中華麺駅そば、てんぷらラーメン ご当地めんいろいろ
ご当地めん(2)
先日、何を頼んでも辛子がついてくる神田駅ガード下の居酒屋に行った。1年中メニューが変わらない店だと思っていたら、何と「本日のおすすめ うどんすき」とあるではないか。うどんすきねえ。大阪のあの元祖の店で食べたやつはうまかったなあ、と思い出しつつふと考えた。「うどんすき」は登録商標ではなかったか。だとするなら商標法違反。てなことは居酒屋の主人にはどうという問題ではなく、堂々の「うどんすき」なのである。800円。この店では最高額メニューの部類である。
頼んだのである。辛子がついてこないことを祈りつつ注文した。すると昔はお姉さんだった人がテーブルにガスコンロを据えて、本格的なうどんすき単独宴会を演出してくれるのだった。
やがて運ばれてきた物件を見て、私はひっくり返ってしまった。うどんすきというのは鍋に張った出し汁を沸かして野菜や魚介類を煮、それで一杯やりつつ最後に細目のうどんを投入するスタイルでなければならないと信じていたのに、その物件は最初から細目ではなく普通のスーパーのベチャベチャゆでうどんが入っているのである。しかもエビとかはいなくて塩が残ったタラと鮭なのである。しかも豚肉まで入っているではないか。
世間では、これはうどんすきとは呼ばない。ただの鍋焼きうどんと言う。この店の主人は鍋焼きうどんとうどんすきの違いをどう認識しているのであろうか。卵やエビ天が入るのが鍋焼きで入らないのがうどんすきなどと考えているのであれば「全日本飲食物勘違い訂正委員会」に提訴しなければならない。そんなのがあればの話だが。
いやもし本当にそんな委員会があったならチャンポンに関する提訴件数は天文学的数字になるであろう。私一人で200件くらい訴えるけんね。
もちろん、麺が違うだけでキャベツや豚肉、かまぼこの刻んだもの、タマネギなどなど必要なものは入っております。これは、とてもおいしくて、ここのお店に来る人はたいていこの「ちゃんぽんうどん」を注文するようです。
また、やはり北九州市内のどこかには、うどんつゆにちゃんぽん麺が入っている「ちゃんぽんうどん」というものがあると聞いたことがあります(北九州市の石松さん)
讃岐うどんの方のチャンポンは普通のうどんに野菜やなんかのあんかけがのっているものでしょう。「杵屋」にもあります。後者はチャンポンスープに手打ちうどんだそうです。ちゃんぽんラーメン……ぐすっ、でももう驚きません。激怒もいたしません。泣きません。半ば諦めております。
ではなぜこういうことになるのか。
よく、「お酒をチャンポンで飲むと悪酔いするよ」とかいいますよね。ということは、「チャンポン」は、本来の意味でいえば、なんか混ぜてある料理ならなんでも「チャンポン」だっちゅうことになります。片栗粉でとろ~りとしてようが、スープがとんこつでなかろうが、なんか混ぜてあればOKなのでしょう。
ということで、小生も各地でいろんなチャンポンを食しましたが、やはり一番すきなのは「長崎チャンポン」です。これからは、ただの「チャンポン」でなく「××チャンポン」と呼ばないといけないのではないかと愚考致しますです(かわら屋とたん@神奈川在住さん)
チャンポンはもともと料理名ではなかった。明治32(1899)年に長崎・四海楼の陳平順が考案した当時は「シナうどん」と呼ばれていた。チャンポンという名が定着したのは大正に入ってからである。語源は福建語で「吃飯(セッポンまたはシャポン)」。ご飯を食べるという意味である。留学生たちの「吃飯?」という挨拶が転化したとされる。
日本インドネシア協会で確認したところインドネシア語の「チャンプルー」は確かに「混ぜる」「混ざる」の意味だが、それをチャンポンと結びつけた文献にぶつかったことはない。というより、四海楼自体がこの「吃飯」説をとっており、先日会った福建華僑の中華料理店経営者もはっきりと「語源は吃飯」と言っていたのである。
