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バラを贈る、どんなバラを選べばいい?

バラ園「コマツガーデン」の2代目代表でNHK「趣味の園芸」でもおなじみ、後藤みどりさんにお話を伺う機会があった。後藤さんは、ウイスキーでも知られる山梨県北杜市白州でバラを栽培しながら、バラの販売店も営んでいらっしゃる。県内はもとより全国のバラ愛好家に向けた「Komatsu Garden バラ教室」も大人気だ。

梶原:「バラの花を贈るって、どんなバラを選べば、センスいいなあとか思ってもらえるんですか?」
(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

私の「トンチンカンな質問」にもきっちり応えて下さった。

後藤:「せっかく送るのなら<失敗したくない>と、あらかじめネットで調べ、<このバラありますか?>と購入予定のバラの名前をプリントアウトしたリストをお出しになる方が結構いらっしゃいます」

梶原:「えらいもんですねえ」

後藤:「ところが実際お店に来られ、たくさんのバラをご覧になると、ネットで選んでおいたものとは全く違うバラに<一目ぼれ>なさる方が多いんです。バラは生き物ですから、その日、その時一番輝いて見えるバラってあるんです。だからでしょうか、<こっちに変えます!>とおっしゃる方、意外と多いです」

麗しいバラを前にすると、人は虚心坦懐、送り先が一番喜びそうなものを柔軟に、真摯に選ぶ心境となるらしい。

後藤:「今日行ったら、今日の花に会える。花屋を一期一会の場所だと言ってくださる方もいて。ありがたいことです」

バラの威力、恐るべし

「Komatsu Garden バラ教室」には「バラと暮らす人生」を目指す人たちが全国からやって来る。ご婦人だけではなく老若男女、幅広い生徒さんが集い、庭で、鉢で。自分だけのバラを育てるための基礎から実践までを熱心に学んでいるそうだ。

後藤:「バラ作りを始めたある奥様は、初めて咲いた一輪を、朝一番にハサミで切って、出社するご主人に手渡したんだそうです」

梶原:「オヤジがバラだなんて、若い女子社員たちに、引かれちゃう恐れもありますよね」

後藤:「ところが、お店で売られる切り花に比べ、直前まで土の上で咲いていたバラの香りはずっと強く芳しく、インパクトもありますしね。みなさん感激して! ご主人の株が大いに上がったと聞き、奥様も大喜びでした」

コンビニで買ったチョコレートの差し入れをはるかに上回る「バラ効果」を発揮したらしい。バラの威力、恐るべし。

独身男性がワンルームマンションのベランダで鉢植えのバラを大事に育て、愛する彼女へのプレゼントにするなんて例もあるそうだ。「下心」ではない「バラ男子の純粋さ」は、「恋の成就」にさぞや貢献したことだろう。

バラは、人生を共に生きるパートナー

後藤:「ある男性は、定年を機にお庭でバラ作りを始めました。その反響は予想を超えていたそうです」

梶原:「ほお」

後藤:「一輪二輪とバラが咲き始めると、これまで口をきいたこともない近隣の奥様方が次々垣根越しに声をかけて来たんだそうです。みなさんご自分もバラを作っている<バラ友>だったんです!」
(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

花を咲かせるまでには手がかかる。たっぷりと日にあてる。適切な水やりと肥料の加減も難しい。害虫を寄せ付けないような気配りも欠かせない。「元気に育て!」と、毎朝声かけする人もいるそうだ。

バラとの語らいで老親の介護の苦労を乗り越えたご婦人方も少なくないという。

後藤:「人生の辛さに耐えきれなくなりそうなその時、ふとバラに目をやったら、新しい蕾(つぼみ)が膨らんで、花びらを開こうとするその姿に勇気づけられたという話はよく聞きます」

バラは、人生を共に生きるパートナーでさえあるらしい。愛好家同士の「強い連帯感」が育まれる理由もこの辺にありそうだ。

後藤:「自分でバラを育て始めると、ご近所に限らず、いく先々のバラが気になります。見知らぬ町で、冬の、葉っぱ一枚付いていない蔓(つる)や木でさえ、それがバラなら、バラの方から目に飛び込んでくる。バラ友は、そういう感覚を楽しんでいる気がします」

特定のものに強い関心を持つ人

本論はここからだ!

「バラ友」には「バラ」が勝手に飛び込んでくる、と書いたが、お察しの通り、勝手に飛び込んでくるのは「バラ」に限らない。趣味であれ、仕事であれ、強い興味関心を向ける対象は、自然に、勝手に、目に、耳に飛び込んでくる可能性がある!

逆に言えば、「興味関心の薄いもの」は目にも耳にも入らないばかりか、何の印象も感慨も残さずさサッと目の前をり過ぎ、結局何も残らない。

「なんとなく始まり、なんとなく終わる日常……」

過ぎ去ってくれること、スルーしてしまうことで救われる、辛く悲しいこともたくさんある。しかし、何もかもが「雲散霧消して何も残らない」のもちょっと悲しくむなしい。

紹介した「バラ友」の例のように、「特定のものに強い関心を持つ人」には「対象物からの情報が勝手に飛び込んでくる」。

この「不思議な現象を説明」に似ているのが「選択的注意」だ。「選択的注意」とは、「自分にとって必要な情報、興味のある情報を脳が選び出して優先的に処理しようとする機能」のことをいう。

いかに優れた脳だって、全てを公平に処理することなど不可能だ。「情報の取捨選択」を行い「合理的に処理しよう」とする。その時の「区分けの基準」が、「強い興味関心を抱く情報か、そうでもないか?」だ。

格段の関心を持ち続けるものの記憶は残るが、何となく程度のものは脳に記憶が刻まれないから要所要所でよみがえるということもない。したがって「目に飛び込んでくる現象」も起きない。

「興味関心を向けるべき対象」を持つこと

間違っていたら大変だから、「心理学辞典」の"正式な説明"を添えておく。

「多くの情報が存在するなかで、いくつかの特定の情報のみを意識すること。人間の注意機能の一つ」と明快な解説とともに「選択的注意」のわかりやすい例として「カクテルパーティー効果」を挙げている(有斐閣 中島義明他)。

(写真:PIXTA)

(写真:PIXTA)

「同時に幾つかの会話がなされていている喧騒(けんそう)に直面しても、一つの話に注意して他の話を無視できる……」

強く関心を持つ相手、会話の内容は「強い関心を向けるものだけに」飛び込んでくる。この現象に「思い当たる」という方が多いのではないか。

「選択的注意」を可能にするのは、「興味関心を向けるべき対象」を持つことだ。

「あの人にはどうして、求める情報がどんどん集まってくるのかな?」

「いつもイキイキ楽しそうだなあ」

羨ましがる前に「バラ友」たちのことを思い出し、私も、強い「興味・関心を向ける対象」を作らなければと反省した。

【参考文献】
「基礎から学ぶ認知心理学・人間の知識の不思議」 有斐閣 2015年
「消費者行動論」 田中洋 中央経済社 2015年

[2016年5月19日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は6月2日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』 『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』 (幻冬舎新書) 『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』 (日経BPムック) 『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス) 『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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