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「不肖・宮嶋」、宮嶋茂樹さんの写真展へ行ってきた

東京・六本木の東京ミッドタウンで開催中の「不肖・宮嶋」こと、写真家の宮嶋茂樹さんの「不肖・宮嶋写真展『70年』 (Shigeki Miyajima 70th anniversary)」に行ってきた。第2次世界大戦から70年たった今の、フランス、ロシアなど欧州、日本を含む中国、台湾などアジア、世界各地の人々の微細な表情から、それぞれの「先の大戦の意味」が、写真と対話しているうち、じんわり伝わってくる。優れた作品は、そんなコミュニケーションのチャンスを与えてくれる。

宮嶋さんと最初にお目にかかったのは、もうずいぶん昔。「プレステージ」という深夜の討論番組でのことだった。若く前途有望な日本の報道カメラマンたちが集結。「20世紀を代表する戦場カメラマン、ロバート・キャパを語ろう」というマニアックなテーマで激論が戦わされた。そのメンバーの一人が宮嶋さんだった。

キャパとは、どんな人物なのか?

第2次世界大戦の戦場を舞台に活躍。その後「北ベトナム」での取材中地雷で命を落とした以外の知識を私は持ち合わせていなかった。報道カメラマンについてこれほど無知な私が、どうにか進行できたのも宮嶋さんのおかげだった。

論客たちの会話は、熱を帯びれば帯びるほど、深く、難解な方向に流れがちだ。もののわかった視聴者には、それこそがたまらなく面白いというのに、教養ゼロの私の顔には「?マーク」が誰の目にもはっきりと点灯してしまった。

そんな場面をいち早く察知した宮嶋さんは気さくな調子の関西弁で、「不肖・宮嶋の解説ですからあまり当てにせんでほしいんですが……」と、折々にさりげなくフォローしてくださった。「絶妙の通訳」は視聴者にも好評だった。そのおかげで、「難しいテーマ」にもかかわらず視聴率は思いのほか高かった。

映画で福山雅治さんと共演

その宮嶋さんが、六本木の会場でお客様一人ひとりに声をかけていた。そして目が合った!

「あー、梶原さん!」

ものすごい、久しぶりの対面だったにもかかわらず、ごく自然に、昨日の続きのような会話が弾み、話し込んでいるところへ花屋さんが立派な祝い花を運んできた。

名札を見ると……「福山雅治」?

現在公開中の映画「SCOOP!」で、宮嶋さんは福山雅治さんと「共演」していたのだ。写真週刊誌を舞台に、手段を選ばずスキャンダルを暴き立て、スクープを撮りまくる中年パパラッチ役の福山さん。その演技に、「さらなるリアル感を追求するため協力してほしい」と、大根仁監督から白羽の矢が立ったのが不肖・宮嶋さんだ。

監督は「拘置所の麻原彰晃の撮影」「絶対無理だと言われた金正日撮影」など、数々の実績を持ち、つい最近も「イクメン議員の不倫スクープ」でも貢献した「スクープ王」宮嶋を高く評価していた。

「監督には私からお願いしました。協力は惜しみません。その代わり1秒でもいいからスクリーンに自分を出してくださいと。あの天下の福山雅治と一緒に映画に出たとなれば履歴書に書いて自慢できるでしょう?」

宮嶋さんのこの言葉で、がぜん映画「SCOOP」に興味が湧いた私は、その足で六本木ヒルズの映画館で上映中の作品を見ることにした。

「もっと暴け!」――うごめく私の秘めた心

映画を鑑賞し「宮嶋さんの出演シーンをこの目で見てみよう!」という最初の思いは、「ひとまず脇に置いておこう」と感じてしまった。映画そのものが「すごすぎる!」のだ。

最近のスクープブームを、「下品」「やりすぎ」「あくどい」「最低」と非難がましく言っていた私が、実は「スキャンダラスなスクープが結構好き」という「ゲスな自分の本質」に気づかされてしまったのだろうか。福山雅治演じる、金のためならなんでもやる、利己的で、やさぐれて、情け知らずで、刹那的で、いいかげんで、でもカメラマンとしての力と知恵と、人としての情や弱さをも併せ持ったキャラクターの魅力にグイグイ引っ張られてしまう。

「もっと暴け!」。私の心のどこかに住み着いていた「悪い連中」がうごめくのだ。

「報道の倫理や人権なんてきれいごとより部数を稼げ」と言ってはばからない、吉田羊たち編集部の連中(を演じる人物)を、本来なら軽蔑すべきところだが、応援してしまう……。なんとも「危ない映画」だ。

「顔がブスで、体のいい女が最高だよね」。ヘラヘラしながら口走る「人間として最低」と蔑まなければいけないリリー・フランキー(さん演じる人物)の孤独や哀愁に共感さえしてしまう。

なんてこった……。映画館を出た時、私は深呼吸をゆっくり3度した。「いつもの、真人間に戻るのだ……」。そう自分に言い聞かせるために。

野球になぞらえて気持ちや状況を伝える傾向あり?

