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大事な書類を読んでいるときや計算をしているときなど、集中して仕事をしている時にいきなり声をかけられて驚いた経験はありませんか?

また気軽に「ちょっといい?」と声をかけたり背中をたたいたら「驚かせるなよ」と諭される。「大事なところだったのに」と愚痴られる。

不意に声をかけられるのは、大切な用件だったとしても、驚きや戸惑いがありますね。お願いをする場合や断る際には、いきなり用件を持ち出すのはいかがなものでしょうか?

例えば、業者に料金の見積もりをお願いする場合、伝え方は何通りか考えられます。

伝え方1:見積もりをメールで送ってください

伝え方2:見積もりをメールで送っていただけますか?

伝え方3:お手数をおかけいたしますが、見積もりをメールでお送りいただけますでしょうか?

伝え方4:恐れ入りますが、見積もりをメールでお送りいただけますでしょうか?

この4通りの伝え方を比べた場合、どれも目的は伝えてはいますが、印象はかなり違います。伝え方1は投げやりな印象が否めませんし、2はお願いしているイメージはありますが、少々物足りなさを覚える人もいるでしょう。

伝え方3や4は、柔らかな印象がありますね。

こんなふうに伝えられたら「きちんとした人だな」「質の高い会社だ」と、相手は思うはずです。すぐに見積もりを送信してくるでしょう。

印象の違いは、内容そのものよりも伝え方で生じるものです。

伝え方1は命令口調ですから傲慢な感じがして受け入れがたい、相手を不快にするお願い方法と言えます。

伝え方2は1のような威圧感はありませんが、3や4に比べると、素っ気ない印象を受けます。お願いされる側の気持ちを考えれば、3や4のように伝えてほしいですね。

3や4には「お手数をおかけいたしますが」「恐れ入りますが」といったひと言がプラスされていて、とてもていねいです。こう伝えられたら誰もが心地良く感じるでしょう。

これらのひと言は「クッション言葉」といい、仕事ができる人は意識的に使っているものです。彼らは気配りを「クッション言葉」に込めて伝えることで、人間関係を円滑に、仕事をスムーズに進めています。

人間関係を育てるクッション言葉

仲良くしたい、もっと相手を知りたいというとき、無理に急いで親しくなろうとすると、かえってぎくしゃくするものです。人間関係を育てるには、それなりの時間が必要です。

出会って間もない相手に対して、プライベートな質問をする時、

「どこに住んでいるの? 趣味は何? 休日はどう過ごすの?」

こんなふうに質問したら、間違いなく困惑します。

これは質問ではなく詰問ですし、なれなれしさやずうずうしさが満ちていて「失礼な奴だ」と敬遠されるはずです。

本来プライベートな質問は、相手が自発的に始めるまで待つのがマナーです。しかし、どうしても相手にたずねたいこともありますね。そのような場合には、どうしたらいいのでしょう。

私でしたら遠慮しながら質問をします。お伺いをたてながら聞くという、姿勢を見せます。

住まいをたずねる場合にはひと言「立ち入ったことをおうかがいしますが」と、前置きしてから「お住まいはどちらですか?」「どちらにお住まいですか?」などと切り出します。

こうすると安心感を抱き相手のガードも柔らかくなるのです。

また、相手にアドバイスしたり小さなミスを伝えるときに、いきなり切り出したら好意からの発言だと分かってはいても、

「そんなことお前に言われたくないよ」

「あなたに指摘されるいわれはない」

と、反論される可能性もあります。

自覚している痛いところを指摘されたら、人は素直に認められない。思わず反論してしまう人も多いのです。

このような場合には「差し出がましいこととは存じますが」と、前置きしてから本題に入りましょう。

差し出るとは、出しゃばることで「差し出がましいこととは存じますが」のひと言は

「あえて出しゃばったことを言いますが、お許しくださいね」

「出しゃばった発言だとは思いますが、聞いてくださいね」

と、失礼を予告しているのです。「差し出がましいこととは存じますが」は、相手の気持ちを尊重しながらも反論や誤解など生じないように防御も兼ねた「賢いクッション言葉」です。

人間性が明らかになるのは「断る時」

相手のためを思って、喜んでもらいたい一心から、アドバイスをしたり誘ったのに「要りません」「結構です」「何で?」などと反応されたら、怒り心頭。2度と誘うものか、話をするものか……と私ならば思います。

人それぞれ考え方や感じ方、物事の捉え方が違うのですから、自分の思いがそのまま伝わるときばかりではありません。親切がお節介や迷惑にもなりますし、気を回されるのが嫌な人もいます。

さて、困りましたね。

人間関係がうまくいくコツは、相手を自分だと思って接することです。こんなもの言いをされたら私は嫌だなと想像できることは言わない。頭ごなしに否定したり「うわの空」で聞く、話し半分で「分かった、分かった」と言葉を遮るなど、もってのほかです。

興味がない、有り難くない、かかわりたくないことを言われ断る場合でも

「お気持ちはありがたいのですが」

「お心遣いはうれしいのですが」

「お気持ちはありがたく頂戴しますが」

こうしたクッション言葉で前置きしてから、「今回は遠慮させていただきます」「お断りさせていただきます」と伝えましょう。

こうすると、断る結果であっても相手の気持ちには答えることになります。品格や知性あふれる断り方になるのです。

言葉は生もの。人により環境によっても伝わり方が変わってきます。ビジネスの場では明確に的確に伝えることが求められますが、それは「情緒を無視する」ことではありません。相手の気持ちを考えながら、正しく伝えるということです。

本題を切りだす前のひと言である「クッション言葉」を「まどろっこしい」とか「面倒だ」と考えずに、あなたの知性や教養を示すものとして身につけてください。

今回ご紹介した「お手数をおかけいたしますが」「恐れ入りますが」「立ち入ったことをうかがいますが」「差し出がましいこととは存じますが」「お気持ちはありがたいのですが」「お心遣いはうれしいのですが」「お気持ちはありがたく頂戴しますが」は、どれも響きのいい美しい言葉です。日本語の良さが反映されているといえるでしょう。そうした意味でも、活用してくださいね。

 「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は8月3日の予定です。

[日経Bizアカデミーの記事を再構成]

臼井 由妃(うすい・ゆき)
1958年東京生まれ。健康プラザコーワ、ドクターユキオフィス代表取締役。理学博士、健康医科学博士、MBA、行政書士、宅地建物取引士、栄養士。33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ会社経営に携わる。次々にヒット商品を開発し、独自のビジネス手法により通販業界で成功をおさめる。日本テレビ「マネーの虎」に出演。経営者、講演者、経営コンサルタントとして活動する傍ら、難関資格を取得した勉強法も注目される。ビジネス作家としても活躍。著作は50冊を超える。

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