餅はまくもの、食べるもの? お祝いごとに欠かせない
このごろのお餅(2)
さて、今回もお餅の話である。
前回「餅のなまこ」が登場し、私はどんなものだろうと思って農文協から出ている『聞き書 ふるさとの家庭料理』第5巻「もち 雑煮」を精査した。すると富山県氷見市では細長く平ぺったいなまこ形にした餅を「とぼ」というと書いてあり、岐阜県恵那市でも豆や砂糖を入れたなまこ形の餅を切って焼くとある。京都市北区ではなまこ餅を「のし」と呼び、大阪府河内長野市では「さお」と名前が変わる。明渡さんのメールにあった「ねこ」もまた同じ物の異称であろうか。
要は1個ずつ食べるのではなく、必要に応じて切って焼いたり油で揚げたりして食べる大型の餅である。
「ねこ」は和歌山だけではなく、大阪にも昔から生息しているらしい。
終いの方には、あん・よもぎ・青海苔・大豆・海老・砂糖などの色物をつきます。住み込みの従業員が大勢いたころは、丸餅のなかに硬貨を入れて元旦の雑煮餅にしました。
焼豆腐・小芋・雑煮大根(大阪四十日大根)の入った、もちろん白味噌の雑煮です。2日目は水菜の澄ましで焼き雑煮です(豊下製菓の豊下さん)
明渡@奈良県さんからご当地の「ねこ」の写真を送っていただいた。写真で見る限り、前掲書に出ていた「なまこ餅」と寸分違わない。ということは同じ形状の餅を見て一方は「ねこに似ている」と思い、他方で「なまこそっくり」と考えたわけである。
デスクにっこり 予想的中!
そんな大阪の正月行事も……。
しかし、結婚以来繰り返してきた大阪人の配偶者との年越しでは、大晦日にはおせちをちっとも出さないのです……おせちを元旦まで食べない理由を問うても、「もともと大晦日は新年の準備で忙しいから、何も特別なことはせえへんなあ」という要領を得ない答えしか返りません。忙しいなら今ここに用意のできているおせちを食べる以上に効率の良いことはなかろう、とも思うのですが、どうも違うみたいです。
しかも義親はどちらも商都・大阪の中心部の住民、さらに片方は商家の出ですから、年取りをしない方の典型なのですね。私も長年の蓄積でかなーり関西化しておりますが、ことお正月に関しては幼時体験が強く出るようです。
大阪の家庭のお正月といえば……「祝い箸」が今なお面白くてしかたありません……いよいよ本当に年が明けておせちを食べる際、紙製の箸袋に「〇〇」「××」と家族ひとりひとりの下の名前を書いて各人が使い、中央の取り箸の袋には「海山」と書いて使うのです。なおお箸は両端を丸く削った白木のものが箸袋に入っており、割り箸に準ずるような量産品だと思います。
これを最初に知ったときは、もう本当に驚きました。「日本ではじめてのお正月に触れる外国人」にでもなったような気分でしたよ……十有余年が過ぎた今でも、最初のころと同じように珍しくて仕方ないのです。「いったい何年経ちましたんや」と言われますし、自分でもそう思いますが、まあ面白いです(日野みどりさん)
豊下さんには大阪オフ会の幹事役をお願いし、日野さんも名古屋から参加される。明渡さんも見えるので、当日の皆さんのお話が楽しみである。
結婚して相方の家の正月行事にびっくりというのは珍しくないらしい。
それが、夫は山形なんですけど、結婚して初めてのお正月、元旦に「心をひきしめて嫁をしよう」と起きていったら、あれ? 普通のごはんで普通の朝なんですよ。どういうこと? と思ったら、よく分かんないけど、正月は普通2日にお餅スタートシステムになってて、その2日だってお雑煮もめんつゆに青菜と油揚げをゆら~っと浮かせたくらいのあっさりタイプ。同じ日本とは思えない違いに、びっくらこいたのでした。でも、今となっては「お嫁さん」にはとてもらくちんなシステム。いいです(矢作ちかぶーさん)
私の実家では「煮切り餅醤油味、具は豆腐と白菜と赤目芋」でしたので、カルチャーギャップを感じまくりました。
ちなみに、その家でお雑煮を食べるのはお義父さんだけで、新潟出身のお義母さんは「私は好きじゃないけん」ときな粉餅を食べてました。
大学のときの香川県民の友達に、「白味噌あん餅雑煮」の話を聞いたとき以来の衝撃でした。やはり海外は文化が違うのでしょうか?(にゃんちゃん)
元旦にお餅が登場しない山形。東北はお餅好きというのが定説だと思っていたのだが、場所にもよるのだろうか。おっと、こんなメールが来ている。
長野には「餅なし正月」が結構あるようです。長野以外にもあるのですか? どなたかご存じないですか? 結婚するときは、いつでも制約なくお餅を食べてもいいか聞いてからにします(ゴンタさん)