さて、本論はここからだ。

「本物の会話」とは、交わし合うわずかな言葉で「互いの距離感」が即座に理解できるものを言う。そのことをつくづく教えてくれる箇所がいくつもあった。

例えば、福山演じるパパラッチを「ダサい昭和のにおいがするオヤジ」との印象を強める効果的なセリフを、相棒の二階堂ふみに言わせている。

「なんで静(しずか・福山演じるカメラマンの名前)さんたちの世代は、たとえが、いちいち野球なんですか?」

言われてみれば私を含む中高年世代は何かというと「野球になぞらえて気持ちや状況を伝える傾向」があるようだ。私もそれを大学の学生に指摘されたことがある。

「会話は言葉のキャッチボールです。相手が投げたボールはしっかりグラブで受け止める。受けたボールを今度は投げる。こんなふうに、キャチボールを繰り返すのが上手な会話のコツです。ドッジボールのように一方的に攻撃するのはダメですよね」
学生「……野球はやらないんで……ドッジボールも」

こう返されたことがある。

「1球目から狙っていくつもりでいくんだぞ」――商談に臨む時、気合を入れる決まり文句として使う上司がいるかもしれないが、「?」という若者が少なくないということだ。

「ビジネスは、攻めだけではうまくない。守りも大事だ」――ここまではわかるが「とはいえ、防御率はせめて3点台の前半には抑えたいね」――これで「わかりました!」と即答できる若者はほぼいない(オヤジでも少ないかも……)。

宮嶋さんにとって一番キツい撮影現場とは?

映画館でパンフレット代わりに、「週刊SPA!」の紙面を模した「週刊SCOOP!」を販売していた。福山雅治さんたち出演陣のインタビューや、映画の裏話、映画に登場する女優たちの撮りおろしグラビアなど、書店に並べておけば「普通の雑誌」と思って買っていく人がいてもおかしくない完璧な仕上がりだ。

この中に祝・広島カープ優勝記念「カープ女子が教える、おじさんのための<野球たとえ>講座」の特集記事が載っている。これが「なんでいちいち野球なんですか」という、二階堂さんと福山さんの会話の解説につながる。

教えてくれるのが「カープ女子」という、基本的に「野球ラブな女性たち」だから「野球ファンのおじさんたち」も、「言われてみればそうかもね」と、笑って素直に聞けることだろう。

女子A:「今月のノルマは全員野球で乗り切るぞ!」とか言われてもねえ……。
女子B:仕事の手柄を、「お前、フルスイングでホームラン打ったなあ!」と褒められても、「……はあ」みたいなあ。
女子A:トラブルがあった時、先方におわびにいく担当が「抑えの切り札」と呼ばれてるみたい(笑)。
女子C:夜のホームラン王、夜の三冠王とか言うと、まさにシモ系って感じ。
女子B:デート中の終電間際に「もう1イニングだけ延長戦お願い!」って粘られたら、ゾワッとしますもんね(笑)。
(以上、文・山田ゴスメ 引用・再構成)

言葉のやり取り同様、映画の中の「スクープの仕掛けや技」も、宮嶋さんはじめ「先人たちの築き上げた知恵と工夫と実績」がベースにあるから実にリアルだ。リアルさをさらに増しているのは、「福山さんがそもそも、その辺の名ばかりカメラマンより断然腕のいいカメラマンだからだ」と宮嶋さんは言っている。

「宮嶋さんにとって一番キツい撮影現場とはどのような?」と「週刊SCOOP!」の記者に問われた宮嶋さんは、「撮れるかどうかわからない不安に常に付きまとわれている状態」と答えている。「中年パパラッチ・都城静」(福山雅治)が「標的」にカメラを向けた時の悲しげな目は、宮嶋さんのいう「不安」と無関係ではなさそうな気もしてきた。

[2016年10月13日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は10月27日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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