである。

一番驚いたのは、私たちの隣りのテーブルに座っていたお父さんが、

「冷肉お代わり!!」

と叫んだときであった。お父さんの叫びに私の眼鏡はずり落ちた。

翌日、原稿を書いているとデスクが近づいてきた。

「冷肉どうしましょうか。いつ行きましょうか」

そう聞くデスクに私は言った。

「実はねえ、昨日の夜、行っちゃったんだよ」

「ええーっ」

デスクが意味もなく青ざめた。

「行ったんですか、僕を置いて。僕が仕事をしている間に…」

「そ」

デスクは壁の時計を見た。午後零時を少し回ったところである。

「行きます。今から行こ。普通盛りでも多いって言うけど、僕はやはり冷大いきます」

言葉を残してデスクは転ぶようにエレベーターホールへと姿を消した。

さて、デスクがそろそろ戻ったころである。デスク、どうだった?

デスク感想 食ってきました「冷大玉落とし」。昼時をやや過ぎているにもかかわらず席が空くのを待つ人々が何人も並んでいました。やはり繁盛店のようです。僕は、野瀬曰く「教室の机」に席を取り、しばし丼が来るのを待ちました。しかし、その間にも次から次にお客が現れ、しかもそのほとんどが「冷肉」「冷大」の注文でした。

味以上に興味深かったのは、おそばが一気に出てくるところです。入った時の店内は、半分がそばをすする人、もう半分がそばを待つ人、という構成だったのですが、それがなかなか変わらない。そして、おそばが出始めたと思ったら、残り半分のそば待ち人たちの前にだだぁーっとそばが出てくるのです。「あの人は僕より先に待ってるよなぁ、とするとまだまだだなぁ」と思っていた僕は、急遽現れた山盛り丼に思わず咳き込んでしまいました。

本題に戻ると、「大」ながら量は見た目以上に多かったですね。そばの量が圧倒的に多い。つゆそばは普通、汁の中でそばが泳ぐものですが、「冷大」はまったく泳ぎません。大晦日深夜の明治神宮みたいな感じでそばが入っています。最初、これはつゆそばではないのではないかと思ったくらい視界に入るものはそば、肉、ネギだけでした。

食感が個性的です。僕はそばやうどんというよりパスタに近いと感じました。八戸せんべい汁の「アルデンテ」を思い出しました。あの最後の「もちっ」の歯触りに似ています。

月見そばを食べるとき、余り早めに卵の黄身を崩してしまうとつゆが卵だらけになって出しが楽しめないのですが、「冷大」に限ってはその心配はありませんでした。卵は大量の麺にからみつくのみで、つゆには到達しないのです。そばに卵をからめてすすり、肉とからめてすすり、ネギとからめてすすり、そしてつゆをずずっとすすり、多様な楽しみ方ができました。ついでにいうと、つゆは全部飲んじゃいました!

野瀬 よく頑張ったね。今度はエミー隊員も誘って、みんなで行こうね。

(特任編集委員 野瀬泰申)

[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]

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