大バクチだったシイタケ栽培 秋の味は「神様の贈物」
ハワイのレストランに入ったときのこと。メニューの中にどうしても読めない単語があった。
「しゅ?しっと?しっていく?」
観念して店員さんに尋ねてみれば、なんのことはない。そのままローマ字読みすればよかったのだ。
「shiitake」
つまり、シイタケ。ニッポンの誇る、最高のキノコのひとつである。実はシイタケは、海外でもそのまま「シイタケ」や「シイタケマッシュルーム」として通用する。食感と味わいの良さから、最近ではアメリカでも栽培が盛んだという。
人類とキノコの歴史は古い。イタリアではなんと古代ローマ時代に、すでに多くのキノコ料理が存在したという。中国では秦の始皇帝や漢の武帝、玄宗皇帝も霊芝を求めていた。マヤ遺跡からも縄文遺跡からも、キノコ型の遺物が出土しているという。
というと世界中でキノコを食べてきたように思われるが、そうではない。実は人類はキノコ好きの民族と、キノコ嫌いの民族に分かれるのだそうだ。上記の中国、イタリア以外では東欧、北欧、ロシア、ドイツ、フランス、スペインなどが、キノコ好き民族。一方で、アングロサクソンの料理にはキノコの影が薄い。
万葉集や古今和歌集などにキノコを詠んだ歌をいくつも載せるような日本はもちろん、キノコ大好き民族である。
何もせずとも森や草原に勝手に生ずるキノコを、時に人は「神様の贈物」と称してきた。しかし神様は気まぐれ。いつでも食べたい時にキノコが欲しい。そう思ったキノコ好き民族は、人工栽培することを思いつく。
フランスではマッシュルーム、日本ではシイタケの人工栽培が、ちょうど同時期の17世紀頃に始まった。
ところが当時のシイタケ栽培は、なんとも驚きのやり方だった。木に切れ目を入れて外に置いておき「運良くここにシイタケの胞子が飛んできますように」という、風まかせ運まかせの大バクチだったのだ。
もちろんこんなやり方では安定した収穫は望むべくもなく、「シイタケが出なければ、自分が村を出るしかない」と苦悩する農家も多かった。昭和17年に「シイタケ菌の駒をホダ木に打ち込む」という栽培方法が完成し、ようやくシイタケ栽培は安定した。その後次々と他のキノコも人工栽培に成功していく。
キノコはうまみ成分が非常に強い割に、味わいは淡白であるため、様々な食材と相性が良い。せっかくキノコ好き民族に生まれたのだ。いろいろな秋の味覚とキノコの組み合わせを楽しもうではないか。
(食ライター じろまるいずみ)
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