変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

PIXTA

PIXTA

「臼井さんは、誰とでもコミュニケーションがうまく取れるのですね」「どうすれば、人づきあいが上手になるのでしょうか?」などと、質問を受けることがありますが、私にも苦手な人はいます。避けたいシチュエーションだってあります。

でも仕事では、「あの人は嫌い」「こういう場は、遠慮します」というようなことは、許されません。「私は人づきあいが好き」「誰に対しても同じ態度で接することができる」と、自分に言い聞かせています。特に私は叱ることが苦手で、できれば避けたいのですが、逃げていては相手の成長や仕事の成果を妨げることになりかねません。

相手の心を動かす、納得してもらえる「叱り方」はないものだろうか? 経営者になった33歳の時から今日までの25年間、それが私の課題でした。

叱ることが苦手な理由

なぜ、叱ることが苦手なのでしょうか? 私は一人っ子だったこともあり、両親の愛情を一身に受け、ほめて育てられました。叱られた経験が、まったくといっていいほどないのです。

ですから社会に出て、ちょっと厳しい言葉を受けると落ち込み、めげる。自分はダメな人間だと思い込む「叱られ下手」の典型になってしまいました。私のような育ち方をした方は、若い世代には多いのではないでしょうか?

一人っ子に限らず、子どもに嫌われたくないから親は叱らない。両親共働きで、子育ては祖母や祖父任せ。彼らにとって、孫は子ども以上にかわいいから叱らない。そういう背景も、あるでしょう。

「叱られ下手」は「叱り下手」になる可能性が大きいといえます。叱られた経験がなかったとしても、社会の道理や物事の善悪が分かる、叱り方がうまい方もいますが、「成長させるのは、ほめるに限る!」と決めつけていると、部下や仕事仲間であっても、バランスを欠いた人を作りあげてしまう可能性があります。

「叱る」と「怒る」は別物です

叱ることを避ける人には、「叱る」と「怒る」を混同している方が見受けられます。私流の解釈ですが「叱る」のは、相手のことを大事に思うから行うのであり、「怒る」のは、腹を立てた自分の怒りを相手に向けること。

極端な話、「怒る」ことはストレスを発散させたいとか、困らせたいというような自分の目的が果たせれば、相手がそれで傷つこうが、関係ないというわけです。

一方「叱る」ことは、誰かに悪影響を及ぼしたり、迷惑をこうむった人がいるような場合に、相手のあやまちを正し、改善しようとする注意やアドバイスを示します。

そうはいっても、時には声を荒げたり語気を強める場合もあり、「怒る」と違いがないようにも思えますが、「叱る」には相手への思いやりや愛情が必ずあるものです。

(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

「叱る」ことへの抵抗感を失くすために

叱られ下手だった頃の自分を振り返ると、以下の問題点が浮かび上がりました。

●周囲を「イエスマン」で固めていた

叱られなくなったら人間は終わりです。叱られることで、自分では正しいと思っていたことが間違っていたと気づいたり、常識だと解釈していたことが非常識だとわかったり。「叱られる」ことで受ける恩恵は大きいのです。

●「打たれ弱い」という言葉を持ち出して逃げていた

初対面の人や苦手な方には「私って、打たれ弱いんです」とか、冗談交じりに「こう見えて、打たれ弱いんです」と最初に伝え、叱られないように防御していました。こういう発言を好ましいと思う方はいません。

あなたは、自分しか見えていない「自己中心的人物」として煙たがれるでしょう。心が通う付き合いなど、できるはずもありません。叱られ下手だった私は、謙虚さや素直さが欠けていたのです。それでは、本物の人間関係は構築できません。どんどん叱られて、その時はめげても、後で雑談のネタにするぐらいの心意気でいればいいのです。

効果的な叱り方

叱られることへの苦手意識が薄れてくると、叱ることへの抵抗感もなくなっていきます。だからといって、やたらと「叱る」のも困りものです。次のポイントを押さえておきましょう。

1.相手を自分だと思って叱る

自分が不快感を抱くような「物言い」は、しないことです。よく耳にする「本当は叱りたくないけれど、あなたのためだから叱る」という主旨の言葉には、「恩着せがましさ」を感じるでしょう。

また「こんなことをしていると、○○さんみたいになってしまうよ」というのは、対象が誰であれ相手とその人の二人を侮辱していると受け取られても仕方がありません。さらに「みんなが、あなたを○○だと言っている」と叱ったとしたら、相手は孤立無援。疎外感を覚えるでしょう。

こういう発言をしないためには、相手を自分だと思って叱る発想を持つことが、求められます。

2.マイナスの情報は、プラスに変換して叱る

「失敗するなんて、あなたらしくない」と決めつける物言いよりも、「あなただって、失敗することもあるよね」と共感しながら、「○○したらうまくできると思うけれど」とアドバイスをする。「○○するなんて乱暴だ」と言い放つよりも、「○○するほうがスマートだ」と言い換えたり。

「○○するなんて常識はずれだ」と切り捨てるよりも、「○○することも視野にいれたらどうだろうか?」と提案する。感情的にならず、相手の立場や言い分にも配慮する。余裕を持って叱るといいでしょう。

3.叱る時はすぐに、短く、一対一が基本

後になって「あの件だけど」とか、「そういえば、○○されて困った」などと、過ぎたことを蒸し返すのは、真意が伝わりにくいだけでなく、いつまでも根に持つ人だと、反感を抱かれる可能性があります。それでは「叱り損」です。

また、言いたいことは山ほどあっても、説教のように叱れば相手は困惑するでしょう。耳を貸さない場合もありえます。ですから、叱るべきことを絞り、できればひと言に収めるのが好ましいのです。

叱る時は、一対一を守りましょう。相手のことを思いやるのならば、大勢の前で叱って、恥をかかせる必要はないのです。叱られるうちが花です。そして人を叱ることは、自分も成長させてくれると理解しましょう。

 「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は11月16日の予定です。

[2016年10月25日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

臼井 由妃(うすい・ゆき)
1958年東京生まれ。健康プラザコーワ、ドクターユキオフィス代表取締役。理学博士、健康医科学博士、MBA、行政書士、宅地建物取引士、栄養士。33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ会社経営に携わる。次々にヒット商品を開発し、独自のビジネス手法により通販業界で成功をおさめる。日本テレビ「マネーの虎」に出演。経営者、講演者、経営コンサルタントとして活動する傍ら、難関資格を取得した勉強法も注目される。ビジネス作家としても活躍。著作は50冊を超える。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック