刺し身がのるちらし寿司は東日本特有? 西はばら寿司
あのお寿司(2)
前回「京丹後のさばの缶詰めを使ったお寿司」を紹介しつつ、「丹後は海の幸の宝庫ではないか。なぜ生のさばではなく缶詰めを使うのか」と書いたところ、メールをくださった「いけずな京女」さんから返信が来た。
言われてみれば、なーんだである。確かに缶詰め工場があったあった。すっきりくっきりわかりました。「旅行読売」によると、材料はさばの水煮ではなく味付煮のようである。
ところで、「さばの身を使った寿司は丹後だけではない」情報。
海の近くには地場の魚介類を様々な形であしらったお寿司があるようだ。材料も多様だが、味付けも日本全国みな同じではない。今回、メールの束をめくっていて非常に面白いことが判明した。四国というより現時点では徳島南部から高知にかけての地方では、お寿司に柚(ゆず)が大活躍している。
ところが市販のお寿司を食べるようになって一般的には寿司酢は甘みの方が強いものだということを知ったのです。しかも、柚酢を使わないことを! ちなみに具材は高野豆腐、椎茸、コンニャク、ちくわなどを甘く煮たものに錦糸卵、ちりめんジャコ、ニンジンが入っていたりもしていました。スーパーなどで売っているばら寿司では金時豆が入っているのが当たり前のようです。お好み焼きにも入れますから(さとりさん)
柚酢を使う塩味のお寿司の登場です。徳島で市販されている物件には関西と同じく高野豆腐が入っています。さらに金時豆も。徳島のお好み焼き屋さんでは金時豆が入った物件は「豆入り」と呼ばれています。徳島の方は金時豆が好きみたいです。
夏ミカンが有名な山口県萩で以前、夏ミカンの果汁を使って味をつけた寿司を食べたことがあります。白いお米にオレンジ色の果肉の破片がちりばめられ、甘酸っぱい香りが漂います。あれはうまかったなあ。ご家庭でも試してみてください。
高知からの柚酢お寿司の話。
これを油揚げに詰めた「田舎稲荷」もあります。高知も油揚げは「直角二等辺三角形」なので、いなり寿司も三角形です。大学に入って、江戸前の「ちらし寿司」に出合いました。ビビンバのようにかき混ぜて食べたい欲求と戦いながら食べたことでした(高知の恒石さん)
恒石さんと同様、広島のHAMANさんも東京の「ちらし寿司」と遭遇したときこんな感想を抱いた。「ちらし寿司といえば……野菜や魚介類(甘辛く煮てある)を細かく切って酢飯に混ぜた物と思っていたのですが、器に入った酢飯の上に握り寿司のネタがのっているではないか! そしてネタを醤油に付けたり、ワサビ醤油をかけたりして食べている。こんなちらし寿司があるとは! カルチャーショックでした」
そのHAMANさんの高知情報。
油揚げを、袋状に切ったコンニャクで代替させる物件が高知で一般的かどうかは知らないが、ここでも味付けは柚酢である。さあ、四国南部には柚酢(果汁)を使うお寿司が存在すると考えてよさそうである。面白いなあ。
ここでお寿司の話題はちょっと置いて、もうひとつ興味深い物件を紹介しよう。先週、読者から「浜松で刻んだたくあんを入れたお好み焼きを食べていた。これは我が家独特のものであろうか」というご質問があった。私は「そちらのご家庭固有のものでしょう」と即答した。ところがこれが大間違いの大笑い。何と浜松ではスタンダードであることが判明したのである。久しぶりに書く。日本は広いぞー。
これで「浜松のお好み焼きにはたくあんが入る」と断定していいのではないだろうか。そして、たくあんお好み焼きは意外にも九州に飛び火しそうな勢いである。
と、これだけなら過去の個店のメニューという話で終わるのかもしれない。ところが最近博多勤務から帰ってきた同僚が気になることを言ったのである。「近所の『G志朗』というお好み焼きの店にたくあん入りのものがあって『熊本風』と書いてあったんです」と。調べてみると熊本には「洋食焼き」とか「一銭焼き」と呼ばれるものがあって、これらには刻みたくあんが入るようなのである。「Tんてまり」という代表店の名前も浮上した。中華風春雨スープ「太平燕(タイピーエン)」で全国デビューした熊本には、さらなる地ネタが存在しているのであろうか。
