東京にはないサンライズ、東京とは違うメロンパン
メロンパンとサンライズ(1)
女優の三林京子さんからメールが届いた。「先日『メロンパンの素』というものを見かけたのですが、それがどこだったか全く覚えがなく謎に包まれたままです。どこの製品でどこに行ったら買えるのでしょうか」。
水でこねてチンしたらメロンパンの出来上がり、みたいなもの? それともバターロールのようなパンに振りかけるとメロンパンに早変わり?
まず、(前回文末に掲げた)京都「進々堂」の物件は私の常識および形状から判断すると、両方"サンライズ(あんこなし)"です。サンライズとメロンパンが同形であってはなりません、たとえ着色されていようとも。だって、クリームパン、あんパン、ジャムパンだって形は違うし、間違って買って帰った時のショックは計り知れません。
私の中の正統"サンライズ"とは円形、クリーム色、表面は筋の入ったビスケット生地に砂糖をまぶし、中には何も入れません。また"メロンパン"とは楕円形、クリーム色(メロン色ではありません)、同じく筋の入ったビスケット生地ですが、砂糖なし。そして中には必須"白こしあん"……決してコーヒーゼリー、納豆、マヨネーズなどを注入してはなりません。
さて、どちらが優勢かというのは非常に難しいですが、町のパン屋さんにおいては、昔から根強くふんばる"サンライズ"、スーパー、コンビニにおいては白あん入り"メロンパン"ではないでしょうか。ちなみに私は、"メロンパン"をオーブンで温め、外側をカリカリに、ホット白あんをふぅふぅしながら食べるのが好きです(パリ在住神戸生まれ浦島太郎さん)
進々堂でメロンパンとサンライズを買ったときに、お店の若い女性に聞きました。「メロンパンとサンライズの違いは何ですか」「メロン果汁が入ったのがメロンパンで、入っていないのがサンライズです」。ということだったのですが、どちらもあんこは入っていませんでした。ところが京都のコンビニに売っていたメロンパンはメロンの香りが全くしませんでした。色も黄色。それならサンライズではないかと思ったのでした。
ところが、浦島太郎さんによると両者はそもそも形が違うということです。浦島さんのメールに出てきた神戸新聞のHPから「ひょうごを食べる」を開き「メロンパン」の記事を読んでみました。記事の中で老舗パン店のご主人はこう言います。「神戸では2種類あって、一般に知られるメロンパンはサンライズのことですわ」。
え、どういうこと? 出だしで「?」が増殖しました。じっくり読むと、こういうことのようです。神戸本来のメロンパンは、ラグビーボールを半分に切ったようなだ円形で、白あんが詰まっている。だ円形になったのはマクワウリにヒントを得たかららしい。そして白あんは果肉に見立てたもの。一方、サンライズの形はこの記事に出てきませんが多分円形です。「違うのは表面の模様。数本の線が放射状に伸び、日の出に似ているため、店によって英語の『サンライズ』を使う」とのことです。
小さいころ、メロンパンには上の2種あって、混乱したので母に聞いたところ「両方ともメロンパン」と言われ、納得しなかった覚えがあります。今は大人になったのでそれなりに過ごしています。(native関西人さん)
関西には、だ円形白あん入りのメロンパンと呼ばれているパンがある。まずこれは確定です。それとは別にサンライズという、あんこなしのものもある。これも確定としましょう。もう1通、関西からのメールが来ています。
そういえば、前にテレビで、大阪の移動製造販売のメロンパンやさんを紹介してました。オーブンまで積んで、その場で焼いて売るんですが、(しかもメロンパンのみ、サンライズ形の)。この無駄のないピンポイント販売、けっこう人気で売れてるそうです(大阪生まれ、滋賀県在住うずら40代♀さん)
これでまた少しすっきりしました。あくまで本来のメロンパンはだ円形で白あん入り。ところが丸型あんなしのサンライズもメロンパンと呼ばれるようになって混乱が生じているというわけです。
繰り返して整理します。メロンパンとサンライズは違うもの。ふたつを区別して売っている店もあるけれど、サンライズをメロンパンとして売っている店もある。だから関西の人もサンライズって要するにメロンパンやないか、と思ってしまう。このほか進々堂のように、丸くて白あんが入っていないサンライズ型のものでもメロン果汁を加えているからメロンパンと呼ぶ店もある……と言ってしまっていいのか。
私は、関東はメロンパン、関西はサンライズではないと考えます。子供のころから、よく食べていた「メロンパン」という名前のものを、メロンパンだと考えるようになるのではないでしょうか? ということは、パン屋さんのネーミング次第ということになるでしょうか(広島市在住36歳主婦さん)
お母さんは、だ円形白あん入り派だったわけですね。そしてご本人は香料説。さあ、わからなくなってきました。もうひとつわからなくなるメールもいただいています。
