本格中華は「包子(パオズ)」 小籠包や生煎には黒酢
中華まん(3)
牛丼は今でこそタマネギを使うのが一般的だが、明治20年ごろ「牛飯ブッカケ」として誕生した当時はネギを使っていた。それがいつの間にかタマネギに替わったわけだが、替わって良かったと思う。つゆをたっぷり吸ってくたーっとなったタマネギが牛肉にしがみついている姿はいい。とってもいい。
吉野家が新橋に最初のチェーン店を出したのは昭和43年。1日4000人もの客があったそうだ。その年、「ボンカレー」と「サッポロ一番みそラーメン」が発売されている。ボンカレーの松山容子さんよかったなあ。いまでも沖縄では歳をとらずに昔の姿で出演しておられるようだ。
本題の中華まん。本場中国ではどう食べているか。
神戸の南京町で有名な「老祥記」は小ぶりな天津包子の系統ですね。天津では有名な「狗不理包子」という店があり、「老祥記」と同じ味です。この包子は小ぶりで、一度に10個程度は軽く食べられます。皮もおいしくて、何もつけずに食べても十分美味しいですが、普通は酢(黒酢)をつけて食べるようです。私も酢をつけて食べるのが一番好きです(北京原人さん)
私は個人的には日本で餃子に酢醤油をつけるのは中国の黒酢を真似たのが始まりだと思っています。黒酢=酢の味+醤油の色という感じで(高知のNAKATANIさん)
小籠包や生煎(ションジエン)も黒酢をつけて食べますしね。生煎は肉汁たっぷりの小ぶりの肉まんを片面だけ焼いたものです。小籠包とともに上海の名物。どちらも肉まん(中国語では包子)の一種だし。それ以来、私はずっと黒酢党。黒酢がないときはほぞをかむ思いで普通の酢を使うのです。ソースは使ったことありませーん(モモちゃん)
本場中国では黒酢だそうです。驚いたのはNAKATANIさんの「酢醤油=黒酢模倣説」。うーん、そうかも知んねえ。本当にそうかもよ。戦時中の旧満州で現地の人が残り物のギョウザを焼いて生のニンニクをかじりながら食べているのを見た日本人が、戦後帰国して始めたのがニンニクを入れて焼くギョウザという説があります。この説が正しいなら「似ているけれどちょっと違う」ものが伝わったわけです。黒酢を見た日本人が「酢が黒いが、あれは醤油を加えたからだろう」と考えて酢醤油で食べるようになったとするなら、焼きギョウザと同じような伝播の仕方をしたことになり、とても面白いです。
モモちゃんのメールには「キャ別」のことも出てくるのでちょっと脱線。
はあー、新キャベツを「キャ別」ですか。八百屋さんの符丁ならわかります。でも通行人の中に八百屋さんは少ないのでほとんどの人はびっくりすると思います。東京だけでなく大阪にもあるということは意外にあっちこっちで目撃できるかも。
KKさん、今からでも遅くありません。現場の喫茶店に急行し、キャ別の現行犯写真を撮って会社の同僚に見せびらかしましょう。「それがどうした」と言われてもしりませんけど。
「られし」が「ラディッシュ」のことかどうか断定できません。あまりに発音がかけ離れています。合っているのは頭の「ら」だけです。でもほかに考えにくいので多分そうでしょう。それにしても「られし」じゃわかんないです。
本題方向に軌道修正。
神戸の方、教えてください。皆さんは本当にところてんをウスターソースで食べるんですか。昔、オリバーソースを取材したとき、神戸の西の方ではソースを塗ったたこ焼きを出しにつけて食べるという話を聞きました。明石の卵焼き(明石焼き)は吸い物のような出し汁で食べます。大阪のたこ焼きはソースが基本です。大阪と明石の中間ににある神戸西部では、食べ方も中間、折衷型だというのです。でもこういう食べ方だとせっかくの出し汁の味が混入したソースで乱されるのではないでしょうか。それでも構わないのでしょうか。
そんなこともあるので、ひょっとしたらソースでところてんもあるのかな、と思ったわけです。軌道修正したつもりがまた脱線。
再度、軌道修正する。リキが入ったメールを1発。
そうしたら、あら不思議。誰も何も言ってくれません。○ァミマでも、コ○ストアでも、ロー○ンでも、サンク○でも。ただ肉まんを包んでくれるだけ。毎回きまって言われるのは、「袋のほう(ほかに買ったものと)ごいっしょでよろしかったですか~」のみ。野瀬さんが倒れそうな例の言葉遣いだとか、サラダであろうがなんであろうがごいっしょに入れたがるとかはおくとして、とにかく、つけるものに関することを一切言ってくれません。
