不正に走る「普通の人たち」 会社の数字、安易に汚す流創株式会社代表取締役 前田康二郎(1)

誰も止めないから悪さが止まらない

職場での「いじめ」や「嫌がらせ」。あなたのまわりにもあるでしょうか。学校のそれと違うのは、会社では「仕事」という「大義」をかさに行われる場合があるので、それがいじめ・嫌がらせなのか、それとも「指導」の範囲なのかが判別しづらいということです。私が以前見かけたのは、夕方、「今日は飲み会だ~」と浮かれていた社員を横目で見ていた上司が、その社員が帰る1時間前頃から2つ、3つと、30分程度で終わる細かい用事を言いつけていました。

1日かかってもできない仕事を帰り際に押し付けるのは誰が見ても嫌がらせですが、30分程度なら規定の労働時間の範囲内ですし、むしろそのほうが、拒否して帰ることが心理的に難しいものです。上司から、「あいつ30分で終わる仕事を拒否して、飲み会に行った」と言われかねないからです。

その上司は、その社員が焦って仕事をする姿を見て楽しんでいるようでした。周囲が「意地悪してない?」と冗談交じりに聞いても「別に」とすましていました。しかしある時、その社員が突然泣き出し外に出て行きました。何事かと後日話を聞いたら、実家に帰るために最終便の飛行機のチケットをとっていたにもかかわらず、また同じようなことを上司がやり出したので、ついに気持ちが切れてしまった、ということでした。

不正というものは「いじめ」と同じで、悪さをしても見つからないということに快感を覚えて、どんどんエスカレートしていきます。そして、周囲の人はそれに気付いたとしても、「自分には関係ない」「関わりたくない」と、見て見ぬふりをしてしまいます。

もしその不正に大義や一定の目的があれば、それらを達成した段階でいったん収まります。しかし、それらがない場合には、さらにエスカレートし続け、誰かが止めに入らない限り、あからさまに不正を繰り返してしまうものと言えます。

不正の強要を断り切れない理由

同じ不正と言っても、それを自ら進んでやる場合と、誰かにやらせる場合の、2つのパターンがあります。自ら進んでやる不正は、それが発覚した場合も当然、自業自得ですが、自分の手を汚したくないがために誰かに強要するという不正があります。

不正を強要させられている人の心中は、どのようなものでしょうか。第三者から見たら、「そんなの、断ればいいじゃない」「誰かに相談して告発すればいい」「最悪、会社を辞めればいい」と言うかもしれません。しかし、日本の組織というのは人間関係が密であるために、「普通の人」は自分が何か抵抗することで関係のない人まで巻き込み、迷惑をかけてしまうのではないだろうかと考えます。そして、逆らうことをためらっている間に、断り切れない状態に追い込まれてしまうのです。悪い人間というのは、概してそういう無抵抗の人間を狙って、囲い込んで、不正をさせているのです。

そしてもうひとつ、直接自分の手は汚したくない人の手口として、人がよくて向上心の強い人を探して、彼らをそそのかして不正をさせるというパターンもあります。その場合、最初は直接的な指示はしません。目の前で「大変なんだよなあ」「誰かが解決してくれればなあ」など、同情心を煽るような言い回しをします。これに対して、「自分がやりましょうか」と相手が言いだしたら、しめたもの。もし不正が見つかっても、自分は直接指示した覚えはないと言い張れば逃げ切れるからです。とかげのしっぽを切って、自分は組織に残るという構図です。

すぐそこにある誘惑

どちらにしても、自分の手で不正をしてしまった人の末路は最悪です。理由の如何を問わず、不正の実行犯として扱われてしまいます。いくら「首謀者はあの人だ」と言っても、会話の録音のような確たる証拠でもない限り、いや、証拠になるようなものがあったとしても、組織は聞き入れてはくれません。

私もかつて、危険な兆候が見られた人に忠告をした経験があります。ある人の様子がおかしかったので少し調べてみたところ、どうやら悪い人間に抱き込まれているようでした。そこで、「君はあの人に騙されているんじゃないか」と言ったのですが、その時点では既に洗脳されており、「うるさい!」と、私の忠告は聞き入れてもらえず、結局、不正に走ってしまいました。どうやら、将来の出世をちらつかされて、悪事に引き込まれてしまったようです。

その後、結局お役御免になったということでしょう。最終的には首謀者に裏切られ、会社にその社員が黒幕だと事実を訴えても聞き入れてもらえず、激高して自ら辞めて行ったそうです。

首謀者としては、不正の指示や指南を自分がしたことを知っている人間が社内にいたら、リスクしかありません。だから出世などさせていつまでも手元に置いておくはずなどないことは、冷静に考えればわかるはずです。しかし、その実行者は、不正をしたら自分を引き上げて出世させてもらえると信じてしまったのです。実行者は今どこで何をしているかは知りませんが、首謀者は今も平然と「普通の社員」で居続けているそうです。

職場の誰の言うことを信じるか、誰について行くか、ということは、会社員にとっては人生をも左右するような大問題です。危険な誘惑は、どこに潜んでいるかわかりません。もし悪い誘惑にあったら、自分の手を汚す前に、その相手に「まず、お手本を見せてください」と言ってみてください。「いやいや、自分は立場上できないからさ」とはぐらかす人は、最後にあなたも裏切る人だということくらいは、わかっていないといけません。

◇   ◇   ◇

前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。
1973年生まれ。学習院大学経済学部卒。数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また海外での駐在業務を経て、2011年に独立。現在はフリーランスの経理として、経理業務や利益を生む組織改善の提案を中心に活動を行っている。著書に『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(日本経済新聞出版社)、『1%の人は実践しているムダな仕事をなくす数字をよむ技術』(クロスメディア・パブリッシング)。

[この記事は2017年1月18日の日経BizGateに掲載したものです]

職場がヤバい! 記事一覧

キャリアアップしたい人の――「エグゼクティブ転職」

好条件のオファーを受けませんか?
わずか5分の無料登録で「待つ」転職

>> 登録する(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


注目記事
今こそ始める学び特集