山梨のソースカツ丼 正しくは「トンカツ定食丼」?
どんぶり・ライス(3)
さっきメールをチェックしたら友人から「名古屋に『さきいかチョコ』を出しているメーカーがあるらしい」という情報が乱入していた。さきいかをチョコでコーティングしたものだという。これ、ほしいなあ。見てみたいなあ。「食べ物 新日本奇行」の公式マスコットキャラクターにしたいなあ。誰か知りませんか、さきいかチョコ。
その友人というのはNHK放送文化研究所の塩田雄大研究員で、最新の「放送研究と調査」(2003年10月号)に「食関連用語における語彙的な『ゆれ』―西の綿菓子・東の綿あめ」という論文を発表している。これが実に面白い。
綿菓子と呼ぶか綿あめと呼ぶかを尋ね、その回答を日本地図に落とすと糸魚川静岡構造線のちょっと西辺りを境界としてものすごくきれいに分かれたのである。もちろん西日本が綿菓子、東日本が綿あめ。私は当然のことだが、綿菓子と呼んでいた。
(1)一見すると卵のかかった親子丼・カツ丼風なのでそのつもりで食べる。
(2)食べていくに従い、肉の歯ごたえがないのに気付く。
(3)が、油で揚げたコクのある風味がする。何っ、いったい何なのこれはっ。
(4)茶色い部分を箸でほぐして分析すると
(5)おおー油麩じゃーん
というわけで、油麩丼は登米郡登米町のいかにもな食堂でメニューにのってます(仙台市の猫耳さん)
こういう個条書き好きです。
特に、食べていくに従い肉の歯ごたえがないのに気付くところが、明るい脱力感を表現していていいですね。
宮城県北部、登米郡登米町の油麩丼、マークします。
起源は諸説あるようですが市内の重松飯店が発祥らしいです。まかない料理が正式メニューになったような感じです。私は今治市の南側の東予市の生まれなのですが、今治市以外の中華料理店ではほとんど見かけない「愛媛県今治市」限定のご飯物のようです(今治の鎌田さん)
このメールを待っていました。そうです、鉄板焼き鳥と並ぶ今治の食の方言「焼豚玉子飯」です。最初にこの食べ物を知ったときに思ったのは「何というそのまんまの名前なのだろう」ということです。説明の必要なしというところにエネルギーのようなものを感じました。
そして実際に食べてみると焼き豚と卵のみのトッピングですから「焼豚玉子飯」と呼ぶしかなかったんだろうなあと納得したのでした。でも、ちょっと野菜がほしくはありません?
注文すると丼ご飯の上に薄めの大きなロースかつが2枚のっかって出てきました。そのかつがわらじに似ているから「わらじかつ」なのだと勝手に解釈して早速食べ始めると、だし汁に浸されたかつはやわらかく、出来立てで温かかったこともあってとても絶品でした。地元の人は出前で頼む人が多いようで、出前用の丼をたくさん運ぶ店員さんが何度も出入りしていました。ちなみに秩父市内にもわらじかつのお店があるようです。しかし、埼玉県全体では一般的な食べ方とはいえないと思うので秩父地方独特の食べ方ではないでしょうか。(匿名希望さん)
秩父地方の「わらじかつ」をゲットしました。かつを浸したたれというのは、何も書いておられないところからすると醤油系ですね。少なくとも卵とじではない。埼玉県にも卵とじ以外のカツ丼が存在するという貴重な情報です。
