すた丼、スタカレー…カツ丼以外の関東ご飯もの
どんぶり・ライス(4)
三林京子さんからメールが来た。「あたまライスって何?」「あたまライスですか?」「私のHP読んでないの? 早く読んで、築地に行ってちょうだい」
というわけで彼女のHPを読んだら確かに「あたまライスって何だろう」と書いてある。築地の場外市場にある店で出しているメニューなのだそうだ。
というわけで小雨降る中、築地の場外に行ってきた。道路、路地、通路を縦横に歩き回ること1時間。入りもしないのに店という店の壁に張り出されたメニューをしげしげながめまわすこと1時間でもあった。だが、見つからない。どこにもない。
遭遇したのは「合がけ」というメニューであった。ご飯の半分に牛丼の具を、残り半分にはカレーをかけた物件である。松屋の「カレ・ギュウ」と同じだが、こっちの方は「40年来の人気メニュー」だそうだから年季が違う。年季も違うが「あたまライス」とも全然違う。収穫なし。
というわけでとぼとぼ会社に帰ってきたら、こんなメールが届いていた。
うわーん、どうして読者からのメールを先に読まなかったんだろう。うわーん、「○○ちゃん」にあったんですか。わからなかったなあ。でもってそれ、普通のカツ煮定食じゃないですか。なんで「あたま」なんてネーミングにしちゃったんでしょうか。まさか「台」のご飯を抜いて別盛りにしたら「あたま」が残ったなんて意味だったら怒っちゃうぞ。チャブニチュードするぞー。
ここでデスク乱入 はいはい。そう興奮しないで。たぶん、それが正解でしょうから。このお店では「あたま十文字」なんていう訳の分からない注文が飛び交っているという噂もあります。ちなみに「からだライス」というのは、カバ、ライオン、ダチョウがのった野生丼ですが、この店にはありません。
野瀬ハテナ 「あたま十文字」って何のこと? 「からだライス」は動物園の食堂にあるの?
デスク得意げ カツをざくざくっと切ってあるのが普通のカツ丼。その後で包丁を横向きにしてもう1回ざくっとやったのが十文字です。一口サイズになるわけですね。
からだライスは、確かアフリカの方に……。
卵とじ煮込みカツ丼の包囲網にただ一点空いた穴的存在である栃木県。先週私は「何となく栃木にもソースカツ丼があってほしい気分」を表明したが、ついさっき元弊社宇都宮支局員である社員某がつかつかとやってきて「栃木にもソースカツ丼あります。JR両毛線沿線が中心です。都市名で言うと佐野市とか足利市。私も何度か食べました。地元では群馬県桐生市がソースカツ丼発祥の地だという説があります」と言ったのである。
この発言を裏付ける読者からのメールもいただいた。メールによれば「栃木市、今市市、塩原にもある」という。よし! 包囲網完成。
正直に書くと、私は今回のテーマを始める段階では首都圏を囲む半円状のソースカツ丼地帯が存在するなどとは、これっぽちも思っていなかった。こんなにソースカツ丼が広く食べられていることを想像すらしなかった。しかも、会津若松のソース味卵とじ煮込みカツ丼や山梨の自力ソース(醤油)かけカツ丼のように、地域によって実に多様な顔を持っているのを初めて知った。
新潟の醤油味カツ丼の存在にも驚いた。毎回同じことを言って恐縮だが、日本は広い。
おっと、VOTE速報値が届いた。福井は当然として福島、栃木、群馬、山梨、長野という首都圏包囲軍団は予想通り「各種ソース」のカツ丼が有意な数字になっている。新潟は84%が例の「醤油味」であると答えたが、残りは各種ソースとなっている。ということはメールにあったように醤油味は新潟市を中心とする地域で、ほかの所ではソースなのだろうか。デミグラスカツ丼の岡山も70%が各種ソースとの回答。
意外だったのは岐阜、愛知にもそこそこ各種ソースとする回答があったことである。さらに奈良にいたっては「ソース味あります」が60%になっている。事前情報が全くなかったので正直びっくり。地図をじっくりご覧になってそれぞれに読みとっていただきたい。
「お肉問題」のときに書きましたが、東京に豚肉を普及させたトンカツが本格的に関西進出を果たしたのは戦後のことでした。それから20年余りでカツの分野ではポークがビーフを圧倒したということになります。でも私なぞは一度、ビーフのカツカレーを食べてみたいと思います。復刻すると案外いけるかもしれません。
煮込まないで、とろみあんをかけるタイプ。これも珍しいですね。丼ものは融通無碍(むげ)、何でもありです。
そういえば、北海道のカツ丼情報は初めてです。局地的に非煮込み型カツ丼が存在するのかもしれませんが、それにしてものりを刻んで振りかけるのではなく、カツの下に敷くというのはレアな物件でしょう。
東京多摩地区限定丼?
