だて巻き、黒豆、1年通じ食卓に おせち料理に限らず
ちょろぎ・だて巻き(2)
東海ラジオの番組に電話で出演した。アナウンサーの方が「ソースで天ぷら」の回でメールをくださり拙著にも収録させていただいているので、初めて声を聞けてうれしかった。
もうひとつうれしかったのは番組で事前にリスナーから「驚いた食べ物」に関するアンケートを取ってもらっていたことだった。
「東京に下宿していたころ定食についていたシジミ汁のシジミを一つ一つ食べていたら白い目で見られた。シジミは食べるものではなく出しを取るだけだと言うのです」
「関西で肉まんと言っても通じないことは知っていたんですが、シュウマイみたいに辛子を付けて食べるなんて」
「肉まんを買ったときに辛子がいるかどうか聞かれて驚いた」
「北海道の茶わん蒸しは甘かった」
「主人の実家の宮崎県では、お正月にはサバ寿司がお頭付きでどこのスーパーにも売っています」
「京都に行ったとき、味噌が甘いのに驚いた。刺し身を食べるとき醤油が普通のものだった」
「びっくりしたのは鹿児島の甘い醤油」
「松阪市のお好み焼き屋さんで、ほかの客が別椀の溶き卵に焼きそばをつけながら食べているのにカルチャーショックを受けた」
「北海道でジンギスカンをした後、たれを使って茶漬けを普通に食べていた」
「カレーライスにソースをかける」
当サイトではすでにおなじみの物件もあれば、そうでないものもある。東海地区から見ると関西の「カレーにソース」はびっくりものらしい。では、「カレーに醤油」はどういうことになるのだろうか。腰抜かす?
松阪の「焼きそばに溶き卵」は食の方言なのだろうか。我が久留米でも、ある焼きそばチェーンには「焼きそばに生卵のせ」というメニューがある。土地によっては目玉焼きのせというのもある。カレーと卵の関係を連想する。
ジンギスカンの残ったたれでお茶漬けというのは初耳である。でもこのサイトでは初耳が普通なので、これも北海道のある地域の方言である可能性は残る。
さらにうれしかったこと。それはアナウンサーの安蒜(あんびる)さんから次のようなメールをいただいたことだ。
「天ぷらにソース」だけでなく、こんなものも分かれていたのですね。名古屋・岐阜ネイティブはポリタンといえば青と思っているのです。もちろん、関東出身の私はその逆で青ポリタンには水でも入っていると思ってました。 オソルべし、フォッサマグナ(正確に言えば西縁)(東海ラジオ 安蒜豊三さん)
気づかなかった。言われてみてばその通り。灯油やなんかを入れるポリタンクの色は東が赤、西は青である。そのポリタンクの色の境界線が「ソースで天ぷら」とそうでない地帯の境界線と一致するというのである。どう考えたらいいのだろうたって、どう考えたらいいんだ。ソースもポリタンクも理由ははっきりしないが、そうなってしまっているのである。不思議なことである。ともかく飲み屋の話題がひとつ増えたことは事実であるが……。
ところで、番組のリスナーから送られてきたご意見の中で妙に引っ掛かっていることがある。「肉まん」「豚まん」に付けるものである。一人は辛子を付けることに驚き、もう一人は辛子がいるかどうか聞かれて驚いている。ということは東海地方では何を付けて食べるのだろうか。八丁味噌? マヨネーズ?
どうやら新しいテーマが浮上してきたようである。
だて巻きも欠かせません……正月料理といえば千葉県の九十九里一帯には、海藻を中途半端に煮込んで寒天状に固めた「どうかく」という料理が欠かせません。磯の香り以外は何も味がしないので「おかか」や「はば」と呼ばれる海苔のようなものと醤油をかけて食べます(「はば」というのも九十九里一帯だけのものらしく、昔青海苔が高級で手に入らなかったときの代用海苔らしいですが、今では青海苔もびっくりの高級品です)。
「『どうかく』ってどう書くの」と父に尋ねましたが、「知らん」とつれない返答しか返ってこなかったです(千代露議さん)
「『どうかく』ってどう書くの」というのは駄じゃれでしょうか。「豆乳ってとうにゅう風に飲むの」と同じですか?
