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5月30日、大阪市の京セラドーム大阪。スポットライトを浴びながら、北京五輪銅メダリストの朝原宣治さんが「聖火」を掲げて入場した。最後に火を受け継いだ大阪ガスの尾崎裕社長が「大阪ガスが誕生したこの地で、今日は子どもから大人まで十分に楽しんでください」とあいさつ。大ガスグループの社内交流イベント「グループフェスタ2010」が始まった。
大ガスは1993年まで職場対抗運動会を開いていたが、「職場の威信をかけて休日にも練習を強いるやり方が若い世代に不評」(同社)で中止した。今回はあくまでも任意参加で、家族も参加しやすいように芸能人のトークショーや屋台なども用意した。子会社に勤める森口洋子さんは「小学生の娘が漫才師のロザンを見たいというので来た」と話す。会社の想定を2千人上回る1万2千人が参加した。
大ガスの単体の社員数は7千人弱とこの20年で4割近く減少。反対にグループ会社は2万人弱と約2割増えた。「グループ会社の社員と話していて一体感が損なわれていると感じた」(尾崎社長)のが再開のきっかけとなった。
近畿大阪銀行も7月25日、旧近畿銀行と旧大阪銀行の合併10周年を機に、運動会を開く。組織が大きくなり、直接顔を合わせて仕事をする機会が減った。「顔や人柄を知っていれば、次に一緒に仕事をする時もやりやすい」。運動会を通じて行員同士のコミュニケーションをとりやすくする。このほか、関西電力は2007年に職場単位のスポーツ大会などに資金支援する制度を設けた。
バブル崩壊後、産業界は生き残りをかけて、リストラや再編に追われた。その過程で薄れた社内の一体感を取り戻し、活力につなげる手段として運動会が注目を集めたようだ。リーマン・ショックをまがりなりにも乗り越え、業績に余裕ができたのも企業イベント復活を後押しする。
19日に堺市でフットサル大会を開くシャープ。「賞与や経費の削減など社員にはずいぶん我慢してもらった。元気を出すイベントを、と健康保険組合、労働組合と協議した」(太田弘幸人事本部総務部長)
若手社員の反応も悪くない。大ガスの新入社員、丹羽寛一郎さんはイベント会場で「同期もみんな来ているはず。大きな会社に入ったのが実感できて良かった」という。
日本生産性本部が全国の企業の新入社員を対象に定期的に実施しているアンケート(10年春は約2000人が回答)で「会社の運動会などに参加したくない」との問いに「そう思う」と答えた割合は下がってきた。若者の社会行動に詳しい阿部真大・甲南大学講師は「少子化で大事に育てられた若者が、安心感を求めて組織に頼ろうとしている面があるのではないか」と指摘する。
企業の海外展開加速で外国人が増えるなど、社員の多様化は進む一方だ。社内交流イベントが注目を集める可能性は高い。
(大阪経済部 小倉健太郎)