ナス 煮焼き揚げ漬け…和洋中なんでもおいしい夏野菜
夏祭りに盆踊り、花火大会…。夏のイベントに華を添える浴衣や半纏によく使われている色が、茄子紺だ。野菜のナスの深い紫色に似ているところから名付けられた茄子紺色は「成す」に通じるとして縁起がいいとされ、江戸時代から広く使われるようになった。
ナスの紫色は、皮に含まれるポリフェノールの一種、ナスニンの成分によるもの。
ナスを料理する際は、油で揚げたり、ミョウバンを使うなど、とかく皮の美しさをそこねないように腐心するのだが、見た目だけでなく、皮を一緒に食べることでナスニンを摂取するという意味でも正しいやり方なのである。
1年中売られてはいるが、ナスの旬は夏。ナスの語源として、夏にとれる野菜だから「夏の実」「夏味」が転じたという説があるほど、夏のイメージが強い。実際インドが原産地といわれるだけあって、暑い気候を好む野菜であり、夏野菜の代表格といえるだろう。
日本では、奈良時代にはもう栽培が始まっていたとの記録がある。そのせいだろうか、ナスを使ったことわざや慣用句はとても多く、日本人とナスとの歴史の長さや、人気の高さを物語っている。
ちなみに日本で最初の促成栽培も、ナスから始まった。
露地栽培より早く手に入れられる促成栽培は「初物を食べると寿命が延びる」という初物信仰にはぴったりだったため、みんなに愛されるナスに白羽の矢が立ったのだという。
油紙でおおい、ゴミやわらを発酵させた熱で大事に育てられたナスは、将軍家にも献上され、とびきり高い値段だった。そこから「一富士二鷹三茄子」という言葉ができたという説もある。
日本一高い山や、天高く飛ぶ鷹に匹敵するほど「お高いナス」だった、というわけだ。
煮てよし焼いてよし、揚げても漬けてもおいしいナスは、和洋中なんでもござれ。世界中においしいナス料理がある。
生産量がダントツ1位の中国では、なんと写真を撮るときにもナスが出てくる。中国語の「茄子(チェズ)」が、日本における「チーズ」と同じ役割を果たすのだ。
ナスを食べているときに写真を撮る際は、「茄子(チェズ)」と言ってみてはいかがだろうか。
(食ライター じろまるいずみ)
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