丼に並々と盛られたご飯にのりを敷き、その上に醤油・にんにく(ポイント1)・みりん・酒などと特殊エキス(ポイント2=秘伝のたれ?)で炒めた豚肉をのせ、肉の間に生卵(ポイント3)を落としたメニューです。もやし入り味噌汁とタクワンが付いてきます。上記ポイント1~3が奏でるハーモニーが不思議と舌に刷り込まれ、腹が減ると無性に食べたくなる味でした。もともとは東京都下・国立市のある店が発祥で、当時は国立・国分寺に3店舗ほどあったのですが現在は業容を拡大し八王子、立川、小平、府中と多摩各地に進出しているようです。国立や国分寺近辺の若者の間では知られたメニューで、かつ多摩限定だと思いますので、対象は狭いが、ある意味ではギリギリ「食の方言」になるかなあと……。
さいたま市の「スタカレー」が登場するかと思っていましたが、その代わりに多摩の「すた丼」の登場です。スープなしの「油そば」もどっかあの辺生まれでしたね。武蔵境でしたっけ。
スープ入り焼きそばという文字を見て思い出したのは「ソース味ラーメン」です。某チェーン店の新商品で店の前にでっかい看板を出していましたが、ヒットしたのかどうか人ごとながら心配しています。でも醤油味のスープにソース味の焼きそばを入れて立派な商品になっているくらいですから、なんとかやっているんでしょうね、ソース味ラーメンも。
ちなみに親子丼も一般的なものと異なります。大きな鍋で4~5人分まとめて作れるものです。鶏肉、タマネギ、ニンジンを炒めた後、出汁を入れ、薄口醤油で味をつけて溶き卵を入れます。出汁は薄め、つゆだくの状態になります。大学で兵庫に行き親子丼を食べたとき、その味の濃さにすべて食べられませんでした。……カツ丼もほぼ同様の製法でした(愛媛生まれ神奈川在住さん)
アジ飯はうまそうですね。南予一帯にあれば立派な食の方言だと思います。親子丼、カツ丼の作り方も珍しい。特にニンジンが入るところが珍しい。
NHKの塩田さんが某店で「世界初の冷やしカツ丼」を出しているのを発見した。「冷やしカレー」「冷やしおでん」と似た発想のようだ。でも塩田さんは「あるよ」と言うだけだし、私も「あるね」である。「冷えたカツ丼」なら昔からあっちこっちで食べているし。特に出前取ったりしたときなんか。以上。
ソースカツ丼としては特に問題ない物件のようですが、事前の知識がないとびっくりすることはよくあるものです。でも当サイトをご覧の皆さんは、もう日本国中どこでカツ丼を食べても驚かないと思います。このメール、九州弁につられて紹介した気がしないでもない。
実は今回のテーマで一番心配していたのは牛肉文化圏にお住まいに皆さんはどんな反応を示されるだろうかということでした。カツ丼そのものをあんまり食べないという人にとって興味が持ちづらいテーマですからね。VOTEの数字を見ると杞憂だったことがわかりましたが、伊勢地方にトンカツ専門店が存在しない、あるいは数えるほどしかないというのなら、それも一つの食の方言かも知れません。でもここは逆にトンカツ・ラーメン専門店が異常に多いという点を東京の方言と考えた方がいいのでしょう。ほんと、東京はトンカツ・ラーメンに加え立ち食いそばが多い。
サキイカチョコをちょっと調べたが、正確には「いかチョコ」でメーカーは名古屋ではなく愛知県春日井市だった。どこに売っているのかなあと思っていたら予想もしない所から驚くべき情報が飛び込んできた。
ワオ。どこでどうつながってしまったんでしょう、春日井市とハワイ。ハワイ州というのはアメリカの愛知県? 送っていただいた写真を見ると、姿形はムズカシイですね。公式マスコットには向かないかも。だって、一個一個全部違う形してるんですから。
予想通り「台抜き」への反響。短めに。
天抜きだったら天ぷらそばの天ぷらが抜けてしまって、つゆだけになってしまいます。「天抜き」は「天ぷらそばの台抜き」の略ではないでしょうか。「鴨抜き」も同じだと思います。大阪にある某うどん店の「肉吸い」の場合は、肉うどんからうどんを抜いた「汁物」ですが……。
私が「台抜き」という言葉を知ったのは金沢勤務時代です。小野さんと全く同じでカツ煮定食が出てきました。天ぷらそばの台抜きは福岡で初遭遇。ということは「台抜き」は西日本の言い方で、「天抜き」「抜き」は東日本的言い方の可能性があります。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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