私がなぜチャンポンをかくも執拗に取り上げるのかというと、チャンポンほど「食文化は伝播の過程で概念の欠落や変容がおきる」ということを証明する物件はないと思っているからである。
チャンポンが料理名として定着した当時、レシピに基づく料理の型があった。それが長崎から九州各県、中国、関西へと伝わっていく途中、チャンポン麺がラーメンの麺に替わり、とんこつ・丸鶏スープという基本が抜け落ちて醤油味になり、具材と麺とスープを一緒に煮るという重要な調理法が欠落し、ついにはあんかけ具材を使う皿うどんとの混同に至るのである。
そしてさらに「チャンポンの具はいろんなものが混ざっている」の「混ざっている」だけが独立した概念となって「混ざったもの=チャンポン」になったのである。多分。
ネイティブチャンポニストとしては、変容してしまったチャンポンを見るとき、ある種の哀惜の念を禁じ得ない。だが、そこにあるものを否定するつもりはまったくないし、美味しいと思って食べておられる方に対して言うことは何もない。私自身、大阪のあんかけ汁なしチャンポン(わかります?)を食べておいしかったのである。
チャンポンの話はこれでいったん打ち止めにする。それにしても皆さんのメールを読んでいると全国あっちこっちにスープ(汁)と麺の基本的組み合わせをずらしてしまった混合ダブルス型麺料理がたくさんあることがわかってとっても愉快だな、なのである。
久留米の中華うどんは、うどんつゆにラーメンの麺でした。唐津のラーどんはその反対。札幌のラードンはどっちか不明ですが、いずれも混合ダブルスしています。
前回、広島と岡山のエビ天入りラーメンの写真を紹介したら、こんなメールが。
尾道では、かきあげが入ったラーメンというか中華そばです。天ぷらとタッグを組んだ中華そば、すなわち広島県の「天中」は食の方言の可能性大です。
グラタンうどん? うどんにグラタンソースをのせてオーブンで焼いたものですか? それともうどんにホワイトソースをかけちゃった? しかも出し入り?
名古屋・栄の地下街であんかけうどんの専門店に出くわしました。今もあるのではないでしょうか。うどんに空揚げとかホタテとか各種あんがかかったものです。あんかけスパのうどんバージョンでしょうか。ともかくグラタンうどんは想定外でした。でもおいしいのなら何よりです。私も名古屋大好き。好き好き好きだーい好き。
ここでデスク乱入 よく和風スパゲティってありますよね? 醤油味でパスタを炒めて削り節かなんかがのってるやつ。それと逆のパターンと考えるとグラタンうどんもありかな、と。洋風うどんみたいな感じで、マカロニがうどんになったと思えば。僕としてはタバスコをたっぷり振りかけて食べてみたいような気もします。でもつるつるってすすったら唇ヤケドしそうだなあ。
その唇なら大丈夫。
(2)札幌 龍鳳 「ピリカラーメン」 これはスープがミルクでできているラーメンです。これもなかなかおいしい。ミルク、スイートコーンと言った北海道のイメージが強いラーメンです。
(1)札幌 てれ屋「うどん」 出てきた瞬間「うどん?」って感じです。揚げ物のなかにうどんが入っていて汁とかはありません。実はこのお店を紹介していただいたのが日経札幌支社のK井記者です。日経さんのご指定のお店のようです(札幌のぺんぱらさん)
札幌支社のK井がお世話になっているようです。恐縮です。汁なしうどんの店を弊社社員が愛用しているとすれば、喜んでいいのか悲しんでいいのかわかりませんが、とにかく恐縮です。ところで、てれ屋のうどんは何で味がついているのでしょうか。汁がないわけですから。ぶっかけみたいに醤油をかけて食べるのでしょうか。
おっと「邪道」です。初代乱入デスクは「ブルージャドー」と「チューゴクジドージャドー」という奇手を2連発で放ち、異動していきました。さあ、2代目乱入デスクの出番です。どうするどうする?
ここでデスク乱入 (おどおどしながら)じゃぁ、どうしようかなぁ……、えっ、もうオチてる?