ちなみに、呉市にはメロンパンという名前のパン屋があり、そこで販売されているメロンパンはラグビーボールの形をした中に半透明のあんが入ったパンのことです。つまり、メロンパンのコッペパンとか、メロンパンのメロンパン、などという分かりにくい呼び方をされるのです(広島のしろさん)
コッペパンが乱入してきました。呉市のパン屋さん「メロンパン」にはラグビーボール型白あん入りのメロンパンのほかに、ほかの地方でサンライズともメロンパンとも呼ばれるコッペパンがあり、呉市民のみなさんは「それがどうかしたの?」と思っておられるわけです。整理にはもう少し時間が必要のようです。
続けて関東地方からのメール。これまで紹介した西の方からのメールと比べて読んでいただきたい。
私がよく買う昔ながらのパン屋さんでは、メロンパンにカスタードクリームがはさまれています。あんこ好きとしては、小豆あんでできたら粒あんを入れてほしいなあ(福島のテレジアさん)
東日本でサンライズという呼び名が知られていないことがよくわかります。だ円形あんこ入りの物件も、今のところ目撃情報はありません。というよりサンライズ型で網の目模様がついたものがメロンパンと認識されているということのようです。コッペパンという呼び方もありません。テレジアさんは「メロンパンに粒あんを入れてくれ」なんて言ってますが、とりあえずあんパンで我慢してください。
ここでデスク乱入 メロンパンには、どうもうさんくさいところがあります。高級品だったマスクメロンの威を借りて、実力以上に大きな顔をしてきた気配がある。でも、このごろ関東では、生き残りに必死みたいです。うちの近くのパン屋には、普通のメロンパンのほかに、メロン果汁入り「スペシャルメロン」と生クリーム入り「ニューメロン」があります。「この際、何でも入れてみよう。どれか当たるだろう」と思っているんですよ、きっと。
もっとすごいメロンパン情報が来てるけど、次回まで教えてあげない。
メキシコ方面にもメロンパンそっくりの物件があるという。
メキシコの「貝」がなぜ日本では「メロン」なのか。線の引き方がメロンパンとConchasで違いますね。でも、「サンライズ」の方は、貝らしい模様になっているようですね。ルーツはラテンなんでしょうか。
近所のスーパーで売っているのを見かけたので、久しぶりに買ってみました。楕円形で、線の引き方が「あわび」を思わせるものでした。それ以外はメロンパンとそっくり。味はメロンパンのあのフルーティーな風味が欠けている以外は、メロンパンとほぼ同じです(齋藤さん)
メキシコ方面には日本のメロンパンそっくりの「あわびパン」がある。へー、へー、へー。30へーぐらいでしょうか。齋藤さんにはおわかりにならないかも知れませんが、日本のテレビで人気の番組を真似してみました。「広島の呉市ではメロンパンをコッペパンと呼ぶ」というので応募したら採用される……かも。
そのほかのメールを駆け足で。最初は私にとっての謎の植物コーラビ関連。
私、見たことないのでコメントできません。コーラ瓶なら知ってますが。
甘い麦茶をもう一杯。その後はアラカルトで。
妻の話によると、夏場にはアイスレモン麦茶を母親がつくっていたそうで、アメリカの習慣は沖縄では年寄りにまで浸透しており、例えば朝食はコーヒー(粉ミルク入り)とトーストとかを年寄りも食べています(沖縄チャンポンさん)
沖縄の砂糖麦茶、保健体育の砂糖麦茶、どちらもなるほどです。「こどもビール」ってかわいいですね。鉄管ビールかあ、懐かしいなあ。
岡田哲編『たべもの起源事典』の「冷やし中華そば」の項に「第二次世界大戦後に、東京神田の揚子江菜館二代目が創作したとする説がある」と書いています。戦後です。仙台の龍亭より新しいと考えた方がよさそうです。それにしてもカッコの中のつぶやき、いいですね。読んでいるうちに冷やし中華のことを一瞬忘れてしまいましたが。
jetflyさんは中華麺でイタリア料理を作っておられるそうです。その料理の名前は「マルコポーロ」。中国とイタリアの合体だから。
大量の積み残しメールが発生してしまった。次回以降順次紹介する。
私は「渋谷をお父さんたちの手に取り戻す運動」というのをやっていた。何をやったかというと、少年少女に完全占拠された感のある渋谷の街で「お父さん最適居酒屋」をみつけ、そこで飲み食いするのである。売上増に寄与するのである。
で、駅前のある店に入った。動機は「メニューに缶詰めがある」というものであった。本当にあった。サバ味噌の缶詰めを頼んでウーロンハイ(甲類焼酎のウーロン茶割り)を飲んだ。ナポリタンがあった。うれしかった。しかもウインナではなく魚肉ソーセージを使っていたので、さらにうれしかった。でも、その店に連れて行ってくれた人や友人に「渋谷をお父さんたちの手に取り戻す運動に賛同してほしい」と訴えたが、答えは「相手が悪い」とか「取り戻すなんて無理」「すみ分けしかない」というものであった。やっぱ、そうか。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にして
います]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。