ついつい酒を飲みすぎてしまう「神奈川イチ」の焼鳥屋賢人コラム(松浦達也)

2016/5/23

「旨い肉を食べたい!」。そんな欲望を満たす店の指標は、やはり肉になる。だが、本当に旨い店には、肉以外の名物メニューがある。とりわけ焼鳥の名店には、必ずと言っていいほど、焼鳥以外の看板メニューがある。

銀座バードランド(&お弟子さんたちのお店の)「レバーパテ」しかり、鳥しき(目黒)の「焼き鳥弁当」しかり。リーズナブルな店でもそうだ。いせや(吉祥寺)なら「自家製シューマイ」、鳥やす(高田馬場)の「野菜煮込み」など、いい焼鳥店には必ず目を引くサイドメニューがある。

Summary
1.酒飲みの聖地でもある横浜・野毛の名店
2.ぬか漬けに焼鳥も旨いがそれだけではない奥深さ
3.創業70年以上の歴史にあぐらをかかない精度の高い料理

ならば、"聖地"ではどうか。東松山など関東近郊にも焼鳥の聖地とされる場所はいくつかある。だが東松山のやきとりは「豚」だし、新橋は呑み屋の"聖地"かもしれないが「焼鳥」界においてそう呼べるかは微妙だ。

となるとあの町の出番である。

野毛(横浜)だ。

数々の店が軒を連ねる、この地の焼鳥店には「リーズナブル」なイメージがある。だが野毛の中心街から外れたところに一軒、異色の「高級店」として知られる老舗がある。それが「里葉亭」だ。

つまみは焼鳥を中心とした、お任せコースのみ。食べ物の組み立ては基本的には店に委ねることになる。ただし、細かい調整は当然卓上で格闘する食べ手に責任が課せられる。

まずこの店で出てくるものを駆け足で追っておこう。日によってラインナップは微妙に変わるが、だいたいの流れはつかんでいただけると思う。

この日、食べたものは以下のとおり。

(1)食前酒 (2)ぬか漬け盛り合わせ (3)ぼんちり (4)タンシチュー (5)手羽先素揚げ (6)燻製盛り合わせ (7)和牛タン元 (8)白レバー (9)カワ (10)ピーマン (11)しいたけ (12)はさみ (13)ギンナン (14)ハラミ (15)ハツ (16)クビ (17)キンカン (18)牛タンつくね (19)砂肝 (20)フライライス (21)鳥スープ

他にも何本か食べた気がするが、生ビール(×2)、生レモンサワー(×2)、ハイボール、赤・白ワイン各数杯と、串に合わせてかなり細かく酒を注文した結果、メモ書きを見ても一部判然としない。おそらく酔ったせいではないとは思うのだが……。

食前酒はあらごしみかん酒 果肉のツブ感も楽しい

それにしても冒頭に書いたように、いい焼鳥店は焼鳥以外のメニューがいちいち充実している。この店では、最初にお通し代わりに供されたぬか漬けからして素晴らしかった。飲食店で飛び抜けて旨いぬか漬けに当たる機会は本当に減った。実際にぬか床のある飲食店も減っているし、うまく管理し続けている店はさらに少ない。

ぬか漬けは塩味、酸味に漬け込んだ野菜の味わいなどのバランスを取り続けるのが難しい。里葉亭のぬか床は創業時から70年以上、継がれてきたものだというが、最高の状態を保ち続けている。

カブ、山芋、オクラ、ナス、ニンジン、大根、そしてもちろんキュウリ。漬け具合も浅すぎず、深すぎず、まさしく絶妙。これだけをずっとかじっていてもいいくらいだが、あくまでここは焼鳥屋である。まず本日の1本目。

ぼんちりである。個人的には脂っこくてあまり自ら進んで注文はしない部位だが、この日はたまたま1杯目に生レモンサワーを注文していたのが功を奏した。食前酒もある。1杯目の注文は、その日の1本目を確認してからでも遅くはない。

