はんぺんは白か黒か? 赤棒って何? ご当地おでん種
おでん再論(予鈴)
八戸せんべい汁研究所の皆さんが2004年11月13、14の両日、東京の物産展でPR活動をするためにやってきた。その前夜、私は皆さんと晩ご飯を食べた。
いろいろ面白い話が出たのだが、なかでも「義経鍋」の話は秀逸だった。突如として新たな取材ターゲットが浮上した形である。同席していたデスクは鼻息も荒くその詳細を聞いていたが、全貌が明らかになるにつれて鼻息はますます荒くなり、ついには肩で息をしながら「それ食いたいです。食いたい」を連発していた。きっと現地に行くことだろう。デスクの自腹が続くかどうか心配である。
デスク興奮 ネットで検索したらいろいろ亜種もあるみたい。全国各地、形いろいろ、食材いろいろ。好奇心わくわく。
翌日、デスクが木場の物産展で行われた「おふるまい」の模様を取材してきたので、ご参考までにその写真を掲げる。どうして女性ばかり撮ったの?
デスクきょとん えっ、そうでした? 意識はしてなかったんですけど、やっぱ本音というか本能が出たのかなぁ?
で、八戸の皆さんから「普通のものでは喜ばれないだろうと思いまして」という言葉とともにお土産をいただいている。このようなものである。
中でも「鯖缶」は三林京子さんもご賞味のスグレモノで、私も八戸に行くと必ず買う物件である。その辺の鯖缶とはちょと違う。
酒は中身もさることながらラベルがレアである。
せんべいの耳を揚げたものもある。ビールの友である。
サキイカもうまいのである。歯の丈夫な人の友である。
前回紹介しきれなかった「油揚げ」に関するメールからいってみよう。
両端を切り落として使えば俵型にしても三角にしても両端サイズのものは作れますが、真ん中部分が筒型に残ってしまう……と考えあぐね、結局東京に来てからはいなり寿司を自作できない生活です。長方形の油揚げしか売っていない地域の人がいなり寿司を作るときどうしているのかとても気になります(中村さん)
1 一般的に知られているであろう「長方形」とは、およそ8センチ×16センチくらいで、袋に入っている場合は1枚または2枚。大阪では「あげ」とか「うすあげ」とか言う。
2 一般的に知られているであろう「正方形」とは、上記長方形の半分、8センチ×8センチくらい。袋入りの場合は4枚入り。大阪では「すしあげ」か。
3 問題の名古屋の長方形。3センチ×6センチくらいで、5-6枚程度が袋に入っている。このサイズのものを積み上げた形で袋詰めしてあるので、6センチ×3センチ×10センチくらいの立体感ある形状になっており、慣れない者には油揚げの袋に見えない。このへんが驚きの源かと。「転勤族の妻」さんがおっしゃっているのは、おそらくこれのことだと思いますが。
コンビニには極限まで絞り込んだ必要最小限の商品しか置かれないと聞きますが、私が引っ越してきてすぐに行った最寄りのコンビニには、このタイプだけがあったんですよ。上記1、2は置いてないんですよ。それで驚いたんですよ。はい。
この油揚げはたぶん、いなり寿司/おいなりさんにはしないのではないでしょうか。素人判断ゆえわかりませんが、とりあえずご安心下さいデスク。
なお、これを小口切りにすると味噌汁の具にちょうどよい大きさになるので、それは便利だと思いました(日野みどりさん)
ざっくり言うと、長方形のものは縦に二分して正方形を二つ作り俵型いなり寿司の製造に供し、正方形のものは対角線で二分し三角形いなり寿司を製造する。いなりの形、揚げの形、そのどちらが相手を規定しているのかわからないが、合理的な説明であろう。
だが、中村さんのメールによると名古屋では正方形の揚げなのにいなり寿司は俵型が主流となれば、上記の説明は崩れる。日野さんが名古屋のコンビニで目撃した超小型長方形の物件でいなり寿司を作るのは困難であろう。
また、長方形地帯であるはずのしぞーか方面にも正方形油揚げが混在していて一色ではない。
