日々の発展を模索 努力の継続で光明を松下幸之助 述「リーダーになる人に知っておいてほしいこと」(2)

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン 奥野慎太郎氏

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン 奥野慎太郎氏

素直な心で衆知を集めることに続いて、松下幸之助が成功するための行動原則として掲げるのが、自らの境遇を受け入れて成功するまで努力することと、一日一日新たな発展の道を模索することです。

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン 奥野慎太郎氏

松下幸之助は幼くして大阪の商家にでっち奉公に入り、毎朝向こう三軒両隣を掃き清めながら商売を学びました。そうした経験を踏まえ、自らの境遇を受け入れること、自ら考え足を運んで必要な教えを請うこと、得られた知識や技を使いこなし持っている知識以上のことを考え出すことが重要だと説きます。

政治の道でも経済の道でも、思うように事が進まず、将来を悲観することもあるでしょう。それでも「この道を進む」と決めたら成功するまで努力をあきらめない使命感と気力が何よりも大切です。一つの道において成功のコツをつかんだ人ならば、その経験を生かしてどんな仕事でも成功するかもしれません。しかし、一事に成功できない者が別のいろいろな事に手を出しても、結局は成功しないでしょう。

松下幸之助は、松下電器産業(現パナソニック)の成功について、明確な計画性によるものというよりも、「その日その日を充実してやっていたら」いつの間にかそうなっていたと繰り返し述べています。

信長、秀吉、家康の性格を表すためよく引用されるホトトギスの句について問われた松下幸之助は、自分なら「鳴かずんば、それもまたよしホトトギス、やな」と答えました。そうした気持ちで自然の流れを否定せず、ただ一日一日新たな発展を目指して努力を続けることが大切なのです。

精いっぱい生きていれば迷うこともあります。迷うときは迷うだけ迷い、光明がみえるまで勉強し研究し続けること。ただし、自らの感情にとらわれ、迷わないで良いことに迷うようなことは決してないように、素直な心を忘れないこと。それが成功に至る道であると説いているのです。

ケーススタディー 「どこで戦うか」よりも「どう勝つか」

自らの境遇を受け入れること、この道を進むと決めたら成功するまで努力をあきらめないこと。これらは個人としてのビジネスリーダーに対してのみならず、企業経営そのものにも言えることです。

企業の経営戦略はいくつかの要素から成り立ちますが、ベイン・アンド・カンパニーではこの要素を(1)何を目指すか、(2)どこで戦うか、(3)どう勝つか、(4)どう実現するか――という4つに分けて定義しています。マイケル・ポーターなどが提唱する古典的な経営戦略論では、突き詰めればこのうちの「どこで戦うか」が最も大切であり、これを間違えると収益を上げることは難しい、となるのですが、ベインではどちらかというと「どこで戦うか」よりも「どう勝つか」の方が重要であると考えています。

実際に、過去20~25年くらいの長期での企業の株主総リターンのばらつきを分析すると、金融、小売り、製造業などといった業種による違いよりも、それぞれの業種内での会社ごとのばらつきの方が大きい、ということが分かっています。もうかる業界を選ぶかどうかよりも、選んだ業界の中でいかにうまくやるかの方が、リターンを大きく左右しているということです。

また10年以上にわたって持続的に売り上げ・利益を成長させている大手企業を分析しても、どの10年を見るかによって多少の差はありますが、特定の業界や国が突出して多いということは総じてなく、やはり個別企業の経営の巧拙によるところが大きいように見えます。

業界トップ企業が「持続的価値創造」を実現できる

例えば2004年から14年の10年間で見た調査(先進国・新興国を含む主要43カ国3000社以上が対象)では、本社所在国の上場企業の年平均成長率を売り上げでも利益でも2倍以上上回り、かつ資本コスト以上のリターンを上げている企業(これをベインでは「持続的価値創造企業」と呼びます)は11%ありました。