デミグラスソースの牛タンシチューをはさんで、ここで手羽先の素揚げが登場。なんとかここまで持たせた1杯目のレモンサワーはこの1本でお役御免。パリジュワッと香ばしく、ジューシーな素揚げはひと噛みするごとに、ついつい柑橘系の爽やかな炭酸で喉を潤したくなるのだから仕方がない。

サイドメニューその3は燻製盛り合わせ。この日はキンカン、牛タンのハム仕立て、ヤゲンナンコツ、カマンベールチーズに鶏もも肉。というわけで、ここでハイボールをセレクト。次からの串モノに備えて心身をじっくり整える。

するとやってきたのは、和牛の牛タン。しかもタン元のやわらかい部分のみが大ぶりにカットされていて、かじりつくように肉を串からこそげると現れたのはなんとも見事なロゼカラー!

たまらずここでボルドー産の赤ワイン(カベルネソーヴィニヨン)にお声がけ。

するとここもう1本、絶妙のミディアムに火の入った白レバーが登場。さらにしっかり火入れで、脂の旨みを十分に引き出した皮までが攻めてくる。赤ワイン城、陥落寸前。次にピーマンが運ばれてきたのを確認したらいよいよビールの出番である。

ピーマンをカットせずに丸焼きする店はいい店だ。甘みがしっかり引き出される。続く肉厚しいたけ、はさみ(つくねのねぎま)あたりでついついビールを呑みきってしまう。ギンナンが到着したときに今後の串モノ展開を伺う。

タレ焼きのハラミに合わせて、注文しておいた赤ワインをハツ(おろし生姜乗せ)、クビ、キンカンあたりまでじっくり味わう。ロゼ色に焼きあげられた肉とタレの味はなぜにこんなにも赤ワインと相性がいいのだろう。まあ、白ワインを頼んでも「なんでこんなに旨いのか」と思いそうではあるけれど。

そして最後に牛タンつくねから、砂肝、そして名物である〆のフライライス(カレー炒飯。なぜかこう呼ばれている。半量なども可)へと流れこむところで、白ワインを追加。最終コーナーが見えたら、口内にキレを取り戻すのだ。

食べも食べたり20品以上。呑みも呑んだり十数杯。18~19世紀のフランスの美食家、ブリア・サヴァランは「シェフになれるかどうかは努力次第。だが肉焼きは生まれつきの才で決まる」と言ったという。もっとも日本の場合、いい焼鳥屋はメニューづくりに研鑽を積み、焼きの技術を重ねることで、さらなる高みに到達できる。

そしていいつまみが卓上に並んだ時、酒の量も確実に増える。あまりの旨さに大量の酒を飲みたくなってしまう串とつまみ。さすがは"神奈川ナンバーワン"との評判を取る焼鳥店である。

スナックが立ち並ぶ都橋商店街から大岡川を渡った対岸の一角にある

<メニュー>

食べ物はお任せ8,000円コースのみ。ひと通りでもかなり量があるので、お腹が膨れてきたら随時お店に相談を。飲み物は赤白ワインはフランスやナパバレーなどの銘醸地のものが取り揃えられ、日本酒、焼酎などのラインナップも豊富。呑んで食べて1万円が目安。この日の会計はその金額を超えた……。といっても追加は1,000円程度。

里葉亭(リバテイ)
住所:〒231-0043 神奈川県横浜市中区福富町仲通3-2
電話番号:045-251-7676
営業時間:17:30~21:30
定休日:水曜、第1木曜、第3木曜、第5木曜
ぐるなびページ:http://r.gnavi.co.jp/rfa095gx0000/
 *取材時点での情報です
松浦達也(まつうら・たつや)
東京都武蔵野市出身。フードアクティビスト/馬場企画 代表取締役編集者&ライター
 食専門誌から一般誌、新聞、書籍、Webなど多方面の媒体を主戦場に「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオなどでは飲食店や生産地についての知見を踏まえた、食トレンド/ニュース解説も。近著に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、自身も参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成を手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破。

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