おおむね揚げの形といなり寿司の形の相関関係は浮かび上がっているが、さらなる検証が必要ではないだろうか。要するに「揚げが正方形のところのいなりは三角」「揚げが長方形のところのいなりは俵型」というふうにきちっとさせたいわけですよ。その方が飲み屋での話題にしやすいのである。
デスクぶつぶつ 「いなり寿司」じゃなくて「おいなりさん」だってばぁ。
カツゲン。北海道限定乳酸飲料。
「カツゲン」→カルピスのような乳酸菌飲料の濃いのを想像してください)
「ソフトカツゲン」→上記を薄めたみたいな感じ(ヤクルトを想像してください)
ソフトカツゲンはメグミルクで販売中です。カツゲンの語源、活力あって元気みたいなところからついたような(島野さん)
父の実家が北海道の旭川市にありまして、そこへ遊びに行くときの楽しみは朝食にご飯・トマト・筋子・海苔と近くの牧場から分けてもらった絞りたての牛乳(当然無調整の濃いやつ)を熱々にしたものを味噌汁の椀に入れて、一緒にいただくことなのでしたが、これって変ですか?(みなみ@神奈川さん)
カツゲンについては製造元のメグミルクのHPにも登場しない。「地域限定商品だから」という理由だそうだ。その生い立ちなど詳しいことは同社に問い合わせ中。
カツゲンは北海道でしか生き残らなかったらしいが、ガラナは北海道のほかに宮崎で生息している。喫茶店の必須アイテム。酒を飲めない人がパーティー会場でよくこれを利用している。
ここでデスク乱入 近所の酒屋で「コアップガラナ」という瓶詰め飲料をよく見かけます。あと、キリンビバレッジの炭酸飲料「Mets」に確かガラナ味があったはずです。
野瀬 そう、そのコアップガラナのことなのよ。
あんこだか羊羹だかをカステラで挟んだ「シベリヤ」に関するメールがいくつか届いている。
シベリヤと納豆コーヒーゼリーサンドとどっちがツオイのでしょうか。
「シベリヤ」の名前は、多分第2次世界大戦以前からのものです。ウチの父母(父=大正6年生まれ/母=大正13年生まれ)も「シベリヤ」と言えば、1.抑留 2.パン屋で売ってるもの、と認識してましたから。
レストラン「アラスカ」の洋菓子に対抗して「シベリヤ」と名づけた、というのが私が聞いた名前の由来ですが、これを投稿するにあたってググったところ、「餡コとクリーム状のマーガリンが入ったアラスカとか懐かしい商品もあります」という柏市在住の方のHPを見つけてしまいました。寡聞にしてこれは見たことありません。推察ですが、「レストラン『アラスカ』の洋菓子に対抗して『シベリヤ』→『シベリヤ』をアレンジして『アラスカ』」という偶然の先祖帰りなのかなぁと思いました(尾久の鉄塔下さん)
シベリヤの雪原の白と線路の色から命名されたという説と、「アラスカ」に対抗して「シベリヤ」にしたという説。どっちがツオイのかなあ。
コーラの甘口辛口問題に結論?
まー、どっちがボトラーズでどっちがボトリングかは忘れてしまってはっきりしませんが。しかしそれを聞いた後でもやっぱり私は、「イヤ! やはり明確に味が違うではないか!」と主張していましたが、甘辛はともかくコーラの味はここ30~40年で本当に変わってますよね(小樽出身者さん)
少なくとも私はよーく冷えたコーラをぐびっとやった瞬間は炭酸の刺激で辛口だけど、ぬるくなって炭酸が抜けると甘口になると思っています。コーラは何といってもエミー隊員が得意です。
デスク同調 彼女の後輩が「エミーさんの好きなものってコーラ以外何があるんですか?」と真顔で質問したそうです。それくらいエミー=コーラです。
エミー隊員 その後輩が誰なのか知りたい…。1日500ミリリットルから1リットルコーラを飲みますが、甘辛は感じたことありません。ただ、USコークと日本のコーラの味が微妙に違うように、西日本と東日本で味を変えていた(結果的に変わった?)なら納得できますね。カップ麺の味が西と東で違うように。ちなみに私はコーラを甘いと思わないんですけど、やっぱり炭酸で舌がしびれているんでしょうか?