山梨がソースカツ丼地帯であることは前回までに判明した。私は山梨のソースカツ丼を福井のそれと同じようにソースに浸してご飯の上にのせたものだと思っていた。ところが「違う」というのである。前回紹介した弊社社員某が東京都千代田区で体験した「自力ソースかけカツ丼」のことを思い出していただきたい。山梨のカツ丼がそれだという。
ちなみに私は醤油をかけて食します。醤油派は主流ではありませんが、少なからず存在します。なので山梨のカツ丼はソースカツ丼とは言い切れないのです。子供のころ天ぷらを砂糖醤油につけて食べてました。焼餅も同じくです(甲府市在住・かんたさん)
うーん。そうであったか。付け合わせも含めて丼飯に集約した卓上ソース自力かけ型「トンカツ定食丼」か。これは立派な食の方言に違いありません。それに、ソースではなく醤油というオプションもあるらしいから正確には「卓上ソース・醤油選択自力調味型カツ定食丼」ということになります。
弊社社員が行った店の主人が山梨出身である疑いが浮上してきました。
ついでですが、私は天ぷらを砂糖醤油で食べたことがありません。これからもないと思います。
しかしこれ、もともと岡山が発祥の地ではないんです。 実は東京の渋谷にある「いんでぃら」というカレー店が発祥。昭和30年の創業からの人気メニューで今も健在なのです。この「えびめし」が岡山に伝わったのは昭和40年代初め。渋谷の「いんでぃら」で働いていた1人の男がカレーの技とともに「えびめし」を岡山に持ち帰ったためです。
大阪・広島という"お好み焼き界の2大巨頭"に挟まれた岡山には、ソース味を受け入れやすい素地があったのでしょう。「えびめし」は岡山の地において爆発的な人気を博し、あっという間に"岡山名物"にまで登りつめてしまいました。
一方、オリジナルである渋谷の「えびめし」は、カレー店の名物料理の範疇を出ることもなく、ましてや"東京の都民食"にもなれず、ただただひっそりと生き抜いてきたのです。ですから、この「えびめし」の歴史を見てみると、私たちが「食の方言」と考えているものも、その多くが実はついこないだの小さなできごとがきっかけで始まったものであり、その土地に広まり根付いたのは、多分に偶然が重なっただけなのかもしれませんね(みんみん♂さん)
岡山からえびめしメールが来ないので、みんみん(♂)さんに代弁していただきました。私は渋谷ではなく赤坂TBS前の「いんでぃら」で食べたことがあります。それにしても何であんなに真っ黒けなんでしょう。いかすみライスかと思いました。岡山では上に錦糸卵をのせますが、元祖はどうなんでしょうか。
同じみんみん(♂)さんから山形駅前のビルの地下食堂街でみつけた「ビール定食」のメニュー写真を送っていただいた。名古屋の「かき氷定食」と同じくらいの豪腕メニューである。ビールをおかずにご飯と味噌汁と漬物……てなことはないであろう。ビール付き定食のことではないかと思うが、わからん。
突然だが、八戸から「うに丼注意報」が発令された。
皆さんご期待の丼は「生うに丼」と呼んでいます。こちらは生うにの下のご飯が見えるかどうかでお値段も違いますが、1,800円-3,000円位が相場でしょうか。昨年12月に新幹線も開通し、八戸方面を旅する方もいらっしゃるとは思いますが、「えっ、うに丼が安い!ラッキー!!」と思って後でがっかりしないように、八戸うに丼注意報を出しておきます。
ちなみに「うに丼=うにの卵とじ丼」地帯が八戸だけなのか、周辺地域もなのか把握できていません。北海道などはどうなのでしょうか?