お寿司に戻ろう。これからは東日本勢のメールを紹介する。
ところで私的には「混ぜご飯」というものは、具を研いだお米と一緒に釜(炊飯器)に入れて炊いたものという育ち方をしており、炊いたご飯に具を混ぜる「混ぜご飯」というのは大人になるまで知りませんでした。
「いなり寿司」は袋は閉じています。中身は具なしの寿司飯です。それ以外故郷では食べたことありませんでした(ミシガンの松本さん)
運動会などのお弁当での定番は酢飯を入れた俵型の稲荷寿司。
追伸:徳島に出張したとき「モチうどん」なるものを食べました。和三盆を作っている近所で食したのですが、モチ性の小麦で打ったうどんで、触感が面白いです(ずんだ餅子@東日本さん)
しかしながら我が家では父が甘いものが嫌いだったせいか、いなり寿司は女子供の食べ物と見なされていました。ちらし寿司はタケノコ、椎茸、ニンジンなどを酢飯に混ぜ、錦糸玉子とイクラなどをのせますが、こちらも父に言わせると女好みの食べ物らしく、桃の節句のときくらいしか登場しませんでした。
そう言えば先日、家の近くにある、大阪を中心に展開している回転寿司に行き、三角のおいなりさんや甘いシャコやしめさばにびっくりしました(東京都 りんりんさん)
というようなわけで、関西から九州にかけて「ばら寿司」「五目寿司」などという名の甘めのマゼマゼ寿司が日常的に存在するのに対し、東日本にとってそのような物件はいつも目にするものではなく、寿司ねたのっかり型の「ちらし」が主流という構図が浮かんできた。
では境界はどこかと考えているうちに、あれ名古屋は? という壮大な疑問がわいてきたのである。名古屋を中心とする中京地区からのメールが皆無である。デパ地下におけるいなり寿司戦争はともかくとして、マゼマゼ寿司であれ寿司ねたのっかり型であれ「あのお寿司」に関して名古屋が沈黙しているのはなぜか。ひょっとして「そんなもんない。こっちはひつまぶしで十分」てなことであれば、むしろこれほどうれしいことはない。情報を待つ。
甘納豆入り赤飯発祥の地であり「日本の甘味処」の異名を持つ(というか私たちが勝手に呼んでいる)北海道では事情がちがうのだろうか。
社会人になって寿司屋に生ちらし寿司なるものがあると初めて知りました。実家では出てきたことがなくて……。この母のつくるおいなりさんは、その甘辛さゆえに次の日に食べるほうが味がしみてうまいという、揚げを二つに切って袋にしたお稲荷さんです。自分で作るようになって、はじめて酢飯にゴマを入れたり揚げを裏返してみたり、味を薄めにして、その日に食べてうまいくらいの味にしてます。こうやって母の味は改良されていくわけです。はい(東京のあさちゃん)
甘そうです。とってもとっても甘そうです。「ちらし」とは言いますが西日本の「ばら寿司」です。寿司ねたのっかり型は北海道の「甘い舌」には不向き?
ここでデスク乱入 ちょっといいですかあ? 私は味よりも、その呼び名が気になってしかたありません。両親ともに江戸っ子の我が家では「いなりずし」と呼んだ記憶がなく、常に「おいなりさん」でした。つまりおいなりさんは、言葉の上では「寿司」の範ちゅうにはないのです。たまたまですが、今週は東京のりんりんさん、あさちゃんだけが「おいなりさん」と呼んでおられます。
いわゆる寿司にはおかずの要素が多分にあるのですが、おむすびは基本的に主食です。押し寿司やちらしは醤油を付けますが、おいなりさんとおむすびはそのまま食べます。ですから、おいなりさんは寿司よりおむすびに近い存在のように思うのです。ご飯の代わりの具入りの酢飯を、海苔の代わりの油揚げで包んだ食べ物――。ここで私は大胆にも「おいなりさん≠寿司説」を提案します!! って、即ボツ?
じゃあ、これから寿司屋で「おいなりさん」を注文するとき「油揚げで包んだ酢飯ください」って言うわけ?
