米味噌と麦味噌、豆味噌、何が違うの? 地域で三分割
味噌・味噌汁(2)
大塚愛のCDを聴いている。タイトルは「黒毛和牛上塩タン焼680円」である。カップリング曲が「本マグロ中トロ三〇〇円(緑色)」と「つくね70円」ときたもんだ。
タイトルとは裏腹に作品は濃厚なラブソングである。「つくね70円」の歌詞は割愛されている。その理由をばらすわけにはいかないだろう……が、割愛せざるを得ないだろうなあ、あれでは。
特に大塚愛のファンというのではない。エイベックスの回し者でもない。タイトルが気になっただけである。
以前、「くどい太めの納豆売り」というタイトルの歌を聴いたことがある。何のことはない。あの「黒い瞳のナタリー」をいじった曲だった。「くどい太めの納豆売り」「黒い瞳のナタリー」。続けて声に出して読んでみていただきたい。わかりました?
デスク沈黙 ……。
小紙文化面に登場していただいた盛岡のシンガーソングライター、田口友善さんにも食べ物関係の作品が多い。「わんこそばラップ」、じゃじゃめんを歌った「HOT JAJA」と「ROCK盛岡冷麺」がいわゆる地元三大麺関連。このほか「ROCK納豆ちゃん」「イーナ豆腐もりおか」「レゲェ石焼ビビンバ」「山形短角牛ロック」「森のそば屋」「ちいさな野菜畑」などがある。私はこれらの曲が入ったCDを持っている。うらやましいでしょうか。
私も作詞しようかな。
一、
夜の久留米をふらりと歩き こたつ屋台で飲む酒は
男ばかりのムサい酒 きっと悪酔いするだろな
せめて美人の一人でも どうしていない なぜいない
二番を考えようかとも思ったが、ばかばかしいのでやめた。誰か考えていただきたい。三番までできたらメロディーをつけよう。
デスク疑問 誰がつけるの?
エミー隊員 私がお願いしている「今夜もB級グルメで」を早く作詞してほしいんですが。これじゃあ、「哀愁の久留米――ムサ苦しい編」ですよ。
メロディーは募集する。紅白に出る。
デスク苦渋の表情 金ラメ着物はいやですからね。
本題の味噌・味噌汁に入る。やはり味噌は好き嫌いがはっきりしている。
食の方言というよりうちの実家限定のことかもしれませんが、ふろふき大根につける味噌は、うちの実家ではネギ味噌です。小口切りのネギと味噌を混ぜる、場合によっては削り節も加えるだけのものです。それが普通だと思っていたのですが…。
普通は甘味噌ですか? 上品に柚なんかのったりして? なんだかとても違和感を覚えてしまいました(下越出身中越在住の颱風4号さん)
柚味噌もいいですが、ネギ味噌も悪くないじゃないですか。本当はどっちでもいいんです、私。煮た大根はあんまり食べないんですよ。どっちかというと大根おろしやスティックにしたしゃきしゃき状態で食べるのが好きです。大阪で「大根おろしはソースに限る」という人に会ったことがありますが、私は醤油です。
い、いかん! 九州の味噌と醤油が激しいコーゲキを受けている。
野菜の甘味ならまだしも、甘い味噌汁にワカメ+豆腐……信じられない! たまり醤油においしいはずの白身の魚を浸して食すなんて……もったいない!
