なぜ貴社は「普通の人」に不正をされてしまうのか?
流創株式会社代表取締役 前田康二郎(2)
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「自分は騙されたことがない」という人ほど騙されやすい
「自分は騙されたことが1度もない」という人がいます。そういう人ほど騙すのは簡単です。なぜならその人は、「1度も騙されたことがない」のではなく、「自分が騙されたということに1度も気付いたことがない」からです。
よく考えてみてください。私達は普段からどれだけ嘘をつくでしょうか。
「何か悩み事があるんじゃない?」「いいえ、全然」
「給料が安いと思っているでしょう」「いいえ、全然」
「私のこと、正直苦手でしょう」「いいえ、全然」
相手への気遣いの嘘であっても、嘘は嘘です。自分はそれだけ相手に気付かれないように嘘をついているというのに、相手の嘘は100パーセント見抜いているなどというのは、傲慢ではないでしょうか。そのような人ほど、「あなたは騙されているよ」と言っても聞く耳を持ちません。「私が騙されるはずがない。騙されたことがないのだから」と言って、泥沼にはまっていきます。
逆に、「自分もこれだけ嘘をついてしまうのだから、反対に、知らず知らずのうちに相手から嘘をつかれていることも実際多いのだろうなあ」というくらいのスタンスでいるほうが、騙されにくいはずです。
経理担当者も同じように騙されやすい
自分が騙されるかもしれないと思う人と、そうでない人は、身構え方が違います。
自分が騙されるかもしれないと思う人は、騙す側の人間の目線に立ち、自分は騙されないと思う人は、自分の主観だけで物を見ているのです。
私は長らく経理を担当していましたが、さすがに普通の人が経理担当者を騙すのは簡単ではありません。だから、もし騙すなら、経理社員が不得手なところを狙ってくるだろうと想像します。そうすると一番手っ取り早いのは外注先と結託して支払請求書の「内容」、たとえば単価を少しいじって水増し請求する、ということなどがあるでしょう。内容に関しての専門知識がなければ、踏み込みにくいですし、もし経理から尋ねられても、材料価格が高騰して、などと言えば逃げ切れる可能性もあります。
「自分は騙されるかもしれない」と思っている経理は、このような場合の対策も講じて内容についても勉強していますが、「自分は騙されない」と思っている経理社員であれば、このような発想自体がないですから、水増し請求にも気付かず、その「偽」の請求書をもとに入力した、「偽」の会計データの金額が請求書の金額と一致しているか何回も確認していることでしょう。そして騙されたまま会社のお金が多く出ていくことになります。本来は「この請求書が本物かどうか」というチェックのフローが、まずプロの経理としてはほしいところです。
キックバックの手口を見抜く
とはいえ、自分には専門知識がないからそこまで踏み込めない、という場合はどうすればよいでしょうか。
一案として、私であれば、前回より支払金額が増えた支払先のリストを作ります。そして金額だけでなく、何パーセント増えたかということを記載して、役員に報告します。
なぜ金額でなく、パーセンテージを見るのか。私の経験上、キックバックをする人は、金額基準よりパーセンテージ基準で相手と調整する場合が少なくないからです。
たとえば80万2500円というキリの悪い数字の支払請求書が来ると、私はすぐ内容を確認してしまいます。その会社で同じような請求書が過去なかったか調べると、1年前の請求書は全く同じ内容なのに75万円と記載してありました。そこで、どれくらい上がったかと計算すると、今年の請求書金額÷昨年の請求書金額=1.07、つまりぴったり7%昨年より増えているわけです。そこで、それを書面にして、経理の資料として報告します。
本当に7%増える理由があった、あるいは発注段階でその旨現場担当者から上司や役員に既に報告があれば、それは問題なく了承されるでしょう。しかし、「そんなに上がったという報告は、聞いていないけど」ということになれば、少なくとも何かあったかもしれないという可能性はあります。その先の真偽はどちらにしても、少なくとも不正をしようとする人には、「ここの会社では悪いことはできないな」というけん制にはなるはずです。
「ちょろい会社」だと思われているから、お金が抜かれる
たまにですが、初対面から、経理などの事務職を小バカにして接してくる人がいます。そのような人はたいがい調べるまでもなく、仕事のできない、視野の狭い、井の中の蛙のような人です。なぜなら、できる人は、初対面の相手がどんな人脈や背景を持っているかもわからない状態で、勝手に値踏みをするということがどれだけ危険かを知っているからです。
特に経理は数字の管理もありますので、その人自身の「身上」がしっかりしているかということも重要です。だから一見地味で大人しい経理社員が、実はその会社にとって大切な取引先のご子息やご令嬢ということがあるかもしれないのです。世間は狭いので、どこで誰が繋がっているかわからないということを、できる人は皆知っています。だから初対面から相手に横柄に振る舞うことなど、できる人にとっては考えられないことなのです。
もし会社全体にそのようにお互いを「値踏みする」雰囲気があるとしたら、その会社の未来は限りなく暗いことでしょう。それでも、
「経理にそんなにお金かけなくてもいいよね」
「経理なんてそんなに重要ではないよね」
このように思っている人も多いと思います。もしその人の私物の財布が小汚いボロボロのものだったら私は納得しますが、反対に、ブランド物の高級財布を持っていたとしたら、「ちょっと矛盾していませんか」と思ってしまいます。
というのも、経理は、会社にとっては「財布」あるいは「財布を預かる人・部門」です。会社の財布が「安物」だったり、財布を預かる人が「身元もよくわからない人」でいいのでしょうか。もし財布に穴が開いていたら、お金を入れてもどんどん抜け落ちてしまいますし、いい加減な経理だったら、ある日突然何千万円ものお金を架空の口座に振り込みしたまま、失踪してしまうかもしれません。最高級である必要はないと思いますが、その会社に見合うレベル、信用のおける経理でないと、会社にお金は貯まらないのです。