ということは、名古屋は「肉まんには何もつけない地帯」としか思えません。あまり名古屋と思われていないM区の、半径1キロ以内に限った話ですが。
「みそ」というイメージが、野瀬さんにもおありなわけですね。私にもありました。コンビニのレジに「みそ」の小袋が置いてある光景。「うあ~そうか、それはおでんじゃないのか~」と気づき、わたくしがんばりました。めったに買わぬおでんを、買ってみたんです、ファ○マで。そしたら、容器に入れてくれたあと、お兄さんこう聞いてくれました。「みそと辛子はどうされますかー?」
もう驚きましたよ。みそと辛子といちどきに問われるんですよ。しかもみそのほうが先なんですよ。もちろん、「下さい」とだけ言って両方もらいましたが、もらったところで、さて、食べ方がわからない。みそと辛子と両方つけて食べるんですかね、名古屋の人って?まだまだ修行が足りません。ちなみに辛子のみつけて食べたチキンな私でした。みそは冷蔵庫に眠っております(名古屋歴約10カ月の日野みどりさん)
うわー日野さん、やっとかめー。こんなに頑張っていただいてすいまっしえーん。「日ごろあまり買わぬ肉まん」を1日2回も買い、「めったに買わぬおでん」をしゃかりきに買っていただいて申し訳ないことです。だもんで、感謝申し上げます。
要するに名古屋は中華まんには何もつけないらしいということですね。おでんには味噌と辛子がつくのに、冷やし中華にはマヨなのに中華まんには納豆コーヒーゼリーをつけない。なにもつけない。だもんで何か寂しいなあ。
出ました。「ご一緒」問題。先日自宅近くのコンビニでバイトの女子高校生らしき店員が冷たいものとそうでないものを指して「ご一緒してよろしいでしょうか」と言いました。私、頭がくらくらしました。倒れるかと思った。そして態勢を立て直して言ってやったのです。
「そこの若人よ、よく聞きなさい。ご一緒していいですかというのは大人の世界では普通、一緒に行ってもいいですかとか、お供しても構いませんかという意味なのだよ。だからキミはいま、このおじさんと一緒に行ってもいいかと言っているのだよ。来てもいいけどカミさんがびっくりするんだよ。一緒に入れていいですかと言いなさい。リピートアフターミー、一緒に入れてもーいいですかあー」
これはマジな話です。彼女はちょっとおびえた目をしていましたが、その後正しい言い回しになったようです。
デスクにやにや ここはエミー隊員に聞いてみましょう。
エミー隊員 ご一緒して…。最近のコンビニは過激ですね。
袋に一緒に入れるというとふと思い出すのが、私がコンビニでアルバイトしていたころによく来ていたおじさんです。毎朝7時半ぴったりに来店する方で、いらっしゃると「もうそんな時間かあ」と思うくらいきっちりした人でした。きっちりしているだけあって、来る日も来る日も買うものが同じ。いつも同じコッペパンと同じ缶コーヒーを買っていかれるんです。半年くらい経った時に我慢しきれず、「そのパン、そんなにおいしいですか?」と聞いてしまいました…。純粋な好奇心からだったのですが次の日から違うパンを買うようになってしまいました…。ごめんね、おじちゃん。
東北の方にとって芋煮というのは北部九州人にとってのチャンポンに匹敵する重要物件のようです。はい、そこのあなた。「またチャンポンの話かよー」とあきれている場合ではありません。そうです、チャンポンです。
私は街を歩いていた。バス停のベンチの背中に書かれた広告が目に飛び込んできた。「東京で唯一本物のチャンポンが食べられる店」。ほ、ほんとですか。「東京で唯一」なんですね。間違いなく本物のチャンポンが食べられるんですね。私は自分の鼻の穴が膨らむのがわかった。興奮している自分をもうひとりの自分が見詰めていた。フー、フー(鼻息です)。
時計を見ると午後1時。広告の地図に目を移す。ここから電車で20分、駅から歩いて10分。1時半には着く。
よし、行くぞ。
電車の中でも私は鼻を膨らませていたに違いない。興奮してフーフーフー(鼻息です)いわせていたに相違ない。それくらい期待したんだもんね。
ケヤキ並木の道をほいほい歩くと地図にあった目印の建物が見えてきた。あれを過ぎて2軒目が問題の店である。店で……あれ? 店であった……おや?