「普通のお醤油はありませんか?」なんて聞こうものなら、98%の確率で店員さんは冷酷な態度を示すので、最近は恐る恐る塩をリクエストしてみたりします。
そして甘い日本酒! 魚+辛口の酒が好きなのに。地元の方は「甘いだけじゃなかと。深みと味があるとよ~」とおっしゃいますが、スミマセン、口の中がねっとりしてしまってビールで洗い流したくなりますー。
しかも、せめて家では好みの味噌汁を作ろうと思っても、欲しい味噌が売っていません。いままで仙台、千葉、東京、長野の基本的に東日本にしか住んだことがなかったので、麦味噌であること自体もかなりショックでした。職場近くの定食屋で最初に遭遇したときは、ゴミが浮いてる!と本気で疑いました。
なぜ、これほどまでに味噌・醤油・日本酒の味覚に馴染めないのか分析している途中ですが、特に味噌に着目して現在のところ明らかになった点は以下の3点です。
(1) 私自身の味覚ルーツとして、実家の味噌汁は信州味噌(白)+津軽味噌(赤)のハーフ&ハーフであった。
(2) 転勤先の関東地方では原料が同様の米味噌であり、特に長野ではルーツに含まれる風味の味噌がスタンダードであったので、違和感なく過ごして来れた。
(3) 味噌に関する豊富な知見が公開されている「味噌オンライン」によれば、私の住んできたところはすべて米味噌地帯であったが九州は麦味噌のメッカである。
また、味噌、醤油、日本酒はすべて生産過程(醸造)に醗酵菌が関わっていることから、地方=気候によって生きる菌種が異なるためではないかと考え、現在は東京農業大学 小泉武夫先生の文献を参考に醗酵学的切り口から原因を探っているところです(apple-aさん)
ここでちょっとお勉強。皆さんご存じとは思うが、米味噌、麦味噌といっても別に主原料が米、麦のことではない。主役は大豆で、麹が米麹か麦麹かの違いによる。豆味噌は大豆全部を麹にしたもので作る。
九州全域と山口、広島、愛媛の瀬戸内海側が麦味噌地帯、愛三岐が豆味噌地帯、そのほかが米味噌地帯である。つまり日本の味噌の主流は米味噌で麦と豆はマイノリティーということになる。『伝統食品の知恵』(柴田書店)によると埼玉、栃木にも麦味噌があるそうだ。
九州の味噌の塩分濃度は甘口(淡色系)で9~11%。信州味噌より2%ほど低い。しかし、麦味噌にも辛口(赤系)があって、こちらの塩分濃度は11~12%であり、信州味噌とほとんど変わらない。最も辛口に分類される仙台、佐渡、越後、津軽、北海道、秋田、加賀といった味噌とも1%ほどの違いである。
従って九州の味噌の甘みを気味が悪いと思う方は赤い辛口の味噌を探していただきたい。それでも甘かったらごめんね。
九州の甘い醤油が信じられない方はキッコマーンなどをどうぞ。
あっ、隊長だ。
九州の麦味噌にはこのような食べ方もあるようなので、試していただくと「ごみが浮いている」と思わなくなるかもしれない。
タバスコマニアのデスク乱入 家に常備している辛さ2倍タバスコ、あるいはガーリックタバスコで試してみることにしましょう。味噌汁とニンニクの相性やいかに? でも、緑タバスコは色合いが悪そうだなぁ……。
愛媛ははだか麦生産日本一だそうで、味噌も麦味噌のようです。幸いうちのだんなは赤味噌OKな人なので、我が家の子供たちも味噌汁といえば赤だしという環境です。将来家庭を持ったときひともめあるのでしょうね。
赤だしといえば、回転寿司で出てくるお味噌汁ってなんで赤だしなんでしょうか。お寿司に白味噌は合わないってこと? インスタント業界の意向もあるのでしょうか。
寒い季節には味噌煮込みうどんが食べたくなります。高知の学生時代、学食のメニューに味噌煮込みうどんの文字を見つけて喜んで注文しました。出てきたのは白味噌ベースの豚汁にうどんを入れただけのものでした。当時チャブニチュードの概念を知っていれば……。
そういえば私は白味噌と麦味噌の違いがわかりません。この世は豆味噌を中心に回っているのです!(にゃんちゃん)
さきほどの「お勉強」の内容を裏付けるメールです。愛媛県民なのに豆味噌で育っている少年少女の将来やいかに。にしても、回転していない寿司屋にも赤だしは常備されている。なぜだろう。
彼女が言うには、その間の食事はすべて味噌味! ステイ先の奥様に代わって彼女が台所に入り料理を作っているときも、脇で見ていた大奥様が「ところで、その料理にはいつ味噌を入れるんだい?」。そのとき彼女が作っていたのは豚の生姜焼き。少なからず仰天したようです。ま、単純に個人的な好みの問題かもしれませんが。
ちなみに、私は味噌汁、味噌煮込みうどん以外の味噌料理は大半醤油かウスターソースに置き換えても平気です(亡命名古屋人さん)
ふろふき大根も味噌の代わりにソースでいいですか? サバもソースで煮込んでいいですか? いいんです。オリバーソースの「だしソース うすウス」付属のレシピにはサバのソース煮がありました。私、実験して拙著に書いております。
沖縄に飛ぶ。
あの~、愛知に行こうと思ってるんですが、味噌煮込みうどんの汁って飲むのでしょうか? ××××(沖縄チャンポンさん)
書き出し部分。沖縄の大衆食堂に入って「ご飯」と「味噌汁」と「おかず」を頼むとご飯が3杯ついてくるという話のことです。文末は伏せ字にさせていただきましたが、あんな濃い汁は飲まないのではないでしょうか。飲みます?
