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毎月1回、土曜日に各地に出向いて開く社内の勉強会で、読書のすすめを説いている。
まつもと・あきら 72年京都大学大学院農学研究科修士課程を修了し、伊藤忠商事に入社。ジョンソン・エンド・ジョンソン社長を経て、2009年6月から現職。

まつもと・あきら 72年京都大学大学院農学研究科修士課程を修了し、伊藤忠商事に入社。ジョンソン・エンド・ジョンソン社長を経て、2009年6月から現職。

社長だった創業家の松尾雅彦さんと一緒に、5年前から社内で塾をやっています。誰でも参加自由で、朝の10時から晩の7時半まで懇親会も入れて、いろんな議論をします。そこで「本を読みなさい」と言っています。

塾をこつこつと続けているのは、学ぶ習慣を社員に植え付けたいためです。学ぶことが文化になれば、会社のレベルが上がりますからね。会社が新しいことを始める場合には、設備投資をします。人にとって設備投資に当たるものは学ぶことです。その一番効率的な方法は読書です。

著者が汗水たらして書いたものが1000円か2000円で買えます。読書は限りある人生で、最大最良にして最も安上がりな投資です。ただし読み方には3つのポイントがあります。

第1に、本はたくさん買え。10冊まとめて買っても1万5000円程度です。第2に、最初の30ページは必ず読め。つまらなかったら、読むのを止(よ)せばよい。10冊買えば3冊くらいはよいのがあるでしょう。第3に、読んだら捨てろ。そうしないと一生懸命読まないからです。後でまた読みたくなったら買えばよい。

私は小説でも事実に基づいたものを選びます。著者が勉強せずに思いつきで書いた本は読みません。くだらない本で暇つぶしをするほど人生は長くない。

 読んだら捨てるのが原則。本棚には特定の本しか残さない。

小説では、司馬遼太郎さん、山崎豊子さん、浅田次郎さんですね。例えば山崎さんは、現実を上手にフィクションに仕立てています。何の根拠も無いものは書いていない。全部面白いですが、あえて1つ取り上げれば大学医学部をテーマにした『白い巨塔』ですね。

私は前に医療の世界に関わっていましたから、その通りではないにしても、近いことが実際にあると知っています。教授選を巡るごたごたは、あの通りあるんです。読んだ人は、なるほどそうか、よく書いてくれたと思うわけです。

もちろん医療は人助けがベースです。それは当たり前すぎて面白くないので、山崎さんは影の部分に焦点を当てている。世の中はしょせん、おカネ、身分、権力の3つを巡って動いています。医療の世界は、おカネの部分は少ないから、身分と権力の話が強調されるんです。

司馬さんは戦国物の『功名が辻』を20代で初めて読んで感動しました。まるで見てきたように書いている。史実の折り込み方がうまく、ストーリーも巧みです。『坂の上の雲』は主人公の個人的な話かと思ったら違いました。日清戦争をいかにして勝ち、日露戦争はどのような意味を持っていたのかが、わかります。

こうした本はいろいろ教えてくれます。しかし残す本は少ないですね。買った本のあらかたは年末などに一掃します。

 多読はせず、これはと思う著者の本を繰り返し開く。

堺屋太一さんの『風と炎と 第4部』は、世の中の難しい事象を平易に語っています。手元の本は1993年の初版です。こういう本は捨てられません。時々、読み直して、やはりそうなのかと示唆を得ています。堺屋さんの本は10冊くらい置いてある。組織とは何かを教える『組織の盛衰』は私のバイブルです。

経営書では、『コトラーの戦略的マーケティング』は本当によくできている。コトラーさんは、これ1冊で十分です。5回読めばマーケティングの本質がほとんどわかる。ドラッカーさんも本をたくさん書いていますが、『チェンジ・リーダーの条件』を読めばよい。

いずれも実際の経営に生かさなくては意味が無い。他の著書も枝葉が付きますが基本は変わりません。たくさん読んでも頭がごちゃごちゃするだけです。1冊だけでも、応用できるまで吸収するのは大変です。

野中郁次郎さんから社員経由でいただいた『史上最大の決断』は面白くて、もったいないので、今ゆっくり読んでいます。第2次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦の決断がどうなされたかを知ると、わくわくします。あのような大きな意思決定にあこがれますね。

本は読みながら考えられるのがいい。現実の経営や生き方を顧みながら、よい本はじっくり読みます。

(聞き手は森一夫)
【私の読書遍歴】
《座右の書》
『組織の盛衰』(堺屋太一著、PHP研究所)
組織について歴史的な視点も含めて縦横に論じている。
『風と炎と 第4部』(堺屋太一著、産経新聞社)
バブル崩壊と冷戦終結後の変化を地球規模で展望する。
《その他愛読書など》
(1)『白い巨塔』(山崎豊子著、新潮文庫)
(2)『坂の上の雲』(司馬遼太郎著、文春文庫)
(3)『世に棲む日日』(司馬遼太郎著、文春文庫)
幕末の吉田松陰や高杉晋作らの生き方を描く。
(4)『蒼穹の昴』(浅田次郎著、講談社文庫)
清朝末期の西太后ら実在の人物を絡ませた歴史小説。
(5)『コトラーの戦略的マーケティング』(フィリップ・コトラー著、木村達也訳、ダイヤモンド社)
(6)『チェンジ・リーダーの条件』(P・F・ドラッカー著、上田惇生編訳、ダイヤモンド社)
(7)『バランスシート不況下の世界経済』(リチャード・クー著、徳間書店)
著者とは時々意見を交わす。
(8)『史上最大の決断』(野中郁次郎、荻野進介著、ダイヤモンド社)
[日本経済新聞朝刊2015年5月17日付]

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