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9.時代で変わる優秀さの基準を察している

世の中で「優秀」と言われる人は、「その会社において優秀」であると同時に、「今の時代において優秀」でもあります。しかし、世の中は常に変化しており、その「優秀さ」は時代とともに陳腐(ちんぷ)化しがちです。あとの章でもくわしくお話ししますが、「優秀」であり続けることは、実はかなり大変なことなのです。

頭ひとつ抜けた仕事をしていたとしても、その環境が突然、変わることがあります。スポーツの世界で、ボールの規格が変わったり、ルール自体が変わるのと同じです。時代だけでなく、職場やオフィスが替わったり、上司が替わったり、会社が統合されて2社が1社になったりなど、会社における環境の変化は結構多いものです。

「今やっている仕事は今日で終了です。明日からは別の業務に就いてください」「来週から大阪に転勤です」「今日から上司は外国人です」となったときに、今までのやり方では通用しない可能性もあります。そこで「優秀さ」が一気になくなることもあるのです。

たとえば、10年前に人材ビジネスで「優秀」と言われた人がいたとします。かつては転職希望者が何を考えているのかはわからないから、まずは「実際に話を聞こう」というところが重要視されていました。それが10年経ち、転職者の考え方は変わってきました。さらにネット時代になり、転職者の希望やスペックもデータで簡単にわかるようになりました。

一方、企業サイドも採用のアプローチが変わっています。広告をつくって、そのビジュアルメッセージで訴えるのではなく、転職希望者のレジュメを見て、直接スカウトメールを打つようになりました。転職する人も、採用する企業側も、データベースを管理して、どう戦略的に動くかが重要な時代になってきたのです。

そんな時代に、ネットビジネスを理解せず、スマートフォンも使いこなそうとせずに、10年前と変わらぬ姿勢で「いや、それよりも人の気持ちだよ」などと言っていると、結果として「過去の人」になってしまう。こうして、かつて「優秀」と言われた人も、気づけば社内で一番使い物にならない存在にまで落ちてしまうこともあるのです。

・まずは、近い将来の自分の環境を想像してみよう

そんな場面でも、「優秀」である、つまり頭ひとつ抜けた、優れた存在であり続けるには、どうすべきか。

近い将来、たとえば来年の今ごろ、自分がどんな状況に置かれているかを考えてみることです。「うちの会社はこのままではやっていけないから、IT系の会社と一緒になるのではないか」「俺も東京に来て長いし、そろそろ地方転勤になってもおかしくない」「今の上司と一緒にやって10年が経った。そろそろ変わり時かも」……。

このように、今後自分がどのような環境で仕事をしていくのかを予測し、そのときに必要だと思われることを今のうちから準備しておくことが大事です。

私がリクルートにいたときは、5年間隔で「優秀さ」の基準が変わっていたように思います。多かれ少なかれ、それはどこの会社でも言えることでしょう。5年間「優秀」でいるのはすごいことですが、5年経つとその「優秀さ」はなくなるかもしれない。それでも「優秀」であり続けたいのなら、変化を受け入れて次に向かうことです。

10.仕事を「やり切る」信頼感がある

仕事を任されたときに最も「優秀」と見なされる成果は、「期待以上の仕事をする」ことです。その次が、「期待通りの仕事をする」こと。少なくとも、評判が悪くなることはありません。最悪なのは「やり切らない」ことです。イエローカード、場合によってはレッドカードにもなりかねません。

最近、心が折れやすい若者が増えてきたとよく耳にします。任された仕事をやり切る自信がなく、途中で放り出してしまう。しかしそれは、本人の想像以上に周囲に迷惑をかける可能性があります。

やり切った仕事のクオリティがいまいちだった場合は、まだお互いに修正がききます。しかし、飲食店のバイトでシフトに入っていたのに来なかったり、約束した納期までに商品を届けなかったりと、途中で「ごめんなさい。やっぱり無理でした」と言われると、頼んだ側は結構しんどいものです。「やり切らないこと」を想定して人に仕事を頼んではいないからです。「やり切らない」という結果を一度でも示すと、挽回(ばんかい)のしようがありません。

たとえばレストランに行き、ステーキをレアで注文したとします。30分待って「すみません。食材がなくなってあなたの分が用意できませんでした」と言われたら、どう思いますか?

これが「すこし強めに焼いてしまい、レアではなくなってしまいました。すみませんがソースをサービスしますので、お許しください」となれば、文句を言いつつ食べるかもしれません。しかし、散々待たされたうえに頼んだ料理が出てこない。挙げ句、もし「次もぜひおいでください」と言われても、次回来店することはありえないですよね。

・「やり切る力」は優秀さの前提条件

「やり切らない」ことは、甚(はなは)だレッドカードに近いものです。そう考えると「優秀」と呼ばれる人にとって、仕事をやり切る力は「優秀さ」のベース(基本)というよりもむしろ前提条件と言えます。

「無事之名馬(ぶじこれめいば)」という格言があります。能力がやや劣っていたとしても、無事に走り続ける馬を「優秀」だとする考えです。

仕事において「優秀」とされる人は、査定でいえば「S(極小)」「A(期待以上)」「B(普通)」「C(期待以下)」の「S」、つまり全体の上位3パーセントをすべての能力においてクリアしていると思われがちです。しかし実際は、「S」や「A」を出しつつ、「B」までにとどめていることが多い。「C」があったとしても、挽回して「A」や「S」に持っていく力があります。

ところが、「C」でもなく「N(評価不能)」、つまり「やり切らない」経験が一度でも出てきてしまうと、それだけでアウトです。たとえSがいくつあったとしても、その人物は「優秀」とは評価されません。

私は年に50本ほど、講演の仕事もしています。講演依頼を専門とする会社から、「今度、経営者の集いをやるので、基調講演をお願いします」といった依頼を受け、講演会場に赴くわけです。講演後、来場者はアンケートに答えます。「S(大変素晴らしかった)」「A(結構よかった)」「B(まあまあ)」「C(物足りない)」といった項目で講演内容を評価するのです。

Sがつくときもあれば、Aがつくときもある。Bのときもあるでしょう。その場合は講演者も反省し、「次はもっとこうしよう」と考えます。全体的にSの評価が多ければ「優秀」な講演者と見なされ、講演会社からは「次もまた頼みます」と言われるようになります。

しかし、そんな「優秀」な講演者が、講演当日に「すみません、行くのを忘れていました。二日酔いだったので」などと言ったりしたら? 次に頼まれることはないでしょう。

二日酔いであろうがなかろうが、行って講演を行うことが重要なのです。任された仕事をすっぽりと投げ出してしまうのは非常にまずい。仕事を長くやっている人なら、それは当たり前のことだとわかります。

しかし、まだ若く経験が浅いと「そうはいっても、前にSを2回取っているから、いいんじゃないですか?」と考える人もいます。それは大間違いです。

◇   ◇   ◇

高城幸司(たかぎ・こうじ)
経営コンサルタント。セレブレイン代表取締役。1964年東京生まれ。86年同志社大学卒業後、リクルートに入社。6年連続トップセールスに輝き、伝説の営業マンとして社内外から注目される。起業・独立の情報誌「アントレ」を創刊して編集長を務めたのち独立。現在は人事コンサルティング会社セレブレインをはじめ、2つの会社を経営する。著書に『仕事の9割は世間話』『無茶振りの技術』(日本経済新聞出版社)、『社内政治の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。

[この記事は2015年10月28日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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