いまも手前味噌は作られている。
ドラム缶みたいなので火をおこし、大きな鍋に大豆をぐつぐつと軟らかくなるまで煮ます。ちなみにこれを「味噌豆」と呼び、えらく軟らかいその食感を楽しみつつ食べちゃったりもしました。
それを、ミキサーでひき肉状態にして、そこに塩と麹を混ぜて、はい仕込みの出来上がり。後は時間がおいしくしてくれるのを待つばかりです。
……あとね、太巻きにね、新潟はくるみ味噌が入ります。くるみと味噌と砂糖を混ぜたもの。私、東京に行って太巻き見たら、くるみ味噌がなくてびっくりしました。これが入らなくて、何が楽しくて太巻き食べますか?
このくるみ味噌、ホントにおいしいのです。私、パンにくるみ味噌を巻き込んで焼くってのを、パンレシピコンテストに出したら、じゃじゃーん! グランプリもらいました。新潟の味噌よ、ありがとう(やはぎさん)
秋田の横手でも手前味噌がまだ作られているとう話を聞きました。昔は味噌づくりの道具がどこの家庭にもあったそうですが、車庫などに入れても邪魔なのでだんだん作られなくなっているそうです。自家製味噌、作ってください。
くるみ味噌って東日本では大活躍ですね。雑煮の回でも「雑煮の餅をくるみ味噌につけて食べる」という岩手の例が登場しました。
でも太巻きにくるみ味噌と砂糖は九州人からすると衝撃の物件です。これに九州の甘い醤油をつけて食べたら一体どんなことになるんでしょう。
左党のデスク絶叫 きゃー、助けてー!
京都。
京都のお雑煮はこれでつくるのです。田楽味噌や酢味噌もこれでつくります……基本は西京白味噌に卵黄とみりんを加えて加熱しつつ練った玉味噌で、玉味噌にさらに調味料を加えて田楽味噌や酢味噌にします。関東以北の白い辛味噌で同じことをしようとすると大量の砂糖が必要になります……関東以北の人がこの味噌ギャップに気付かず、白いお味噌を探して1回はこの西京味噌だけで味噌汁を作って失敗するわけです。味見して、台所でパニックを起こします。本来は、おみおつけにするなら桜味噌などと合わせないとダメです……桜味噌だけだと、今度は恐怖の黒い味噌汁になります。なおかつ、かなり塩辛いはずです。ほどよい色合いでほどよい味に仕立てるには、赤白仲良くが京都の味噌汁の基本のようです(多田伊織さん)
そうです。私も冷蔵庫に入っていた白い味噌を見て、九州の麦味噌感覚で味噌汁をつくり、その甘さにひっくり返ったことがあります。まさに京都の西京白味噌でやっちまったんです。地上最甘の味噌ですよね。
デスクひとりごと 京都の白いおみおつけと、京都・天下一品ラーメンのこってりスープの食感が似ていると思っているのは僕だけでしょうか……。
前回の宮崎林業関係者によるチャンポンとカップ焼きそばの食べ方についての反響メール。
余談ですが、宮崎のチキン南蛮(むね肉をうすい衣をつけて揚げたのを甘酢だれにつけた後に、タルタルソースを大量にかけるのが定番。ただし、タルタルをかけない店もあるらしい)とは、似ても似つかないインチキ・チキン南蛮(東京都内のスーパーで売ってるような鳥からに三杯酢の野菜あんがかかっているやつ)は、チキン南蛮を名乗るな!(東京におけるにせチキン南蛮打倒!委員会さん)
天ぷらは醤油!カレーはソース、ついでにスプーンはコップの中!!改め、タロパパ@大阪さんからは「件の林業関係者はカップ焼きそばの湯を捨てずにソースを加え、それを飲んでいた。あれではソースラーメンではないか」との続報。やるねえ。
デスク驚愕 うえっ、本当に飲んじゃったんだ。だってタダのお湯でしょ、出し入ってないんだよ! それって「出し抜き」ソースラーメンじゃない!?
