北国ではおでん専門店は希少? 鍋料理が脅かす存在感
おでん再論(2)
まずはおわびをしなければならない。紹介しきれないメールが続出しそうなのである。掲載されなかったからといってめげないでいただきたい。つまらなかったのではなく、全体の流れってものである。ご容赦。
今回は長い。が、きっと読み応えがあると思う。手元にお茶、コーヒー、一升瓶などをご用意ください。
ここでデスク乱入 よーし、飲むか――じゃなくて読むか。
まずは北海道のおでんから。次第に南に向かう。
まぁ、山菜類はおいしいですよ(ぺんぱらさん)
函館はショウガ味噌。対岸の青森と同じである。青函連絡船以来の仲なので甘納豆入り赤飯、栗の甘露煮入り茶わん蒸し同様、味覚を共有しているのであろう。
ぺんぱらさんのメールで、北海道のおでんでは山菜が活躍していることがわかる。おでんにタケノコというのはほかの地域でも見かけた記憶がある。
旭川や帯広でおでん専門店はほとんど見かけないらしい。青森ではどうか。
子供のころの記憶なので実際に青森で一般的なのかどうか自信がありませんが、変わりおでんダネとしては「つぶ貝」がありました。大振りなつぶ貝が貝殻ごと出しに浸かっていて、足の部分に串を刺してくるくる巻きながら身を取り出して食べるのがおでんのときの楽しみ、という記憶です……タネにつぶ貝がないと聞くと、一気にモチベーションが下がってしまいます。つぶ貝おいしかったなあ。内臓のところがうまいんだよね。
あと、縁日のときにはコンニャクとさつま揚げの「味噌田楽おでん」が定番でした。まあ、あんまり特別なものではないでしょう。
そういえば、おでん用の焼き目が香ばしいぼたん竹輪がおいしいなあ。竹輪自体は全国どこでも製造していると思うのですが、地元製造の竹輪に愛着を感じますね(フジオ 埼玉県 会社員さん)
青森市のおでんには新鮮な魚介類が多く採用されている。中でもホタテと並んでつぶ貝は定番である。そして函館同様タケノコ、フキが入るのである。戦後、青函連絡船の発着場近くに闇市がたった。冬は寒い。連絡船を待つ人は凍える。そこで闇市で体が温まるショウガ味噌をつけたおでんが登場した。
ぼたん竹輪は初出。何ですか、それ。
デスクはてな 何だろう、それ?
縁日の「味噌田楽おでん」は、普通? それとも珍しい?
新潟はどうだろう。
でも冬はおでんより鍋でしょう。おでんは最後に雑炊ができませんから(新潟の sodeさん)
このメールを待っていた。私はおでんが日常の食べ物になっていない地域にはそれに代わる食べ物があるのではないかと考えていた。すなわち鍋物である。北海道から東北にかけて様々な鍋物の名前が浮かぶ。石狩鍋、きりたんぽ、せんべい汁、義経鍋などなど。
やはり鍋物は北の食べ物であり、北ではおでんの存在感は希薄である。だっておでんでは雑炊できないもん。中にはやってる方がおられるかも知れないが。
逆におでん常食地帯の静岡に著名な鍋物はあるだろうか。味噌おでん地帯の愛三岐は鍋物地帯であろうか。
その辺に重要な鍵が隠されているような気がする。後でこの点を考えるのに格好なデータを含んだメールを紹介する。
福井。
海外に住んでいる今もおでんには里芋です。でも、アメリカでおでん種はとても高いんですよね(根無し草さん)
福井の芋は里芋で決まりのようである。金沢で食べていたおでんのことを思い出してみると、芋はジャガイモであったような気がするのだが記憶違いだろうか。
青森がつぶ貝なら金沢はバイ貝。おんなじもの? それと前回のおでん編でも書いた「かに面」が出色であろう。
おでん王国しぞーか。第1部で登場したあの物件が出てくる。思い出していただきたい。
串に肉片が3~4つ刺してあり、一見レバーかしらん?と思わせる風貌。これが「ふわ」という名称で、店のおばちゃん曰く「牛の肺」なんだそうです。口に入れると文字通りふわふわとしており、美味しいスポンジ(?)のような感じです。臭みもまったくなく、真っ黒い出し汁をたっぷり吸って非常に美味でした(長野県上田市 べっぷさん)
