かまぼこはアートだ! 祝い事に彩り、おいしい芸術品
「天然のいけす」富山湾の味(2)
魚のすり身を原料にしたかまぼこ。関東では板に盛って蒸したもの。関西ではそのうえで焼きを入れたものがおなじみだ。中国・四国地方では簀巻きにしたもの、そして北陸では、昆布巻きを多く見かける。
そんな北陸でも、特にかまぼこ生産が盛んなのが富山県だ。天然のいけすと呼ばれる富山湾は、あふれんばかりの魚をもたらし、富山平野の潤沢な水と相まって、食べきれない魚がかまぼこに加工されるようになる。
鉄道が発達する以前、日本列島の物流の大動脈は、北海道と大阪を行き交う北前船だった。富山はその寄港地で、かまぼこに限らず、魚の昆布締めなど、北前船の荷である昆布がよく食べられる。
昆布がもたらす風味だけでなく、すり身に「のの字」を描く美しさは、着色したすり身を昆布代わりに巻くようになり、赤や青など色鮮やかな祝儀用のかまぼこにつながる。そして行き着いたのが、鯛や鶴亀を模した細工かまぼこだ。
魚、そしてかまぼこが豊かな富山では、かまぼこは大きな塊を手にもってかぶりついて食べるという。大きくなったかまぼこは、アートのキャンバスにも最適だったというわけだ。
工場では、蒸しあがったかまぼこに、刷毛で鮮やかな色彩を描き込んでいく。その真剣なまなざしは、まさにアーティストだ。
工場の一角には、薄く広く蒸されたかまぼこのキャンバスに描かれた花火も。ほかに祭りの踊りを描いたものなどもあり、鯛など決まりものの着色だけでなく、職人が普段から描写力を磨いていることがうかがい知れる。
祝儀の引き出物として持ち帰った飾りかまぼこは、親しい人やご近所に配り、めでたさをおすそ分けするのだという。それだけに、鶴亀鯛「祝」の文字だけでなく、キャラクターのかわいいイラストまで用意されている。子供向けだろう。
食べておいしいのは当たり前。目にも鮮やかな富山の細工かまぼこを集め、手に持ってかぶりつきながらビアパーティーなどいかがだろうか。
(渡辺智哉)
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