ばんそうこう問題が意外な広がり。その中からこれを。
自分の店は以前は薬店と化粧品店をしていたので保育園や小学校に納入するときの正しい名称もカットバンあるいは救急ばんそうこうでした。
リバテープは熊本の阿蘇製薬が開発した商品名がリバテープだったので熊本・福岡・大分ではリバテープが一般名詞になったと思います。バンドエイドはジョンソン・エンド・ジョンソンの製品です。サビオは現在は販売されていません。佐藤製薬のサトウバンというのもありました。世界的にオリジナルはバンドエイドです。
まだ正式に輸入されていないころ阿蘇製薬が自力で見よう見まねでリバテープを作ったはずです。家庭雑貨は今のように全国流通していない時代が長かったので地方地方で呼び名が違いますね(鹿児島の小迫さん)
私の頭をかき回したら出てきた「リバテープ」という言葉の謎がこれで解けました。阿蘇製薬がバンドエイドの正式発売前に見よう見まねで作ったものだったんですか。そしてその名前が先に定着したためにバンドエイドが入ってきてもリバテープと呼んだ。北海道のサビオでも同じ現象が起きたのかもしれません。食べ物の世界でも似たようなことがあるようです。
ここでKazusketさんからの写真を。東京にも佐世保バーガーが進出したらしい。食べてみよう。
のべさんから「カレー焼き」の写真が来着した。丹後の宮津で目撃したが現地は台風のつめ跡生々しく、詳しいことを聞けなかったそうである。
広島駅前のフクヤ11階にある鉄板焼きの店で「レモン焼きそば」を実食。味について書いてあるが……やめとこ。
レモンつながりで。
で、肝心の味ですが、おいしいものでした。あっさりとんこつ風のスープにレモンの薄切りがのっていて、ラーメンとスープスパゲッティーのコラボレーションという感じ(愛媛県出身神奈川在住さん)
店の雰囲気好きです。ステンドグラスに演歌の人のポスターというところが特にいいです。きつめのパーマに真っ赤な口紅も味がありますね。
私、先日すごくレトロな店に入りました。カウンターが傾いているんです。そのカウンターにはひびが入っているんです。主人は長靴に真っ白な服、頭には毛糸の帽子といういでたちで、口ひげが威厳さえ漂わせておりました。そして料理を作る手の鮮やかなこと。まったくすきのない動きなのです。その自信にあふれた手付きで次から次へと見事にまずい料理を量産しておりましたよ。
新潟から「たこだん」情報。
で、おっかさんは考えた。「うちでも作れるじゃん」と。坊主の友達がぞろぞろいるときに作って出してやったら感動されました。うちのおやつの定番となりつつあります。
しかし、その店は何でも揚げればいいと思ってるらしく、冬になると大判焼きまで「揚げ大判焼き」になり大騒ぎです(矢作ちかぶーさん)
余計なことですが、「たこだん」のように簡単に家庭でまねされるような商品を出していると商売的には大変だろうと思います。掘っ立て小屋状態から抜け出せる日は来るのでしょうか。「揚げ大判焼き」も大判焼きさえ買ってくれば家で作れます。その店の将来が心配になるのは私だけ?
ここでデスク乱入 神田・出世不動通りのとあるお弁当屋さんも次から次へと冷食を揚げ油に放り込みます。揚げオムレツとか。かつては我が社の社員食堂も同様で、労働組合で「何でもかんでも油で揚げる料理法を是正せよ!」って対峙してようやく改善されました。
次回のテーマは予告通り「おでん再論」。前回は特定のおでん種として「ギョウザ巻き」を取り上げたが、先日東京のデパートで見たら1個210円というとんでもない値段がついていたので驚いたという話ではなく、ギョウザ巻きのようなご当地おでん種にどのようなものがあるのか、が今回の主要テーマである。
東海地方ではモツがおでん界の住人として認知されているのに対し、西日本では牛スジになるというような大まかな日本地図も作ろうと思っている。そのほか、おでん関連ならどんなテーマでもOK。成り行きによっては第1部の内容と今回の中身を合体させて再編集することも考えている。
それでは、次のメールを持って試合開始の合図としよう。
つける方ではおでん研究家の新井由己さんの本でも紹介されている、愛媛の「みがらし味噌」に興味があります。「ふかの湯さらし」という郷土料理には欠かせないもので、おでんにも相性がよいものだそうですが、食べたことがありません。鬼からしをお湯で溶いて30分ほど置き、麦味噌、酢、砂糖、酒などを加えてすり鉢ですりあげて作るようです。愛媛の海の家でも、定番なんでしょうか?(ミルフォードさん)
そう言えば静岡を離れても全国的「はんぺん」はワタシの中では「白はんぺん」です。「はんぺん」=灰色のもの。恐らく他の静岡人も同じでは?(静岡生まれさん)
先日、土曜日の午後4時半ころに小腹がすいて、仕事仲間のおじさんと、ちょっとおでんでビールいきましょかと「たこ梅」ののれんをくぐったら"4時半な人たち"がカウンターで一杯やっていて、後から入ってくるのも"4時半な人たち"でちょっと楽しい空間でした(栗猫さん)
名古屋の「あかぼう」とは何か。これに似たものがほかの地域にもあるのか。前回登場した北海道のおでん種「タチ」すなわちタラの白子はいかが。名古屋では学校給食のおでんに味噌がつく。「おでん定食」は全国スタンダードなのであろうか。1年中おでんを食べるという静岡ではご飯とおでんの仲はいいのか。青森市では魚介類多数かつショウガ味噌つけのおでんをPRしようとしているのではないか。あるいは「おでんと言えば田楽」という地方が残っているのではないか。
とまあ、いろいろありそうである。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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