トーホクジドージャドーときたら、どうしようかと思ってた。
JR姫路駅の黄色い駅そば。今度行ったら絶対食べる。そして駅のたまご(明石)焼きの店でソース混入出し汁を飲んでやるのだ。
小麦粉にかんすいを入れたら中華麺ではないだろうか。ラーメンである。姫路駅の駅そばで出るそばはラーメンの麺である。と書いていいのだろうか。どうも黄色いのがうどんと認識されているのか、そばとされているのか、これまでのところでははっきりしない。どっちも黄色いようだが、黄色いそばは果たしてそば粉を使っているのだろうか。おせーて。
名古屋は辛子地帯? 非辛子地帯? という問題である。よく考えるとなぜこれが問題なのかわからないが、とりあえず問題なのである。
名古屋非辛子地帯は妄説とのご意見だが、次のご意見はややニュアンスが違う。
もっとニュアンスが違う。
私の小さいころ、実家ではカレーの辛さを調整するためにカレールーとハヤシの素をハーフアンドハーフにするのがあたりまえでしたよ! 今考えてみればカレーといってもオリエンタルカレーでしたから、ほとんど「お子様カレー」程度にしか辛くなかったのですが(亡命名古屋人さん)
全然違う。
この地方は西からローソンというコンビニ文化が入ってきてかなり中央や関西の異なる食習慣がいつのまにか当たり前になってきてしまっているような気がします。
私たちの世代(40代ですが)は辛子を使わないといった常識でも、我々の子供たちの世代では辛子をつけるというのが当たり前になってしまっているのではないかと危惧しております。地方の独自性がうすらいでいくのも寂しいです(愛知県一宮市のおやじさん)
さあ、わからなくなってきた。辛子地帯だとする強力な意見があるかと思えば、辛子をつける習慣はないという声もある。その中間もあるのである。カレーのルーとハヤシライスの素を半々で入れたらどんな味になるかということなぞもちらっと考えつつ、次の観察を読んでみよう。
そこから私が思うのは、「名古屋(東海地区)ではいちおう辛子を出すことは出すけど、実際にはあまり食べてないのかも」ということです……。スガキヤにも辛子はいちおうあるんですよね。○ーソンやファミ○のレジにも、いちおうあるんですよ辛子。なのに、食べている形跡があまりない。「辛子を用意することはするべきものなんだろうなあ」という常識というか美徳は備えつつ、自分がどう食べるかというと話はまた別……。抑制というか自己の相対化が、名古屋の対辛子姿勢にはあるような気がするのですが、違うでしょうか(日野みどりさん)
私も同じような印象を持っている。名古屋に辛子はある。あるがそんなに使用しない。少なくとも神田駅ガード下の某居酒屋のおやじのように何にでも辛子を塗りたくらないと気が済まないというようなことはない。そんなところに落ち着くのではないか。
ここでデスク乱入 船橋にある僕の行きつけの寿司屋はいわゆるヅケは辛子で食べます。キンメ鯛を醤油漬けにして辛子とアサツキを添えて食べると……んんんんもう最高です。ちなみに先祖代々浅草在住、ホンマモンの江戸っ子の友人をその店に連れていったら、そもそも昔は寿司によく辛子を使っていて、必ずしも「寿司=わさび」ではないと言っていました。そのおやじさん、もしかして江戸っ子ですか?「こちとら神田の生まれよぉ、江戸っ子でぇい!」とか言いながら辛子ぶちまけてたりして。
神田? 辛子? その寿司屋も何にでも辛子塗りたくるの?
アトランダムで。
また、「文化フライ」というモノにも行き当たりました。こちらは、「フライ」のタマネギなし版といったイメージですが、小麦粉を油で揚げ、串に刺し、ソースをたっぷりつけて食すとのこと。以前は東京・西新井大師の縁日で見られたようです。この食べ物の開発者である足立区の長谷川商店というところが紹介されていました。「フライ」「文化フライ」……縁日でぜひ食べてみたいです(ミルフォードさん)
食べてみたいですねえ。立ち食いの天ぷらそばを注文するとしっかりエビの形をした天ぷらなのに、立派なのは尻尾だけで身はオキアミの親方程度という物件に遭遇することがあります。私はあれを「エビ型衣揚げ」と呼んで愛しておりますが、この「フライ」も似たところがあります。
「フライ」にソースをびたびたかけて肴にしながらホッピーなんかをすすったら骨の髄までおやじだぜ。
ソースと言えば、長崎のチョーコー醤油のしゃっちょさんから醤油とソースをいただいた。ケメコ@澤田さんご推薦の「金蝶ソース」も入っている。「長崎生まれのウスター 皿うどん 焼きそば お好み焼 チャーハンetc」とラベルに書いてある。皿うどんにはやっぱりウスターである。ありがとうございました。
エミー隊員はてな つかぬ事を伺いますが、金蝶ソースと蚊取り線香はなにか関わりがあるんですか?
ないと思う。このソース燃えないし。
最後に「太平燕」。タイピーエンと読む。
「夢の途中」さんからも同様のメールをいただいている。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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