「冷やし中華にマヨネーズ」は名古屋だけの食べ方か?
いわゆる冷やし中華(2)
東京の弊社社員食堂で出る「いわゆる冷やし中華」は典型的な社食バージョンである。食券を渡すと冷凍中華めんをお湯で温めて冷水にさらし皿にあける。そこに酸味のきいたスープをかけ、はい出来上がり。
具はのっていない。具は別の小鉢で渡される。
小鉢を上からのぞくと、まず紅ショウガ。その下に錦糸卵、千切りハムに千切りキュウリ、さらにその下にはモヤシが敷かれている。これを自分の力だけを頼りに麺の上に敷設していくのである。
ハムの隣りに錦糸卵を置こうがモヤシを置こうが気分次第、お好み次第でマイ冷中をつくることができる。でも、面倒くさいのである。キュウリの一群をはしできれいにつかみとったはずなのにモヤシが一筋まじり、錦糸卵の黄色が一筋の紅ショウガによって色彩を乱され、そもそも紅ショウガが嫌いなので取り除こうとすると大好きなハムの一片に赤く色移りしていたりして悲しいのである。
安い、早いが信条の社食では「これくらい我慢してよ」「我慢しなくちゃね」という暗黙の了解があるからこそ具別盛り自力敷設型冷やし中華が存立しうるのであって、これを外の店がやったらチャブニチュードの嵐が吹き荒れるであろう。
しかし、これでも業者が変わって社食の内容はぐんと良くなったのである。以前はひどかった。カツ丼なんか四角い大きな鉄板で一度に大量に作り、注文がくると包丁で一人前ずつ長方形に切り取って丼にのせていた。丸い丼に四角い卵とじカツの、しかも冷えたやつがのっているのであった。
今は注文を受けてから一人前ずつ作ってくれるので、普通のお店並みである。しかも、なぜか見本ケースの横に黒服に身を包みちょうネクタイまでした食堂請負会社の人が立っていて「いらっしゃいませー」を連呼している。そこまで正装されると260円のカレーで済まそうとするときなんか、かえって恐縮するのである。
なんかどうでもいいこと書いてるなあ、と自分でも思うのだが、実は風邪を引いていて鼻はズビズバと音を立て、頭はモヤモヤの幕に包まれている。絶不調。昨日はベッドから落ちなかったのに、どうして風邪引いたんだろう。
ここでデスク乱入 「普段はベッドから落ちる→風邪を引く」ということになってるわけですね。ふむ、これには何かのシャレが隠されているのかなあ。だって、落ちたら普通起きるでしょ。そいでもってのそのそっとはい上がって、ふとんかけるでしょ。そこまで前後不覚になるっていったい…。
野瀬 私の場合、眠るとは気絶することである。
野瀬感心 30年前にすでにマヨ入りとは。おしゃれー。
私たちはバカになんかしていません。このサイトは食べ物に優劣はない、いい悪いはないという原則に立っています。ただ違いを確認し、その過程を楽しんでいるだけです。バカになんかしてませんよ、本当に。
就職以来初めてのメールです。お元気そうですね。お仕事は慣れましたか? さて、マヨネーズ添えに関して岐阜の「子の日」発祥説、名古屋の寿がきや発祥説が出てきました。ほかに説がある人は教えてください。
「冷やし中華の具はサラダみたいなものだからマヨをつけても変じゃない」というネイティブ名古屋ンの論理も、外来の目で見ると「味噌が合わないからマヨつけてるんだ」という風に映るのでしょうか。
冷やし中華の具=サラダ説はわかるのですが、そうするとマヨをつけない地域の人には同じ具がサラダに見えていないということになりませんか。あるいは「たれが十分にドレッシングの役割を果たすわけだし、そもそもそういう発想で作られた食べ物なのだからマヨを加えるのはドレッシングを二重にかけることになる」という論理も出てきそうです。ただ、どちらが正しいというようなことではありません。念のため。
個人の趣味か、地域的傾向か。そこが問題です。マヨ問題が名古屋以外に広がる可能性があります。
呼び方問題で4通。
コンビニやスーパーに並ぶ全国一律商品の「冷やし中華」、「冷やし中華」のテレビコマーシャル、冷やし中華文化圏からの訪問者の増加。各地の以前の呼び方が「冷やし中華」に駆逐されている可能性は十分にあります。盛岡の冷風麺や関西・四国の冷麺という呼び方が劣勢になっているとしたら、ちょっと寂しいような気がします。
同じように関西の「レイコ」「レーコ」も絶滅危惧(きぐ)種です。
