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七転び八起きの人生学ぶ フューチャー会長兼社長 金丸恭文氏

2016/11/5

IT(情報技術)コンサルティング会社の創業者。その歩みを鼓舞し続けた一冊の本がある。

自分の思考の空間をできる限り広げてくれるような本が好きで。理論というより実践、特に人に関心がありますね。

かねまる・やすふみ 1954年生まれ。神戸大卒、TKCなどを経てフューチャーを設立。政府の規制改革会議、産業競争力会議などの委員を歴任。

起業して苦しいとき、5年ぐらいは『ウィナーズ』を持ち歩いていました。米ウォール・ストリート・ジャーナルの元編集長がいろんな起業家にインタビューした本ですが、いろんなビジネスの勝利者が出てきて、パターンがひとつでないことを学びました。

喫茶店で読んでいると、離婚して切羽詰まって起業した人物も出てきて「俺の方がましだな」と。30年前の本ですが、今読んでも、何回読んでも「なるほど」と思う。米マクドナルドを世界中に広めたレイ・クロックの「成功のカギを握っているものは、ねばり強さと強い意志だけ」という言葉は泣かせます。「逆境と危機は全員に等しく現れる」。全員が苦境にぶつかるならば、乗り越えるしかない。そうポジティブに考えられるようになりました。

大の阪神タイガースファン。ケンタッキー・フライド・チキンの創業者カーネル・サンダースの生き方に心を強く動かされる。

1985年に阪神タイガースのセ・リーグ優勝が決まったとき、阪神ファンがカーネル・サンダースの像を道頓堀川に投げ込んだ。その後チームが低迷したのは「カーネル・サンダースの呪い」といわれました。「どんな人物なんだろう?」と思って手にとったのが『ぼくのフライドチキンはおいしいよ』です。

壮絶な人生の歩みに泣けました。6歳で父をなくし、おなかをすかせた妹と弟のためにパンを焼き始めた、優しさと強さの同居した人物。いろいろ事業をやったが、全部ダメ。経営したモーテルも火事になり、カフェも売却してしまう。最後に残ったのがフライド・チキンのレシピ。特許はとらず永遠の謎にして、それを使って65歳からフライド・チキンを世界に広めることを始めたのです。

九州大学のビジネススクールで講義をしていたとき、起業家志望の受講生に事前に読んでもらい「何を学んだ?」と聞きました。会社をつくることが起業家精神ではない。七転び八起きでいい。挑戦していくことの大切さを改めて感じます。

ちなみにカーネル・サンダースの像は日本がつくった。日本に上陸したのが70年の大阪万博時。その日本館で回転ずしのようなものを「元禄寿司」が出します。アサヒビールの工場のベルトコンベヤーにヒントを得たといった話を『スシエコノミー』で知りました。

マグロに命を懸ける人、築地市場を改革した人、成田空港の物流の秘密といった話が出てきます。すしは日本の国技。世界中からすしで稼ぐという産業をつくらなければ。そんな思いもあって、文部科学省の審議会で高等な実業教育機関を創設しようと議論しています。

国語、算数、理科、社会の勉強に向いていない子にも「好きで得意な道探し」を用意する必要があります。すし屋の経営や、資金や材料の調達の仕方などを学ぶ「すし大学」があっていい。友人でフレンチシェフの三国清三さんは中卒ですが、フランスの大学から名誉博士号をもらったというのがヒントになりました。

2013年に経済同友会として「日本の将来ビジョン2045『ミトコンドリアとカレーうどん』」といった一風変わった提言をまとめた。

日本の伝統を継承しながら創造していくことのキーワードです。世界中の食材を組み合わせる「創造性」を表しているのがカレーうどん。これに対し、日本人特有のきめ細かなDNAを表すのがミトコンドリアです。『ミトコンドリアが進化を決めた』でミトコンドリアを「生命40億年の一大オペラ」と表現しているのでピンときました。

日本人は画一的な教育を受けて個性がないといわれます。でも画一的な教育を受けた割にユニークな人材が多いということは、逆に日本がもっとユニークになれるのではないでしょうか。

この2年間は90%を政府の仕事にささげているので、農業改革の手の内を明かすような本ばかりを読みました(笑)。それでも新しい考え方や価値観を知る本を移動のときなどに読んでいけたらと思います。

(聞き手は編集委員 瀬能繁)

【私の読書遍歴】
《座右の書》
『ウィナーズ』(カーター・ヘンダーソン著、望月和彦訳、ティビーエス・ブリタニカ)
《その他愛読書など》
(1)『ぼくのフライドチキンはおいしいよ』(中尾明著、PHP研究所)
(2)『スシエコノミー』(サーシャ・アイゼンバーグ著、小川敏子訳、日本経済新聞出版社)
(3)『ミトコンドリアが進化を決めた』(ニック・レーン著、斉藤隆央訳、みすず書房)
(4)『747 ジャンボをつくった男』(ジョー・サッター、ジェイ・スペンサー著、堀千恵子訳、日経BP社)
(4)『ゼロ・トゥ・ワン』(ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ著、関美和訳、NHK出版)
(6)『ロナウジーニョ』(ルーカ・カイオーリ著、堤康徳訳、ゴマブックス)
(7)『論語と算盤』(渋沢栄一述、国書刊行会)
新浪剛史サントリーホールディングス社長らと読み、意見交換した。
(8)『2050年の世界』(英『エコノミスト』編集部著、東江一紀・峯村利哉訳、文芸春秋)
「悲観的な予言はあたらない」との姿勢が面白い。

[日本経済新聞朝刊2016年7月17日付]

「リーダーの本棚」は原則隔週土曜日に掲載します。

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