デスク 「ところてんって、どういうところてんでとれるの」と同じです。
エミー隊員 「こんにゃくって、こんにゃ食い方するの」とも同じですよね。
野瀬・デスク ほ、ほぉー。
はい、千葉に続いて茨城でも存在確定です。黒豆に彩りとしてちょこんと入れるというケースが多いようですが、うちの娘は次から次に口に放り込んでいました。考えてみると寿司屋や牛丼屋でガリ・紅ショウガをどか食いするのに似ています。来年はやらせません
横浜もお仲間。夕飯に汁粉というのは確かに荒技です。でも夕食だからご飯もちゃんと食べなきゃということで、それにご飯を添えると「夕食は汁粉定食」ということになります。汁粉をおかずにご飯を食べる……うっぷ、うーっぷ。
だて巻きは「おせち」には欠かせない一品ではありますが、ちょろぎとは違い年中食べています。はんぺんと卵焼きの中間のものにダシと砂糖で味付けしたものです(お名前ありません)
黒豆とだて巻きを年中食べるんですか? 北海道のほかの方もそうですか。そうならば、何かよくわからないけどスゴイかもしれない。
と思って三林京子さんに酒の席(後述)で聞いたら「黒豆、年中食べますよ。金時豆とかうぐいす豆の煮たのを買ってたべるように黒豆もちょくちょく買います」ということでした。でも我が家で黒豆が登場するのは正月だけ。こっちの方が少数派なのでしょうか。
お煮しめ>(根菜)味が一つになり家族一丸の願い。ハスは良く見通しが利く、クワイは目が出るように、八つ頭は子宝、大根は無。ゴボウは根づくと言われています。
黒豆>まめに働くように
ちょろぎ>黒豆の上にのせる色合い(赤、梅青の薄い)酢漬で団結の意味
数の子>子孫繁栄
昆布巻き>喜ぶ、一家だんらん
栗きんとん>金運を包み込む
ゴマメ>別な呼び名田作り 家の団結
かまぼこ>大地に根づく
海老>不老長寿
まだまだ色々な意味合いがあると思います。
東京で生まれ育ち田舎を知らない(嫁も東京下町生まれ)人間は各地方の食に興味深々です(下町の山ちゃん)
カズノコ、煮豆、田作り、開(たた)きゴボウ……。いわゆる祝儀肴です。伝承料理研究家の奥村彪生氏によると「この祝儀肴は江戸中期には全国的になっていた。それぞれ安価な食材で、ごまめは肥料であった。情報が発達してなかった時代に全国民揃って祝儀肴を食べる。このことはおかしい。もしかすると徳川幕府が何らかの形で関与して祝儀肴を組み、周知させたのではないか」(vesta98年1号「雑煮と組重」)と言っています。
ハレの正月でもぜいたくせず、国民に倹約と勤労を勧める手段だったのでは、ということです。
これで東日本には正月にちょろぎ・だて巻きを食べる地域が広がっていることがわかった。と早合点はできないらしい。こんなメールが来た。
知りませんでした。VOTEの項目も考え直さなければいけません。北海道では年がら年中、だて巻きが食べられているかと思えば、行田ではちょろぎは節分の食べ物。日本は広い。
フライ・ゼリーフライについては近々現地取材を予定していますので、その折に詳しく報告します。
西日本はどんな具合だろうか。
京都には昔からちょろぎがあったようです。後半部分は、昔関西人が東京に行ってネギを買ったら、使えるところがちょっとしかなくて困ったという話の裏返しですね。
私が自分で黒豆をたくようになったのは京都大学入学後なのですが、かならずスーパーでちょろぎは調達していました。ただ、1人だとあのちょろぎ1袋は多いのですよね。それと売っているところが限られていました。
京都人のお重詰め(「おせち」とはいわないのが京都人だそうですが)を、家庭教師先でいただいたことがあります。で、そこは黒豆+凍みコンニャク+ちょろぎという組み合わせでした。「凍みコンニャク」とは、コンニャクのフリーズドライで、そこのおうちでは、欠かせないのだそうです。食感はスポンジみたいな感じです。
もっとも、そこのおうちは京都人といっても、うちは明治のころに滋賀から出てきましたので、というおうちで、近所(バリバリの中京 二条衣棚)の人たちは「あそこのおうちは滋賀のおヒトえ」というのだそうで(十代続かないと京都人とは認定されない、の法則)(多田伊織さん)
