旬は一瞬 今が食べどき梨の王様・幸水 完熟もぎたて
真夏の果物・梨。梨といえば「二十世紀」という銘柄を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、関西の主産地である鳥取でこそ多く収穫されているが、梨生産日本一「二十世紀」生誕の地である千葉県では、もうほとんど作られていない。
千葉県の、そして全国の品種別梨の生産量トップは「幸水」だ。緑色の「二十世紀」と赤みが入った「豊水」の間くらいの色で、果肉が柔らかく、甘みも強いのが特徴。
旬は大まかに言ってお盆までが「幸水」その後「豊水」秋が聞こえてくると「新高」というイメージ。千葉県産の「幸水」は、8月に入ってから収穫が始まり、お盆明けには出荷はほぼ終わってしまう。
時期こそ短いものの、最需要期のお盆時期にいちばんおいしくなることから人気が高い。
千葉県の中でも市川市や白井市、鎌ヶ谷市など都心のベッドタウンが主産地で、特に市川市は都心から30分ほどに位置するため、産地での直売が大半だ。
収穫のピークを前に市川市北方にある石井宏さんの農園を訪ねた。
屋根のように這わせた枝は、収穫の便を考慮したもの。手を伸ばせばすぐもげる高さに実る。ワイヤーを張り、それに沿わせて枝を伸ばすのだが、実が痛まないよう、枝やワイヤーに触れるところにはクッションが入れられていた。
いかに大事に育られているかが分かる。
興味深かったのは、畑によって品種が分かれているのではなく、同じ畑に「幸水」や「豊水」などが入り混じり、しかも「幸水」の幹に「豊水」の枝が接ぎ木されていたりすること。
苗から育てると収穫までに年数がかかるため、既存の幹に接ぎ木をするのが、効率の高い育成法なのだとか。収穫が終わると、接ぎ木のほか、分かれた枝がより太く、本数が多くなるように手入れをするという。
開花は桜の時期だが、実は桜以上と思える美しさだ。
「幸水」の甘さは、真夏のまぶしいほどの太陽光が育むもの。だから袋はかけない。畑の中でも、光の当たり方で実りが微妙に異なるため、毎朝、実り具合を確かめながら収穫する。緑色の表面に赤みが十分に入ると食べごろという。
人気の高い「幸水」だが、直売用と店頭出荷用では微妙に収穫時期が異なる。店頭出荷用は流通の時間を考え、まだ緑色のうちに収穫、直売用は完熟のタイミングで収穫する。買ったその日が「食べごろ」だ。
あまり冷やしすぎず、冷蔵庫で1時間ほど冷やすと、もっとも甘みを味わえるという。
市川の「幸水」の旬は、今週から来週にかけて。JA市川のホームページには直売所マップが載っている。都心から近いだけに、この週末、完熟の幸水を味わいに市川まで出かけてみてはいかがだろうか。
(渡辺智哉)
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