たかはし@梅丘さんから森田信吾著『駅前の歩き方』について補足。これは漫画であり、かつ当サイトに先駆けて奇行的物件の数々を取り上げたものであるから、そこんとこをよろしくということである。私、買います。
ところでまた名古屋で動きがあった。
そういえば先日、通りがかりに寄った水道橋の「あんかけスパゲティ」の店にも、確か「金しゃち」の付いた地ビールがあったような気がします。脱線しますが、その店の「あんかけスパ」は、麺を卵でくるんだタイプで、横にマヨネーズが添えられていました(ミルフォードさん)
そうなのである。我がデスクはこの情報に接するや、勇躍製造元と接触し、発売前の赤味噌ラガーの入手に成功したのである。同社の担当者は「発売前なのにどうして知ってるんですか」と驚いていたそうだが、こういうことは漏れるのである。
デスク補足 きのう、私が電話したらからなのでしょうか。ラ製造元のサイトには味噌の「み」の字もなかったのですが、きょう最新トピックスとしてサイトで紹介されておりました。ちなみに、味噌でない「金しゃちビール」は、同社の看板ブランドのようです。
はい、これが問題の物件である。沖縄チャンポンさん、我々が人柱になりますよ。
某日、私とデスクは送られてきた名古屋赤味噌ラガーのキャップをポコっと空け、グラスにドコドコと注ぎ、ゴクゴクと試飲したのであった。うらやましいであろう。あるいはうらやましくはないかもしれないが、多分、東海地方関係者以外でこの物件を飲んだ最初の人類が私たちであろう。小さな一口だが、偉大な一口である。
その日、デスクから「赤味噌ラガー到着」の報を受けた私は、周辺の同僚に声をかけた。
「試飲会やるんだけど、どう?」
するとある同僚は「間に合ってます」という一言を残して去り、別の同僚は「ええええ? ビールに味噌が入っているんですかー? あはははは」と言いつつパソコンに視線を戻した。
その中にあって果敢にも「私飲みたいです」と名乗りをあげた女性記者がいた。「面白そう」。筑後うどん祭を取材し、福岡や久留米の弱腰うどんの健闘ぶりを伝える記事を書いた記者である。「ほんじゃ、行こうか」。私たちは期待とかほかのものが色々まざった複雑な気持ちでデスクやエミー隊員がいるフロアへと向かったのだった。この女性記者の髪形がベティーちゃんに似ているので、これからはベティー隊員とよぶことにしよう。
テーブルに問題の物件が6本置かれている。私たちは最初、遠巻きに物件を見守っていた。その瞬間の写真がこれである。後ろ姿が引き気味に見えません?
「よし、かかるぞ!」。私は意を決した。飲むしかなかろう。
グラスに注ぐ。赤だし味噌汁を薄めたような、ではなくベルギービールのような琥珀色の、ではなくやはりどこかに赤だしの雰囲気をたたえた液体が流れ出てくる。しっかりとした泡。
まず全員でにおいをかぐ。「味噌、味噌です、味噌!」と叫んだのはベティー隊員だった。「うーん、味噌かなあ」とやや首をかしげたのはデスクだった。酒を飲まないエミー隊員は「やっぱり味噌ですよね」とささやいた。
私の感想は「味噌が入っていると思えば味噌の香りがする。入ってないと思えば味噌のにおいはしない」というものであった。要するに味噌の香りがするようなしないような。で、味はというと、これがおいしいのよ。原材料の関係で発泡酒となっているが、アルコール度数は6%。しっかりとした、重厚な味であった。「赤味噌と麦芽のうまみを融合して新しく生まれた味わい豊かなお酒です」というのがメーカーのうたい文句である。なるほど。
送ってもらったからおべんちゃらを書いているのではない。これは全員の感想である。330ミリリットルで441円。自販で売っている発泡酒とは値段の点でも違っている。
デスクは言った。「風呂上がりにガブガブ飲むタイプじゃないですね。イギリスのパブなんかみたいに、あまり冷やさないでじっくり飲むビールですよ」。デスクもたまにはいいことを言うのである。
にしても、どうしてビールに赤味噌入れようって考えたんだろう。
デスクとベティー隊員は昔からの知り合いだった。誰それはいまどうしてるとか、あの人は何やってるんだろうとか、私にはちっともわからないことばかり話し始めた。
口をはさむ理由もないのですきっ腹のままビールをちびちびやっているうち、気がつくと私の頬に赤味噌に似た赤みが差してきたのだった。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。