やっぱり京都もちょろぎ地帯です。丹羽のJAでも「黒豆にはちょろぎ」と言っています。すでに大阪も仲間入りしています。定番度の濃淡は別にすると関西全体が「ちょろぎ食べまっせ」です。
「十代続かないと京都人と認められない」で思い出したことがある。金沢に転勤していた3年間、私はずっと「出張員さん」と呼ばれていた。出張じゃなくって転勤だってばといくら言っても「出張員さん」。住民票を移し市民税を払っていても3年間の長期出張者だったのである。古都は似たところがある。
デスク遠い目 京都は独特ですよね。こっちの思い込みのせいかもしれませんが。昔、京都の大きな会社の社長に取材に行って、帰り際に「あんた、うどん食べるか」と言われて、必死に断ったことを思い出しました。「京のぶぶ漬け(茶漬け)」という話が刷り込まれていたので、ここで「いただきます」といったら「あれは田舎者で」とか言われると思って。結局、社長室でさし向かいになって出前の素うどんを食べて帰ってきました。味はわかんなかった。
大きな会社ならせめて「たぬき」を…
「卵焼き」はだめ? じゃあ「卵やき」は? どうしても「玉子やき」でないといけないんですか? どうしてー?
関西もまだら模様? もう少し詳しい情報があると助かります。
だて巻きとだし巻き、どう違うのか分からないほど働くまで知りませんでした。そのくらい、おせちには出たことありません(山口県のあきさん)
ちょろぎを2パックも食べてしまったこと、娘に成り代わって陳謝いたします。来年からはほどほどに食べるように教育いたします。ところで山口県内パン屋さんが1軒しかない某市に住むエミー隊員の母親も、ちょろぎを初めて食べて吐き出してしまいました。山口県の方はみなさん、ちょろぎペッペなのでしょうか。
<ちょろぎ> 現在は食べませんが子供のころは梅酢につけたカリカリのちょろぎをよく食べていた記憶があります。そのころは「よなき」という貝に似てるなと思ってました(HAMAN@広島さん)
ちょろぎは広島まで広がりました。吐き出しておられません。大丈夫です。
しかしだて巻きはおせちに入らない。中国地方はだて巻きを正月に食べない地域なのでしょうか。
皆さんもお気づきと思うが、九州、四国からのメールがない。知らないものは書きようがない? それとも…?VOTEが今から楽しみである。
話はそれる。昨夜、三林京子さんとおじさん1人、おじさん心得2人の計4人で渋谷の居酒屋に行った。彼女から「缶詰めでお酒飲ませるお店に連れてって」と言われたから行ったのである。女優だってときには缶詰めでお酒が飲みたいのである。
場所は秘密結社「渋谷をおじさんたちの手に取り戻す会」の秘密基地。路地をぐぐっと曲がってにいちゃんねえちゃんが全然通っていない一角にある。その夜のほかの客は見事なくらいおじさんばっかりだった。
テーブルに座ってメニューを見ると「ホッピー」があるではないか。うれぴー。
「三林さん、ホッピー飲みますか」
「ホッピーって何?」
「焼酎にビールみたいなノンアルコール飲料を注いだものです。東京近辺のおじさん御用達飲料。低糖質、プリン体ゼロなのに若い女性が飲んでいるのを見たことない」
「それ、飲みます」
「つまみは?」
「シャケの中骨の缶詰めあるかしら。あれが缶詰めの王様だと思っているんです。それともつ煮込み」
カウンターに並んだ缶詰めの山をみると、シャケの中骨の缶詰めがあった。よかった。
というわけで、缶詰めとホッピーを前にした三林さんである。
さらにポテトサラダや卵焼きやサバ味噌の缶詰めなんかを頼んで、しめは魚肉ソーセージ入りナポリタン。昭和40年代の味が渋谷の居酒屋に生き残っている。この店の人気メニューである。というわけで、これがその物件の写真を撮る三林さんである。
私以外の3人はナポリタンを注文したが、出てきたと思ったら3人ははしでぐわーっと食べ始め付け合わせの千切りキャベツ1本残すこともなく、あっというまに完食したのだった。腹減ってたんだねー。
で何が言いたいかというと、特に言いたいことはないのである(c)赤瀬川原平
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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