デスク納得 それは面倒くさそうですね。撤回します。
「ばら寿司」を愛してやまない関西人による分類。
なお、パックに入ってスーパーなどで売られており、自らの足で手に入れに行くもの、または家庭で作られるものを「ばら寿司」。寿司屋に電話をし、または寿司屋に出向いて食するものを「ちらし寿司」ともいいます。
寿司屋には「にぎり寿司」「上にぎり」があるように、「ちらし寿司」「上ちらし」はありますが、「ばら寿司」を見かけたことはありません。従いまして「上ばら」もありません。
スーパーやうどん屋、定食屋では「ばら寿司」は存在しています。値段も「ばら寿司」は298円くらいからありますが、特上ちらしともなれば何千円もしてしまいます。つまり「ばら寿司」=「高級じゃない」、「ちらし寿司」=「高級」と思っており、同列で語ることは私にはできません。
「五目寿司」とは……私の辞書にはありません。そんなの認めません。また、大阪で生まれ育って小さいころから「ばら寿司」を食べているのに、TVCMでどっかのメーカーが「ちらしい~すしいな~らあ」などと言ってるのを聞いて、東京かぶれして「ばら寿司」を「ちらし寿司」などと言ってる方々も認めません。以上、大阪で育った私の「ばら寿司」「ちらし寿司」観でした。……え~っと、何が言いたいのでしょう、私は。つまり、なんですね、何でも好きです。ハイ(なにわのプーさん)
大阪にも寿司ねたのっかり型の「ちらし」は存在するものの、日常的には「ばら寿司」であり、両者は厳密に区別されていることがわかる。いろんなものを「認めない」とおっしゃっているので一瞬緊張するが、結論は「何でも好き」ということであるからその緊張は一気に緩和され、読み終わったところで椅子からころげ落ちそうになるのである。要するに食べるんじゃん。
偶然ということはあるものである。
今週、チャーメンに関するメールが2本来たという偶然もさることながら、実は私の手元にその物件があるのである。偶然、長崎出身の方に送っていただいたのである。商品名は「長崎 ちゃーめん」という。
では、チャーメンとは何か。
以前、チャンポンの名前の由来について書いたとき「皿うどん」はにゅるにゅるのチャンポン麺を使うのがもとの形説を紹介した。揚げたり炒めたりした麺にあんをかける「炒麺(チャーメン)」という別の食べ物があり、皿うどんとは区別されていた。
ところがいつの間にか簡単に作れる揚げ麺を使った「皿うどん」が現れ、次第に定着していった。しかし、地元長崎の人々やこの間の経緯を知っている人々は依然として揚げ麺を使った物件を皿うどんと安易に呼ばず「チャーメン」と呼んでいるのである。正しいのである。
写真は長崎の別のメーカーから出ている生の「炒麺」。本来はそうなのだが「皿うどん」との認識が流布している現状に鑑み、袋の上に小さく「皿うどん」と表記されている。 従って皆さんが今後、皿うどんを頼んで揚げ麺あんかけが出てきたら「これは正しくはチャーメンと言う」と叫んでいいのである。ただ実際に声に出すといろんな問題が起きる可能性があるので、あくまで心の中で叫ばれることをお勧めする。でもって、アメリカンドッグなんかが刺さっていたらすぐに写真を撮り、送っていただきたい。私は一度でいいからアメリカンドッグが刺さったチャンポンとか皿うどんとかチャーメンとか白熊を見てみたいのである。
高知の恒石さんからのメールに「追伸」があった。
高知県の赤岡町では、今でも「共通スープ」に中華麺を入れた「にっちゅう」というメニューが一般の食堂で食べられます。「鍋焼きラーメン」ほど知名度はないのですが…。
「にっちゅう」の語源はなんだろうか。「日中」? 晩に食べても「にっちゅう」とはこれいかに。日中に食べてもバンバーガーと言うがごとし。「にっちゅう」をご当地麺に追加登録。
デスクぶつぶつ 午後に食べても「御膳」、朝食にもおいしい「晩菊」、夜食のお供に「浅漬け」……。
うまいじゃん!
ああ、気がついたらもう外は真っ暗だあ。熱はあるけどミッション飲ポッシブルしたいなあ。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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