つぶれとる。つぶれて随分たっている。とっくの昔につぶれてしまっている。東京で唯一とか本物とか、あんなに力強く言っていたのに、あっけなく閉店かあ? 私は「よっぽどうまかったんだろうな」とつぶやいて、背中を丸めながらもと来た道をとぼとぼと駅に向かって歩き始めたのだった。我が52年の人生の中でも特筆すべきムダな一日であった。
モモちゃんからは「埼玉県の志木にある長崎亭ってところは、おいしいチャンポン(←野瀬さんもきっと満足)を食べさせてくれます。麺は長崎から取り寄せ、お客は全国から取り寄せて……いや、全国からやってくるようです」というメールをいただいているが、ほんと……でしょうね。お客は全国からやってくる? 九州からも? 鼻膨らませていいんでしょうね。志木かあ。ちょっと遠いけど行くかあ。
ところでミシガン在住松本さんから「ミシガンのチャンポン」の写真を送っていただいた。わざわざ食べに行ってくださったそうだ。
それで、肝心の中身はと言いますと、肉系のスープに結構な量の粉末唐辛子を入れた汁の中に、やや太めの麺とたくさんの具が入ったものです。具の内訳は、えび、トウガラシ、ナマコ、白菜、長ネギ、貝柱、牛肉、ズッキーニ、タケノコ、椎茸などです。店によっては椎茸の代わりにマッシュルームが入ってたりしますが、大方どこも同じような構成です。日本チャンポンと違って具にとろみはついていません。ただ、牛肉とエビは片栗粉か小麦粉をまぶしてから調理されていると思います。
戦前、朝鮮半島に移植された日本の食文化が現地化した物件です。いまでも韓国ではオデン、ウドン、アナゴ、ダシ、ワリバシはそのまま通じますと「地球の歩き方 韓国」にも書いてあります。
これだけ強烈なチャンポンを食べている韓国の方が日本の正しいチャンポンを食べたら「何だ、しょーむな」とパンチ不足にがっかりするかもしれません。でもいいんだもん。チャンポン好きなんだもん。で、日本の正しいチャンポンの具にはとろみはついていません。とろみがつくのは皿うどんです。私が制定を呼びかけている「伝統的チャンポンの保護に関する法律案」(伝チャン保護法案)の第24条にそう書いてあります。
みんみん(♂)さんからこんな写真が届いた。
「おでん立喰」。続報によると店の中におでんの屋台があるのだそうだ。二重構造。入れ子式。屋内屋台である。家の中の屋台の前に立っておでんを食べるのである。行ってみようかなという気持ちになるのである。
でもって、そこには渋ーいおじさんにいてほしいものである。あるいは着物にかっぽう着のおばさんにいてもらいたいのである。いるような気がする。
以下、読者メールの乱れ打ち。
新宿歌舞伎町入り口にあるなんとかという店のとんかつ茶漬けが有名です。私はまだ食べたことがありません。最近、歌舞伎町って行きませんねえ。用事がないんです、歌舞伎町にあるものに。明るく正しい現代日本のおじさんですから。
自分でもう少し調べれば分かりそうですが、沖縄ではいつ頃からおせち料理が食べられるようになったのか、どういうものをおせちとして食べているのかなどを教えていただけますか。よろしくお願いします(学生・アメリカ中西部在住)
はい、自分でもう少し調べてください。以上。ではなくてご参考までに一言。沖縄には確かにヤマトのようなおせちはないようです。でも伝統的な正月料理はあります。沖縄には「豚正月」という言葉があるように、正月に豚を食べるのです。農文協から出ている「ふるさとの家庭料理(21)日本の正月料理」にも詳しい説明があります。収録されている元旦の祝い膳の写真を見ると豚肉、昆布、豚の肝、揚げ豆腐、かまぼこなどがあります。雑煮の風習はないそうです。ちょろぎとだて巻きの出る幕はありません。いつからこんな正月料理の形になったか、自信を持って正確に答えられる人はそうそういないのではないでしょうか。
前から気になっている物件に関するメールが来た。
「縁日などで売っているもので、ソーセージに串を刺し、衣をつけて揚げた食べ物」のことを何というかという問いに対して、関東では「アメリカンドッグ」という答えが、北海道では「フレンチドッグ」という答えが顕著に多いそうです。北海道の「フレンチドッグ」は砂糖をたっぷり付けて食べるそうですが、ソーセージ入りドーナツみたいな味になるのでしょうか??
東京の縁日では「アメリカンドッグ」の屋台は普通に見かけます。関西では「フレンチドッグ」の方が一般的だという話も聞きます。北海道の稚内から沖縄の与那国島まで歩きながら、各地の縁日を回り、屋台の看板が「アメリカンドッグ」なのか「フレンチドッグ」なのか、はたまた第三の名前なのか、どこに境界線があるのかを検証する。リタイアしたらそんな旅をしてみたいなあ(ミルフォードさん)
衣が小麦粉なのかホットケーキミックスなのかという分類もあるそうです。よくわかりません。デスクやエミー隊員はもうすっかり忘れていると思いますが、夏になったら屋台系物件をテーマにしようと思っています。類似調査があることは承知しつつ、やってみましょうかね。ミルフォードさんの老後の楽しみをより豊かにするためにも
デスク 先日、近くの神社の例祭にいってきました。そこに出ていた屋台は、たこ焼き、大阪焼き、お好み焼き、おやき、焼きソバ、ベビーカステラ、味噌漬け、七味とうがらし、するめ、チョコバナナなどなど。八つ目うなぎの蒲焼とか、なんだかよく分からない中国の餅もありました。あと、じゃがバターも。その屋台では大きな缶からバターを切り出してつけてくれるんですが、缶には大きく「おいしいマーガリン」と書いてありました。
アメリカンドッグはなかったです。ところでドッグですか? それともドック?
野瀬提案 Bull・Dogなのにブルドックのブルドックソースに聞いてみよう
甘い醤油の謎に関する大作のメール、東京のうなぎは「めせろ」だったなどなど、またまた積み残し。申し訳ない。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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