(PS. ついに八戸でもご当地グルメの1品に名乗りを上げようと、「せんべい汁プロジェクトS/全国ブランド化計画」が始動しました。せんべい汁がいつから食べられるようになったのか、どの地域で食べられているのか、出汁や具に地域ごとの違いはあるのか(歴史・民俗調査)、また、いったい何軒の飲食店でメニューにあるのか、出汁や具の種類、値段、営業時間は(飲食店調査)などなどをデータベース化して、そのデータを活用した飲食店マップやのぼり・ポスターなど統一のPRツールを製作し店頭などで活用するほか、HPやせんべい汁百科辞典?などで全国に情報発信していく計画です(ちなみに企画・実施担当は私ですが……)。来週、宇都宮餃子会・富士宮焼きそば学会と、先進地の調査に行って勉強してきます。久留米の焼き鳥に負けないように頑張ります(八戸市・アンぱんちさん)
少なくとも八戸の「うにの卵とじ丼」は食の方言として理解しています。ほかの地域にもあるのかどうか、皆さんの情報をお待ちします。ところで「せんべい汁」はテーマとしていいですね。私が取材にうかがったのは新幹線開通の前の年でした。店によって様々なバリエーションがあります。観光の素材になると思います。期待しています。
「せんべい汁」って何? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、南部せんべいのプレーンなやつを入れた鍋物、もしくは汁物です。
栃木にソースカツ丼がないのなら、ソースカツ丼軍団の包囲網には大きな穴が開いていることになります。首都圏に結集した卵とじカツ丼軍団には朗報でしょうが、個人的には栃木もソースカツ丼地帯であってほしかったなあ。理由は特にないんですが、何となくね。
と言いつつ、関東周辺部でなぜ栃木にだけソースカツ丼がないのか不思議です。原因を考える手がかりもありませんが、それにしても不思議です。隣の群馬、福島にはあるのに。
野菜炒めと合体した沖縄カツ丼関連で、別の沖縄系丼もの登場。
あと、私も金沢に住んでいたことがあるのですが、ハントンライスは安くてうまいので、よく近所の「すぎの実」「グリルニュージャーマン」という定食屋で食べてました。しらべたら、「ハントン」とは「ハンガリー」の「ハン」と、フランス語でツナを意味する「トン」(thon)であるんだそうで……よくわかりません。当時はとんかつの半分くらいの値段だからハントンなんだろう、なんて言っておりました。しかしなんでまたハンガリーなんですかね……謎だ……(沖縄在住名古屋人さん)
観光客の中にはチャンプルー定食丼を食べている人がいるんですか。山梨のカツ丼もそうですが、よその地域ではご飯とは別の皿にのせて「定食」にしているものを合体して丼化してしまう文化ってあっちこっちにあるんですねえ。で、東京だけではないかもしれませんが「カツ煮定食」というのは卵とじカツをご飯にのせずに別皿に盛ったものです。カツ丼の下部構造と上部構造を分離したヤツ。「一緒にする」の反対で「別にする」というメニュー展開です。
「天ぷらそばの台抜き」と最初に遭遇したときはびっくりしました。そもそも、天ぷらそばに「台」があるのか、あるとすればどんな「台」なのかと思いましたが、出てきたものは「そば抜き」、つまり天ぷらだけがつゆに浮かんだものでした。なんでそんなことするの?
ハントンライスの語源については別の方からも同様のメールをいただきましたが、どうしてそんな名前にしたの?
ここでデスク乱入 台抜きについては、答えを教えてくれるメールがたくさん来そうですね。エドツコにはジョーシキでゲスから。
野瀬 ゲソ天好き。
東京でいうポークチャップのことだと思います。もしそうなら、東京の洋食店にまだ少しは生き残っています。大阪にも生存しているかもしれませんが、みつからないなら東京においでの節に洋食店や食堂のサンプルケースを見てください。運が良ければ発見できると思います。昔はどこにでもあったんですけどね。ただ、カーサさんにとって懐かしい味かどうかはわかりません。ポークチャップの「チャップ」がケチャップのチャップになっている場合が多いからです。デミグラスソースじゃなくって。
どなたからとは書かないが、ひところ話題になった米沢の「おっぱいプリン」を団体で送っていただいた。中の紙に「父(チチ)の日のプレゼントにどうぞ」と書いてあったのでみんなで母(ハハ)と笑った。
それと以前書いた「ウヰンブル丼」の店が実はソースカツ丼の店でもあることが三林京子さんの「ああ書けば、こう食う」を読んでいてわかった。
