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「失言なんて私はしない」

そう思っていても、商談の最中に相手の会社の触れてはいけない部分に触れてしまった。

「無礼講で行きましょう」といううたい文句に乗っかって、飲み会の席で大胆な発言をしてしまったり、親しいがゆえに友人に、率直過ぎる発言をしまったなど。ビジネスシーンにかかわらず、私たちは常に失言をする危険性を秘めていますし、失言の矛先を向けられる場合もあります。

「失言をしたりされたりするのは、常」

そう捉えたほうがいいでしょう。

もちろん失言をしてしまった時は、直ちにきちんと謝罪をする。失言を謝られた時には気持ちよく許したいものです。そうした姿勢に、人としての器の大きさや貫禄がにじみ出ます。

たとえば会議の席で「自由に意見を言ってください」と議長に促されたとしましょう。そこで上司に向かって「この考え方はおかしい」「常識を逸脱しています」などと、いきなり相手の意見を、否定したら間違いなく場の雰囲気は壊れます。

悪気はないのは分かりますが、「否定」から伝えたら、たとえそれが本当だとしても、相手は怒ります。あなたの意見が正論だとしても、賛同する人は現れないないでしょう。

「お酒のせいで」は、絶対にタブー

お酒の席で酔っぱらい、上司に失礼なことを言ってしまった時は、「お酒のせいで」とか「飲み過ぎて何も覚えていない」という姿勢はとれません。上司は何も言わなかったとしても覚えていますし、あなたが謝罪しなかったらいつまでも根に持ちます。

酒の失敗を謝る場合

「お酒の席とはいえ……」

「ついお酒に飲まれてしまって……」

という前置きをつけることは、許されません。

なかには「お酒の席のことだから」と言って、先に許してくださる方もいますが、失敗した側から、こうした発言をするのはタブーです。

まずは「昨日は失礼なことを言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした」「昨日の非礼をおわびします」と、深々と頭を下げましょう。

極端な話、相手が「頭を上げなさい」「頭を上げてください」と言わない限りその姿勢を保つぐらいの気構えで謝罪には臨むべきです。

そして「今回は、お酒の恐ろしさを知りました」「申し訳なくて、自己嫌悪に陥っています」といった、反省を伝えましょう。

相手が「気にしていない」と言ってくれたとしても、あるいは「そんなこと、あったかな?」と忘れたふりをしてくれたとしても、油断は禁物です。相手は気にしていないと思ったら、大間違い。内心は怒りの炎がくすぶっているかもしれませんから

「覚えてらっしゃらないのですね」とか、「うわぁ~良かった」などと安堵の表情を見せたら、瞬時に「調子のいい奴」「ダメな人間だ」と、判断が下されるでしょう。

好ましい反応だとしても、芳しくない反応だとしても、最後にもう一度、深々と頭を下げ「申し訳ありませんでした」と言ってから、謝罪を終えます。

謝罪は大げさぐらいで調度いい

翌日に顔を合わすことができない相手には、メールもしくは電話をして、同様に謝りましょう。

ただし顔を合わせて謝らない限り、あなたの思いはなかなか届かないものですから、メールや電話で、失言を謝罪する場合には、大げさ過ぎることはありません。

電話ならば、座って話すのではなく立って話し、対面のときと同じように深々と頭を下げて謝る。

メールならば、借り物の謝罪文ではなく、自分の言葉で書く。そして書いてもすぐに送信するのではなく、声に出して何度も読み直しましょう。

●誤字や脱字はありませんか? それだけで、いいかげんに思われたら損です。

●いい訳を並べ立てていませんか? メールは証拠に残りますし繰り返し相手の目に触れることにもなりますから、余計なことは書かないほうがいいのです。

人は、話の内容よりも「伝え方」に敏感に反応するもの。気まずさを残さないためには、きちんとした謝罪は避けて通れません。

それに謝罪がきっかけで、人間関係が深まりプラスの評価を受けることもあります。

失言のおかげで仕事がスムーズになったケース

7年ほど前、仕事関係の集まりでひどく酔った方がいました。普段は無口な方なのですが、酔うほどにおしゃべりになり

「納期を守らないなんて、何様だと思っているのだ」

「いつまでも売れるわけなんてない、調子に乗っていると痛い目にあうぞ」

と、あるメーカーの責任者に話しかけました。

これだけ聞くと、酔っ払いがけんかをふっかけたように思えますが、彼の話には根拠があるのです。そのメーカーは納期が遅れての納品が茶飯事で、取引先の誰もが、困っていたのは事実です。

ですから、形はお酒の力を借りての失言ですが、私は心の中で拍手をしていました。「よくぞ、代弁してくれた」と。

その時、言われた方は苦笑しながら、聞き流していました。うっかり言ってしまったことは本音。少なくとも、聞いた人は「それは本当のことだ」と受け止めていると思いますが、反論せず無言を貫いたのです。それは、大人の対応といえます。

そして翌日、失言者は相手の会社に出向き、ていねいにわびました。

すると、

「わびるのはこちらの方です。今まで面と向かって納期遅れを叱咤(しった)されることがなかったですから、悪いとは思いながらもやり過ごしていました。ご指摘のように調子に乗っていたのです。教えてくださってありがとうございます」

と相手から、お礼を言われたそうです。

もちろんそこで「良かった、安心しました」と、即座に胸をなでおろすような態度は示さなかったといいます。

丁重に非礼をわび、深々と頭を下げました。そして握手。

「納品体制を整えます。これからもアドバイスを下さい」

彼は感謝をされると同時に、

「ああ、この人はなんと素晴らしいんだ。ずっとついていこう」と思ったそうです。

事実、人間関係が円滑になり失言を境に、仕事がスムーズにはかどるようになったのは、関係者の私も実感しています。

「口は災いの元」と言う通り、不用意な発言で困った状況に陥ったり、言いたい気持ちを抑えきれずに、そのまま口にしてしまって後悔したことは、誰しもあると思います。

失言自体は誰にでも起こりうる日常的な失敗ですから、反省して謝罪したら、自己嫌悪にならず、同じ轍(てつ)は踏まないようにする姿勢でいましょう。

 「臼井流最高の話し方」は水曜更新です。次回は6月29日の予定です。

[2016年6月7日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

臼井 由妃(うすい・ゆき)
1958年東京生まれ。健康プラザコーワ、ドクターユキオフィス代表取締役。理学博士、健康医科学博士、MBA、行政書士、宅地建物取引士、栄養士。33歳で結婚後、病身の夫の後を継ぎ会社経営に携わる。次々にヒット商品を開発し、独自のビジネス手法により通販業界で成功をおさめる。日本テレビ「マネーの虎」に出演。経営者、講演者、経営コンサルタントとして活動する傍ら、難関資格を取得した勉強法も注目される。ビジネス作家としても活躍。著作は50冊を超える。

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