鮭、おいしく進化 甘塩、刺身…ご飯、イクラとともに
秋は、秋の味を食べる。
その名も秋味、とは鮭のこと。今が旬真っ盛り。どこの魚売り場でも、どこの飲食店でも、この時期はサーモンピンクに染まる。
アメリカでは「大統領選のある年は、サーモンが豊漁」などと冗談めかして言われることがある。しかしこれはあながち冗談でもないようだ。というのも、魚も人間同様にベビーブームがあるためだ。個体数が多い世代の、その子世代もまた個体数が多くなる。海へ下った鮭が成長し、また生まれた川に戻ってくるのは、ほぼ4年後。前回の大統領選のときに大勢生まれた鮭の子は、ちょうど4年後に大挙して戻ってくる。
日本の川に遡上し「秋味」と呼ばれるのは、サケ科サケ属サケの、俗にシロザケと呼ばれる種類のみである。しかし日本で流通する「鮭」には、実は多くの種類がある。
コンビニのおにぎりや、スーパーの塩鮭、寿司屋のサーモン握り、スモークサーモンなどは、ほとんどがシロザケではない。もともと在来種ではない紅鮭や銀鮭、サーモントラウト、アトランティックサーモン、マスノスケなど様々なサケ科の魚が用途に応じて使い分けられ、それらを総称して「鮭」と呼んでいるのだ。
シロ、紅、銀、トラウト…頭が混乱しそうだが、あまり気にする必要はないだろう。それぞれに良さがあるし、品質も向上している。食べ手の嗜好も時代とともに変化しているので、今人気の品種が、つまりはいちばんおいしく感じるはずだからだ。
40代以上の方なら覚えておられるだろうか。かつては紅鮭が高級で、人気の鮭だった。鮮やかな赤色は実に見栄えがし、お歳暮の缶詰セットの真ん中には大きな紅鮭の缶が鎮座していたものだ。しかし現在はアトランティックサーモンが主流。日本だけでなく世界を席巻している。
昔は産地でルイベにしたものしか食べられなかった生も、海外から刺身用のサーモンが入ってきて、一気に広がった。今やサーモンのない回転寿司など存在しないだろう。
塩鮭も、昨今は甘塩の銀鮭が大多数である。表面に塩を吹いた、一切れでご飯がもりもり進む辛塩のシャケが恋しくなることもあるが、甘く脂が乗った銀鮭は現代人の嗜好にバッチリ。値段も安定している。
鮭は、捨てるところがない魚だという。
身はもちろんのこと、イクラや白子、頭の軟骨である氷頭、腎臓のめふんまでも食べ尽くす。またカツオ節ならぬ、サケ節というのもある。だしを引いてもよし、おひたしや豆腐に乗せてもよし。カツオとは違う、鮭の風味が快い。
秋だから秋味。
鮭でもサーモンでもトラウトでも、秋は秋味がいい。
(食ライター じろまるいずみ)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。