新井由己さんの『とことんおでん紀行』にも登場する「ふわ」である。関西の「ころ」「さえずり」に匹敵する個性派であろう。
続いて岐阜。
岐阜は里芋である。ショウガ天というのは紅ショウガが入った練り物であろうか。それはともかく岐阜とくればお隣は「赤棒」の愛知県。驚愕のおでん種が登場。
このおでん種の両方とも、当然とは思いますが、出し汁に溶け出さないような工夫を施しているそうです。確かに出し汁は濁っていません、でもしっかりおでんとして成立しています(島野さん)
島野さんは果たしておでんの「お好み焼き」と「たこ焼き」を食べたのだろうか。実食されたのなら、オフ会でぜひ報告を聞かせていただきたいものである。
大阪と京都から。
伝統を重んじる正統派関東煮(かんとだき)にしか入りませんが、石川早生(南河内の石川流域の名産品で、なにわの伝統野菜。海老芋と棒鱈を煮た、京都の芋棒の海老芋もこれです)の関東煮は最高だっせ。石川早生の頭(がしら:頭芋)を食べやすい大きさに切って入れることもありますなぁ。もちろん馬鈴薯も定番具材ですが、関東煮がおばんざいとして定着する以前より、日本芋食文化の芋は里芋系やと故中尾佐助先生も言うたはります(ほんまかいな)。
梅焼は固いはんぺんやのうて、すり身と卵を使った梅鉢型の柔らかい甘口の玉子焼きです。
合成着色料が嫌われだしてから見かけなくなりましたが、名古屋で赤棒と呼ばれている物件や、赤白青の三色団子風天ぷらは子供のころの好物だったですね。
それから、九州で「塩鯨」言うのが戻す前の「ころ」やなかったでしょうか?(豊下製菓の豊下さん)
河原町三条ちょい上って西へ入ったとこにあった大衆的な居酒屋、まだあるんやろか?(栗コロッケさん)
関東煮に入る芋は里芋。海老芋といわれるものも石川早生という品種の里芋である。ふーん、そうだったんだ。別物かと思っていたのである。
梅焼ははんぺんではなく卵焼き。ふーん、そうだったんだ。黒門市場のおばちゃんに聞いたら「東京のはんぺんみたいなもんやね」という答えだったのだが、あれは材料・製法のことではなく「おでん鍋における地位」みたいなことを言っていたのね。これで納得。
広島。
●色物の具 赤棒なるものはありませんが、赤や緑の丸い練り製品ならあります。今日この(おでん再論)文章を読む前に晩飯を食べたのですがおでんでした。そこに入っていたのがちょうどミートボール大の赤い物体。材質はおそらく赤棒などと同じものだと思います。もちろん赤だけでなく茶・緑・白などもあります。
●おでんの芋 ジャガイモです!!!(HAMANさん)
広島まで「ころ」圏。しかし芋は里芋ではなくジャガイモ。どうも広島辺りで関西文化と九州文化がぶつかり融合する。「おばいけ」は東京でいう「さらしくじら」のこと。九州では「おばやけ」。普通は酢味噌で食べるが、おでん種にもなるのか。
瀬戸内海を渡ろう。
香川の(実家の?)つゆはもっと黒くて濃いです。何の種が入っているか見えないので、箸で鍋中探ったものです。実家では余ったつゆを冷凍し、次のときにも使っていたのでどっかのラーメン屋のつゆばりに深い味になっていたはず。うどんのつゆは薄いのに~。
おでんに付けるのは辛子味噌です( とりあえずうどんこさん)
大根、コンニャク、厚揚げ、ジャガイモ、天ぷら、すじ、竹輪くらいはよく見るラインナップです。出しで煮てあり、甘めの味噌だれと辛子がそばに置いてあります。お客はうどんを待つ間に自分で好きなものを取って食べてます。レジは基本的に自己申告じゃないかな。「おでん3本」とかって(にゃんちゃん)
おでんの食べ方も様々である。専門店で食べるところもあれば、あれは家で食べるもんだというところ、そして香川や愛媛ではうどん屋さんで食べるのが定番のようである。確かに私も高松のセルフうどんの店でおでんを食べた。「おでん」という文字はもっぱらうどん屋さんの店先で見たものである。
牛肉が入るというが、どういう形で入るのだろうか。串刺し?