これを業種別に見ると、IT(情報技術)・ソフトウエアやヘルスケアが23%と比較的高く、他方で建設業が8%、メディアが5%と比較的低くなってはいますが、逆に言えば上記のように定義した「持続的価値創造企業」の出現率の幅はその程度であり、どの業種でもその定義に該当する企業は見られます。

日本企業の例でも、建設・工作機械のタダノ、マキタ、消費財のユニ・チャーム、アシックスなど、グローバル市場での成長に持続的に投資してきた企業は、伸び悩む国内市場の中でも収益成長を実現しています。小売りの良品計画、ヤオコーなど、国内中心でも持続的な成長を実現している企業もあり、この11%に含まれています。

こうした持続的価値創造企業の出現確率ですが、業界による差は15%ポイント程度であるのに対して、業界内のリーダーシップ、すなわちシェアが高いかどうかによる出現確率の差は、その2倍程度であることが分かっています。

例えば、持続的価値創造企業の出現率が平均10%の業界の場合、その業界で自社のシェアが業界トップ企業の半分以下である企業が持続的価値創造を実現できている割合は5%以下でしかなく、これに対して業界トップ企業が持続的価値創造を実現できている割合は30%近くになっています。

一方で、規模や成長性、収益性などの点でどんなに魅力的な業界であったとしても、自社のシェアが業界トップ企業の半分以下しかなければ、持続的価値創造企業の出現確率は8%以下にとどまっています。すなわち、自社がある業界の下位プレーヤーである場合に、持続的な収益を上げるための方策としては、もっともうかりそうな別の業界に下位プレーヤーとして進出するよりも、今いる業界でトップを目指す方が持続的な結果につながりやすい、ということです。どんな業界であっても、そこでのリーダーシップを追求して勝ちきることが、「隣の芝は青い」的発想で魅力的な新事業を追い求めるよりも重要であることが良くわかる統計値ではないでしょうか。

この道を進むと決めたら成功するまであきらめない

さらには、為替やコモディティー価格の変動が早くなり、新興国の台頭で世界経済の動向に影響を与えるプレーヤーが増え、上場企業株主の平均株式保有期間も短くなる(例えば米国では1960年に平均8年であったのが2010年には平均半年と、50年で10分の1以下に短縮)など、経営環境や前提の不確実さが増す中では、これまで以上に業界に対する深い知見や、自らの差別化の源泉となるケイパビリティー(組織の持つスキル・能力)や資産を磨くことが重要になっています。生半可な知識や淡い期待値で知見のない業界に参入しても、よほどの起業家精神とその業界へのコミットメントがない限り、既存プレーヤーに勝つことは難しいでしょう。

むしろ不確実性の高い環境下での経営戦略では、やって後悔のないことや自社の中で完結する難しい決断(例えば不採算事業の処理など)を決して先送りしないこと、複数の将来シナリオとそれに応じた経営上のオプションを設定して、どちらに進むべきかを常にモニタリングしながら意思決定することが求められます。

昨今注目されているAI(人工知能)の導入などは、意思決定の助けにはなるかもしれませんが、最終的に決めて実行するのは経営者です。自らの境遇を受け入れ、この道を進むと決めたら成功するまで努力をあきらめない、という松下幸之助の教えは、不確実性が高まる世の中だからこそ、より必要とされる姿勢なのではないでしょうか。

奥野慎太郎(おくの・しんたろう)
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー
京都大学経済学部卒業、 マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院経営学修士課程修了。東海旅客鉄道(JR東海)を経て、ベインに参画。全社戦略・ターンアラウンド(企業再生)、M&A(合併・買収)戦略を中心に、ハイテク、小売り、消費財、製薬、自動車、建設、金融など、幅広い業界のプロジェクトを手がける。

この連載は日本経済新聞火曜朝刊「キャリアアップ面」と連動しています。

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リーダーになる人に知っておいてほしいこと

著者 : 松下 幸之助
出版 : PHP研究所
価格 : 1,028円 (税込み)

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