私が大阪で初めて勤務した27年前は喫茶店という喫茶店にレイコがありました。多分、ウエイトレスの中にもレイコさんがいたでしょうが、そのレイコさんは客が「レイコくれ」とか「レイコでええか?」「うん、レイコ好きやねん」などと言うたびに複雑な思いをしていたことでしょう。それが今やアイスコーヒーばかりになってしまいました。はやりのコーヒーショップチェーンやカフェで「レイコ」って絶対言ってくれそうにありません。レイコが懐かしい。レイコー、オレが悪かった。帰ってきてくれー。
ここでレイコ乱入 探さないで…。もう終わったのよ。
デスクも乱入 アイスコーヒーを略したのに「アイコ」にならないところが、大阪の懐の深いところですね。もしかして初めは「冷やしコーヒー」と呼んでいたのでしょうか。
野瀬註 どこかにアイコがいたら、コンビ組む? 上方レイコ・アイコとか。
レイコ ウチ、そんなんいやや。
広島の「何にでも大盛りのご飯がサービスでついてくる店」の詳細を教えてくださいと書いたところ、早速みんみん(♂)さんから地図までついた詳しいメールをいただいた。ありがとうございました。で、そのメールには「ただ、『なぜご飯をおまけに付けるのか』なんておばさんに聞かない方がいいかもしれません。『そこに飯があるからだ』と言いかねませんから」とあった。
了解。聞かない。怖そうだから。でも、どういう答えが返ってくるか、ちょっと聞いてみたい気もする。本当に「そこに飯があるからだ」という返事だったら、どんなにうれしいことだろう。
みんみんさんの続報に「広島の『食の方言』を探検されるのであれば、ぜひ『ホルモン天ぷら』を食べてみてください」と書かれていた。「ホルモン天ぷら」? そんなのが広島にあったなんて知らなかった。みなさん知ってました? いまだに久留米の馬ホルモン焼き鳥の衝撃が残っているのに、今度はホルモンの揚げ物とは……。日本は広すぎる。
でも、これは絶対食べなければならない。久留米の馬ホルモン焼き鳥と広島のホルモン天ぷらが縁になって姉妹都市提携に発展するかもしれない。ホルモンが結ぶ友好の絆である。広島のみなさん、ホルモン天ぷらがおいしい店はどこですか?
広島でお好み焼きを食べたときメニューに「まぜ焼き」とありました。聞いてみれば大阪風に具と小麦粉をまぜて焼くのをそう言うのだそうです。なるほど広島風はまぜませんね。大阪の人々は自分たちが愛してやまないお好み焼きが「まぜ焼き」と呼ばれていることを知っているのでしょうか。
ところで激辛のつけ麺て広島ではスタンダードなんですか? 繁華街の交差点の角っこで激辛ラーメンの看板を出している店を見たことがありますが、辛いのはあの店だけじゃないのですか。広島の人ってカプサイシン好きですか。広島に行ったときに、よーく観察いたします。
前回の観察でやたら砂ずり(肝)メニューが多かったのでひそかに「広島は隠れ砂ずり都市である」と思っていましたが、本当は「隠れホルモン天ぷら都市」であり「隠れ激辛都市」でもある可能性がでてきました。楽しみです。そうそう、広島には結構「天ぷらラーメン」とか「和風ラーメン」とか、エビの天ぷらがのったラーメンがありますね。それも食べなくっちゃと思っています。
「煮抜き」の「抜き」問題。だんだんミクロな話題になってきた。この辺で、終止符を打ちたい。
同様のご意見がほかの方からもありました。なるほどと思ったのですが、三林京子さんによると大阪では「煮抜き半熟」という表現があるのだそうです。ゆでるのを貫き通したら半熟になりません。
本来は宗方さんや先週紹介した皆さんがおっしゃるように「固ゆで卵」のことを指したのかもしれませんが、一方では単に「ゆで卵」の意味でも使われているようです。取りあえず、私にとって「煮抜き」問題はあんまり切実じゃないので、どっちでもいいです。
愚息が卒業した高校には「帰宅部」というのがあった。さっさと家に帰るというのが唯一の活動で、別名はGHQ。ゴー・ホーム・クイックリーの略である。みなさんの会社でも「帰宅部」を結成し、居酒屋なんかでぐずぐずしてないでいそいそと家路につくようになったら家族には……迷惑だったりして。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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