長野県関係者の皆さん、読者のみなさん、ご存じの方があればメールを。
話は戻る。南予地方の魚の煮汁に絡めたゆで餅というのは、文字通り魚を煮たあの甘辛い煮汁を使ったものなの? それって雑煮? などと言ってはいけない。戦国時代の茶会記に懐石料理の一部として「餅の煮しめ」が登場するそうだから、好き嫌いは別にしてこれはこれでいいのである。
デスク驚愕 「煮しめ」ちゃうの……。
ところでお餅は食べるだけではない。ときどき撒く。
しかも正月のストックがなくなるころに、うまい具合に自治体でやる初午の餅ほり(もち投げとは言わん)があるので、モチ再チャージ。またしばらく食べ続けます(和歌山で生まれて札幌に暮らすちろこさん)
厄年の人は自分の厄をみんなに少しずつ分けて持って帰ってもらおう、還暦の人は幸せのおすそ分けという伝統行事で、普通の白い餅のほか、赤や緑で落書きされたものがまかれ、雪がないとドロドロになりながらみんな必死になって拾っています。3メートルほど上から投げられますので、油断して頭にでも当たろうものならケガしちゃいます(たまのすけさん)
思い出すなあ、懐かしいなあ、私も子ども時分、近所の神社での餅まきに加わっていた。目当ては餅そのものというより、餅に隠された小銭であった。大人にまじって必至に拾ったことを思い出す。そうそう、新築の棟上げのときも小銭内蔵餅は撒かれたものであった。子どもの情報ネットワークに「どこそこで棟上げがある」というのがひっかかると、家に電話がなくともネットがなくともあっというまに伝わって、棟上げをする家の前には全然関係ない子どもたちが群がっていたものであった。
それにしても、直径70センチもの餅が3メートルも上から降ってきて、ギセイシャが出ないのは不思議である。
どろどろになった餅余話。
どこかのおじいさんのように確信犯的にどろどろ雑煮を作らなくても、様々な事情で餅はどろどろになるのである。しかし、神棚に異様に長い時間をかけてお参りするお父さんて、どこか懐かしい日本人のにおいがして、好き。
餅のおいしい焼き方講座。
これで焼き網を何度も買うこともなく、オーブンを調節しながら焼くことも必要ありません。お試しください。あまりの焼き上がりの美しさにほれぼれします。
ちなみに家ではフライパン&クッキングシートで西京漬、粕漬けなどの魚も焼きます。これも焼き網やグリルよりも安全・簡単においしく焼けまーす(ちこさん)
おーし、やってみよう。フライパンにクッキングシートを敷いて餅を焼き、スライスチーズで巻いて食べよう。拙宅ではホットプレートで焼き肉をやった折、餅が登場した。バターをのせてプレートで焼いたのだが、みんなに好評だった。お父さんは飲むのが忙しかったので食べていない。
デスク涙声 そんなに焼き網をしいたげないでください。僕は焼き網愛好者なんです。ぐすん。スーパーで買ってきたべたべたの揚げ物なんかも焼き網でちょっとあぶればほどよく油が落ちでカリカリになります。好物の厚揚げも一度洗って油を落とし、焼き網で焼けば香ばしさが出ます。お餅だって網で焼くからこそきれいに膨らんでくれるんじゃないですか。誰か焼き網に愛の手を……。
疲れました? もうちょっとね。
さて、角餅、丸餅の境界線問題である。こんなメールが来ている。
夫の実家は名古屋ですが四角い餅のようです。ただやはり中部地方は婚礼など尾張的文化(おそらく桃山文化)で共通点が多い(加賀前田も尾張人、越前松平は三河人)せいか雑煮は醤油汁ベースというのが似ています。
ただ加賀は宗教・藩政の厳しさからか、餅以外何も入れないのが普通です。たまにテレビで豪華な金沢の雑煮というのを見ますが、あれは特権階級のものでしょうね。見ていて辟易します。実態と伝えられることが違うというのは(横浜市 YKヒルビリーさん)
名古屋の人と結婚していたころ、叔母からもらった丸餅を元ダンナさんの実家に持って行ったら、80代後半のおばあさんと60代半ばのお父さんが不思議そうな顔をしていました。お二人は岐阜県出身で戦後名古屋に引っ越したそうです。
三重県と愛知県の境には西から順に揖斐川、長良川、木曽川という大きな川が流れています。三重県でも木曽川より東側の木曽岬町は言葉もほぼ名古屋と同じです。大きな河川が文化の境界線になる可能性は高いと思われます。
木曽三川をさかのぼっていくと福井―石川ライン、琵琶湖東岸ラインに結びつくのでは(ハイファイ堂 二宮さん)