昨夜、神田駅前の立ち食いそばの店に行った。夜になると酒と簡単なつまみを出すからである。でもって、そこのおばさんが元気でいい人だからでもある。
店内を見回していたら「元祖そばつゆ割り」というメニューがあった。焼酎をそばつゆで割ったものだろうかと思って味を想像したが、具体的な像が描けない。ちょっと迷ったけれど注文した。グラスに焼酎を注ぎ、そばを温める湯を加え、さらにそばつゆを注入してできあがり。「昆布とカツオのだしが効いてるからおいしいわよ」というおばさんの声に励まされ、ぐぐっと飲んでみた。以上。
外国のジャパニーズ飯についてのメールがまとまったので特設リングで紹介する。
(編集局文化部編集委員 野瀬泰申)
ご意見 10年近くニューヨークはスタッテンアイランドというマイナーな地域に生息してました。そこには、「アリラン」という私にしては韓国焼肉屋としかみえないジャパニーズレストランがありました……このアリランはステーキの付け合せに、芋のかわりにご飯、それもチャーハンにして出してました。あと、キムチがあったり、出しぬきの味噌スープがあったり、フリッターのように厚い衣の天ぷらとかあって笑えました。ベジタブル天ぷらにはブロッコリー、カリフラワー、ズッキーニ、タマネギの輪っかやニンジンもあり、これも天ぷらとはいえないくらいの衣で出てきました(東京のあさちゃんさん)
ご意見 先日、ドイツのある雑誌の料理コーナーに「ベジタブル寿司」のレシピが紹介されていました。芯にキュウリやアボカドなどを使うことは珍しくありませんが、海苔巻の海苔の代わりに茹でたほうれん草の葉を使用する提案には驚きました。内陸部に住むドイツ人はいまだに海の物を一度も食べたことがなかったりするので、寿司にも山の物を使うことになるのでしょうか(グニッバ・久美子さん)
ご意見 ゴールドコーストで遭遇したカツ丼について報告したい。家内が一時帰国中、ショッピングモールをブラブラしている時にのぞいたフードコートだった。裏巻き寿司なんかを並べているカウンターがあり、メニューの中にkatsu-donを発見、注文。
肉の安いこの国でどうしてこんなに薄くなるのかと思えるほど薄情そうなカツがのっている。しかも乾いた状態。卵と玉ねぎはどこだと箸で肉をめくってみると、炒めた玉ねぎの層が出てくる。卵はぼそぼそと玉ねぎにからまっているが水分はない。汁はどこだ。白飯の層を深く掘り進むと丼の底につゆが薄く溜まっている。ソース味とも醤油味ともつかない不気味なたれのようだった……既成概念にとらわれている私がサンプルを確認しなかったのが悪かったのか、それともソースが一番下にかかったソースカツ丼と思えばよかったのか。味はどうかと聞かれても、実はあまりの予想外にそれ以上箸をつけることができず、トボトボ帰ってしまい未確認。
海外の日本食にありがちと言われればそれまでだが、この店でカツ丼を教えた日本人がいたはずである。責任者、出てこい(ゴールドコーストの海彦さん)
ご意見 モントリオールにあるTERIYAKI丼(?)です……どういうものかといいますと、丸いお皿にご飯を盛り、その上に野菜炒め(タマネギ、モヤシ、ニンジンなどが入り味はほとんどなし)をのせます。その上に茹でた豚肉か牛肉を多少鉄板で炒めたものをのせ、最後にTERIYAKIソースなるものをかけます。全然照り焼きなんかしてないじゃないかというのは一番の突っ込みどころなのですが、そのTERIYAKIソースというのも醤油ベースではあるのですがかなり甘いもので、それほど沢山かかっていなくても正直食べられたものではありません。でも、こちらの人は日本の味としてよろこんで食べています(謎院さん)
デスク激しくうなずきながら乱入 フィリピンで、日本でも有名な立ち食いソバの店を発見。「おお、日本のファストフードも海外進出か」と息をはずませながら、天ぷらそばを注文しました。出てきたのは、関東風の色濃いつゆに浸った一品。で、つゆをすすって、あたしゃ泣きました。だしの味が…全然しない。醤油汁、Aの素仕立てでした。つゆの色付けも全面的に醤油が受け持っているらしく、しょっぱいのしょっぱくないのって。
海外のジャパニーズ飯を食べると「日本の心は、カツオブシと昆布にあったのね」と気付きます。それにしてもあの看板、字の形までそっくりだったのになぁ。フィリピンの人が勝手にパクッたのかなぁ、小○そば。
野瀬 ぐやじがった?
今回はこれまで。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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