実は土地によっておでん界に参入する動物系に変化が見られる。東海地方の「もつ」や「ふわ」。関西以西の「牛すじ」や「ころ」「さえずり」「おばいけ」といったくじら系物件。そして九州では別の動物系が出現する。
それと他には鶏肉を入れると聞きました。でも手羽先派と手羽元派とぶつ切り骨付きカシワ派と三つ巴状態ですね。いずれも煮込むとトロトロになって骨からいとも簡単につるんと取れてその味ときたら……となるそうです(佐世保の西尾さん)
私は九州における「ころ」の存在を知らなかった。だが久留米の隣町では盛大に食べられているようであるから九州北部もころ圏ということになるのだろうか。豊下さんのメールにも出てきた。「塩くじら」についてご存じの方はお教えを。これが九州「ころ」ではないかという説がある。確かに九州には塩くじらなるものがある。私も見た。でもおでんとは結びつかなかった。どうも結びつくものらしい。解明すべし。
先月、久留米に帰ったとき姉がおでんを作っているところを見た。かしわ(骨つき鶏)がごろごろ入っていた。福岡のおでんは鶏肉で特徴づけられるのかもしれない。
熊本。
おでんには必需品ですし、白味噌仕立ての里芋入りの味噌汁を味わうときは私にとって至福のときです。ただ、調理時にぬるぬるすると言って、家人は嫌っているのが残念ですが(立花さん)
熊本、少なくとも立花家では、おでんに里芋。ほかの方はいかがだろうか。
北海道から九州まで一気に巡ってきた。お疲れのことと思う。だが、もう少しおつき合い願いたい。ミルフォードさんから貴重な情報が届いている。
(1)石川 79.6 (2)島根 51.2 (3)沖縄 43.2 (4)福井 26.5 (5)富山 25.0 (6)宮崎 23.1 (7)鳥取 19.6 (8)東京 18.8
「電話帳に番号を載せたくない」「載せる必要がない」「屋台だから電話がない」などいろいろな事情が背景にあることや、香川(うどん屋)や久留米(ラーメン屋?)のように、看板の違う店でおでんが一般的に食べられている地域もあると思うので、必ずしもおでん食の実態を現してはいないと思いますが、傾向はつかめると思います。
全国平均が8.9なので、トップの石川には実に全国の約9倍の「おでん屋」があるということになります。確かに、金沢にはたくさんの名店がありました。
島根の松江も「国際文化観光おでん都市」の名誉ある認定を受けておられます。
確かに、沖縄もおでん屋が多かったです。福井・富山の北陸勢や山陰勢の鳥取が上位に食い込んでいます。
逆に、店舗数が少ないのは、
(1)山梨 0.0 (1)佐賀 0.0 (3)熊本 1.1 (4)千葉 1.2 (5)福島 1.4 (6)群馬 1.5 (7)茨城 1.7 (8)鹿児島1.7
といったあたりです。山梨、佐賀は「ゼロ」です。熊本、鹿児島も少ないようですので(九州での)宮崎の突出ぶりが余計に目立ちます。福島、茨城、千葉あたりも地域的にはつながっています。そういえば、新井さんの『とことんおでん紀行』には、千葉県の館山でおでんが食べられる店を尋ねたらコンビニを紹介されたというエピソードが載っていました。
いかがであろうか。北陸・山陰、宮崎、沖縄、東京がおでん屋集中地帯。なかでも石川県が突出している。金沢には「百万石おでん都市」の敬称を捧げよう。「おでん王国しぞーか」と書いたが、石川こそおでん王国である。松江の「国際文化観光おでん都市」というのは「偏食アカデミー」で松江をとりあげた回の見出しである。よく覚えていましたね。
反対に東京周辺部と宮崎を除く九州は非おでん屋地帯のようである。
実はおでん専門店の粗密をVOTEで明らかにしたいと考えていた。電話帳から読みとれる傾向とVOTE結果は果たして一致するだろうか。たぶん一致すると思う。
デスク納得 確かに千葉におでん屋は少ないです。おでんは東京のお店か自宅で作って食べるものですね。
今回も長くなって申し訳ない。一度全国を俯瞰しておく必要があると考えたからである。前回「紹介する」という約束をしておきながら積み残したメールをまた積み残してしまった。来週はきっとね。
最後はこれ。
では、名古屋の方にお尋ねしますが、あのペンクの中に「ゆで卵の砕いたやつ」が入っているのは何というものなのでしょうか? そしてペンクの丸いのと普通のはんぺんの色した丸いのと、薄緑の丸いのが串に刺さった「3色団子」のようなやつは何というものなのでしょうか?
それから先日「愛の嵐~風速2004メートル~」吹きすさぶ中、ダーリンと名古屋市内の錦3丁目というところで強風、もとい京風おでんなるものを食したのですが、「湯むきトマトの炊いたん」がコースメニューとして出てきました。これは京風ならではのメニューなのか「名古屋メニュー」なのかどっちでしょう? それとも、出しで煮たトマトは全国区のメニューなのでしょうか? 知らないのはオレだけ?
あと、沖縄地方の方に質問ですが、オレとダーリンはよく沖縄にバイクを転がしに行ったりします。で、春夏秋冬いつ行こうが、コンビニでおでんを売っているような気がするのはオレの錯覚ですか? たしか、7月に行ったときもおでんが売られていたような。だとしたら、沖縄の人たちはものごっついおでんを愛しておられるのですね。なぜ、沖縄県民にかくもおでんは愛されているのでしょう?(西荻の怒髪天娘さん)
どなたかご存知?
ではこれで、バイバイキーン!
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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