結論から書こう。伝承料理研究家、奥村彪生さんが作った「日本の雑煮文化圏図」というものがある。それによると角餅丸餅の境界線は糸魚川から西にぐっと湾曲して金沢に至り、そこから南に高山―岐阜―彦根―四日市―名張の東―新宮の西というラインである。我々のいう琵琶湖東岸ラインである。二宮さんの推論通り、木曽三川が重要な意味を持っている。その東が角餅を焼く文化圏なのだが、同じ角餅文化圏に属しながら岐阜、愛知、三重、静岡だけがなぜか角餅を煮るのである。やっぱり東海地方はよそと違うことしよる。日野さんの驚きは正しかった。
この地図は奥村さんが各種のデータを基に作図したもののようで、いつごろの文献、データによるものかわからない。北海道と沖縄は除外されている。
前回のメールにあった「山形県でも酒田だけは北前船で京文化が流入したので丸餅」という点もこの地図で裏付けられた。
私たちは今回、ネットの力を使って最新の境界線を明らかにしようとしている。奥村さんの地図とぴったり重なるのか、それとも思わぬ展開になるのか、スリルとサスペンスなのである。
餅の購入量、消費量を総務省家計調査で調べてみようと思っていた矢先、こんなありがたいメールである。
▼購入数量のベスト10は以下の通りでした(単位:グラム)
(1)富山市 4,734
(2)さいたま市 3,906
(3)横浜市 3,740
(4)福井市 3,726
(5)京都市 3,654
(6)札幌市 3,636
(7)新潟市 3,581
(8)金沢市 3,565
(9)岐阜市 3,545
(10)北九州市 3,493
全国平均が2,819グラム/年間 なので、富山市は全国平均の1.7倍ほどの餅を購入している計算になります。
▼年間支出金額でみると(単位:円)
(1)金沢市 4,055
(2)京都市 3,749
(3)富山市 3,720
(4)福井市 3,487
(5)岐阜市 3,277
(6)名古屋市 3,210
といった顔ぶれが上位にランクインしています。
富山市は、数量・金額ともに非常に高く、文句なしの「餅消費都市」だと言えそうです。金沢、福井も同様の傾向で、北陸地方が頭ひとつ抜けている印象です。京都も上位(特に金額)にあります。
また、さいたま、横浜の首都圏都市の購入数量が多いことにも注目です。ちなみに、東京区部は購入数量で11位と、これも上位です。
消費量が多い都市の中には、「餅」と密接な関係のある生活催事があり、年末以外にも「餅」が登場する機会が多いところがあるのではないでしょうか? 富山はもち米の名産地で、冠婚葬祭や人生の節目に餅を贈る習慣があるそうです。
(12月8日は「針せいぼ」といって、お嫁さんの実家から嫁ぎ先に「ながまし」という餅を贈るという習慣があると紹介されています)
▼逆に、購入数量(グラム)の少ないところは
(1)鹿児島市 1,175
(2)那覇市 1,430
(3)仙台市 1,771
(4)高松市 1,782
(5)山口市 1,796
(6)大分市 1,881
(7)徳島市 1,910
(8)佐賀市 1,988
(9)秋田市 2,032
(10)松江市 2,036
あたりが上位です。支出金額(円)で見ても、
(1)鹿児島市 1,166
(2)仙台市 1,176
(3)那覇市 1,212
と上位は同じです。鹿児島市は全国平均の40%強くらいしか「餅」を購入していない計算になります。また、東北の中で仙台市が数量・金額とも低位にあるのが気になります。自家製が多いのかもしれません(ミルフォードさん)
富山出身の同僚に聞いてみた。「年末に大量に餅をつき、『こんもち(寒餅)』、つまりおかきにして縄でしばり、天井にだーっとつるす。それを春まで食べる。年間を通じて家族が帰省するとみやげに餅をついて持たせる。お盆でも餅」という話だった。
餅大国の呼び声高い岩手からのお餅な生活メールを待ちたい。
話は変わるが、ケータイを充電器につないだまま家を出てしまった。ケータイなしの1日を送り、「電話やメールくれた人に早く返事をしなくちゃ」と心急きつつ夜遅く帰宅してケータイを見たら、1本の電話も1通のメールもきていなかった。
俺ってケータイいらない人なの?
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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