夏はニンニク ちょい足しで美味、ガツンと入れれば…
「ニンニクさえあれば、料理はおいしくなる」中学生の私にそう教えてくれたのは、イトコの奥さん。フランスに移住したイトコがイタリア人の奥さんを連れて里帰りする途中、我が家にしばらく滞在した夏のことだ。
いかにも料理上手な人らしくテキパキと日常系のイタリアンを繰り出し、房総にナポリの風を吹かせてくれたものだ。
以来、自分も魔法の呪文のように「ニンニクさえあれば」と口にする。ニンニクをちょっと足すだけで輝く料理の多いこと。いわんやニンニクをガツンと効かせるをや、である。
ニンニクは中央アジアのキルギスが原産といわれているが、古代エジプトのころにはもう文献に現れる。ピラミッドを作る労働者のスタミナ源として、盛んに食べられていたと記録されているのだ。
ニンニクに含まれるアリシンやスコルジニンが疲労回復・滋養強壮に役立つと分析されるずっと以前から、その効用は世界中に知られていたのだろう。またその香りや味はどの国の食材とも相性が良いため、世界中で愛用されてきた。
スペインには「ソパデアホ(アホのスープ)」と呼ばれるニンニク料理がある。アホ(ajo)とはニンニクのこと。その名の通りニンニクがどっさり入ったスープである。
また今や日本で大人気のアヒージョも「ajillo」というスペルから推察されるように、ニンニクが主役。
トルコやギリシャでは、ヨーグルトにニンニクを混ぜたソースを肉やパンにつけて食べる。フランスのブイヤベースにはアイオリというニンニクソースがつきものだ。インドやスリランカなどスパイスを多用する国でも、ニンニクが重要なレシピは枚挙にいとまがない。
そしてアジア。中国、韓国、タイからもしニンニクが消えたなら、一体どうなってしまうだろう。
もちろん日本とて例外ではない。源氏物語や万葉集の時代は薬として使われていたニンニクは、のちにニンニクたっぷり餃子や焼肉、ラーメンなど独自の発展をしてきた。ニンニク料理の専門店も存在する。
今日も各地でニンニクゴロゴロ、ニンニクマシマシの料理が人々を喜ばせているのである。
年中売られてはいるが、旬はちょうど今、である。ドラキュラも恐れたニンニクで、ニッポンの夏を乗り切ろうではないか。
(食ライター じろまるいずみ)
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