「納豆コーヒーゼリーサンド」の衝撃 名古屋の味?
納豆(3)
以前、発酵食品に関して「市販のタクアンは漬け込み期間が短いと発酵せず、ただの塩漬け大根にすぎないのではないか」と書いたところ、豊下製菓の豊下さんから「市販の漬物を発酵食品として食べたければ、賞味期限を無視してパックがパンパンになってから食してください。そうすれば、生き残りの乳酸菌が増殖した本物の漬物になります。ただし、減塩品ではほかの雑菌も増えていますので、食中毒にはご注意を。市販品で本物の漬物を食べたいなら『消費期限』入り生もの扱いの商品をお求めください。パック入りではめったにお目にかかれませんが」というメールをいただいた。
自分で納得できる漬物を食べるには、豊下さんのように自分で漬けるしかないのだろうか。スーパーの漬物売り場を見て回るのが好きなのだが、これからは漫然と選ぶのではなく、キビシく吟味することにしよう。
奥歯にものが挟まったような言い方になったのは、さっき昼飯を食って奥歯にものが挟まっているからなのである。
横手市内の近くには「納豆発祥の地」といわれる石碑もあり、この当たりは納豆フリークにとっては「聖地」です。秋田―山形―福島辺りを個人的に「納豆銀座」と呼んでおり、昨年、車で縦断しながらスーパーの納豆売り場をひたすらチェックしていったのですが、町ごとに独自の納豆(赤いパッケージに白抜きの字が代表的)が根付いており、感銘を受けました(東京都出身・ミルフォード 39歳男性さん)
私はミルフォードさんの納豆研究にかける情熱に感銘を受けました。聖地で売られている地納豆の数々はいったいどんなお姿で、どんなお味を出しているのでしょうか。テレビに出ていた雑誌編集者というのは島森路子さんでしょう。それはともかく、いよいよ秋田が砂糖入り納豆地帯である疑いが濃厚になってきました。容疑者浮上。
横手といえば、近所のスーパーに生麺の袋入り「横手やきそば」を売っています。そう、焼きそばが有名な町でもあります。蒸し麺ではなくゆでた四角い麺。ひき肉とキャベツが入り、上に目玉焼きが載っています。忘れてならないのが福神漬けです。食いてえ。
祖母が砂糖を入れる習慣だったので、そういうものだと思っていましたが、兄が就職して帰省したとき、東京では納豆に砂糖を入れないと聞き、ヘエーと驚いたことを覚えています(48歳男 広東省深セン市在住 スガさん)
秋田、重要参考人に昇格。
ほぼ自供。
共犯者浮上?
納豆が嫌いな方、納豆が自分の食べ物リストに入っていない方は「ん、もー」という思いで読んでおられることだろう。ここで反納豆の雄たけびを。
いのちの電話 早まらないでください。そんなことで死んだら生命保険、出るかどうかわかりませんよ。もっとネバリ強く生きてください。
旦那の実家では半分が納豆を召し上がるそうですから、確かにおっしゃる通り、地域性のほかに個人の嗜好が反映する食べ物でしょう。ですから、次のメールのようなことにもなります。
いま関西方面から「裏切り者!」という声が聞こえたような気がしましたが……空耳ですよね。こういうのを食の改宗者とでもいうのでしょうか。
納豆は好き嫌いの境界線がはっきりした食べ物だが、食べる人たちのなかにも何らかの流儀が存在するようだ。
私の知人も決して納豆をご飯にかけません。理由は「茶碗が汚れて洗うのが大変だから」。
では、こんな食べ方はどうだろう。
日本国内には「納豆はご飯にかけてはいかーん」という声がありますが、豪州は国内法が及ばないので納豆に塩辛のダブル発酵食品をご飯に「それっと」のせています。やりたい放題です。警察も来ません。シドニーに胃の中でリレーのバトンくらい膨れる粉ものカニカマもどきさえなかったら、もっといいのでしょうが。
皆さんはご存じないだろうが、実は常連の沖縄チャンポンさんが「すき焼き」がテーマだったころからずっと沖縄のすき焼きについて調べてくださっている。沖縄在住の義弟を動員して写真を入手しようとして失敗したり、自分で様々なHPに当たってみたりしてくれたのだが、一応の結論が出たようだ。
感謝 いろいろと調べていただいてありがとうございました。私もネットで沖縄の「すき焼き」の写真を見てみましたが、最初から皿に盛られて出てくるところや豚肉、かまぼこといった具の内容からして、どうも本土のすき焼きとは遠いような近いような食べ物では、と思っていました。これで何となく納得できそうです。
「今回は名古屋ネタがなくて寂しかったです」(カズボボさん)という声がある。寂しい思いをさせてしまってごめんね、なのである。いってみよう、名古屋ネタ。最近名古屋に単身婦任し、食の遊園地アトラクション乗り放題状態の日野みどりさんからのリポートである。ブッ飛ぶぜ。
意を決して食べてみると……納豆にはなんの味もついていません。納豆の臭いのと、コーヒーゼリーの苦いのを、ホイップクリームの甘いのにまぶして食べてる感じです。まずいか……と問われると、まずくありません。これが。不思議と。あるいは、この「納豆コーヒーゼリーサンド」については、すでにご報告が届いているかもしれません。何しろ納豆とコーヒーゼリーのサンドイッチですよ。それにこのKというお店はえらく人気があるらしく、切れ目なくお客さんが来ます。
名古屋は好きな街である。一部のおもしろ食べ物が一部のマスコミに拡大して取り上げられ、それが名古屋の食文化であるかのように思われていることを残念に思っている者の一人であるが、今回は何も言わん。なーんも言わん。
ここでデスク乱入 なーんも言わんって、野瀬さん、もっとちゃんとフォローしなきゃ…。小倉トーストとか、ブラジャー丼とか、このコラムでもずいぶん名古屋にはおいしい思いをさせてもらってるんですから。
手始めに「なぜクリームと納豆とコーヒーゼリーを混ぜようと思ったか」について、食べながら思いをはせるっていうのはどうですか? きっと思いがけないドラマがありますよ。プロジェクト×みたいな…(「野瀬さんに出張してもらおう」と言いつつ去る)。
戻ってきた野瀬 これ食べに名古屋出張? 家族は反対すると思う。
話題を思いっ切り転じよう。焼き鳥である。日本には3大焼き鳥都市というのがある。
豚正肉タマネギはさみマスタード付きの室蘭市。
豚のかしら肉に辛味噌だれの埼玉県東松山市。
鶏の鉄板焼きの愛媛県今治市。
それぞれの分野で人口当たりの専門店数日本一を誇っている。
ところがである。この3市を上回る都市があったのである。
福岡県久留米市である。もうおわかりであろう。私のふるさと。
昭和12年、屋台の「南京千両」(現在も営業中)でとんこつラーメンが産声を挙げた街。そうなのである。久留米はとんこつラーメン発祥の地というだけでなく、焼き鳥日本一の街でもあったのである。知らなかったなあ、なのである。
これを発見したのは地元の月刊情報誌「くるめすたいる」編集部の皆さんだった。「なんか久留米は焼鳥屋が多かばい」「そげん言わるると多かごたる気がする」「いっちょ調べたらどげんやろか」というような話があったのだろう。インターネットのタウンページで「焼鳥屋」として掲載されている店の数を調べ、人口と比較した。
すると1万人当たりの専門店数は東松山市7.20軒、室蘭市6.33軒、今治市5.01軒であったのに対し久留米は、るんるる~んのる~ん、らんらら~んのら~ん、何と7.46軒だったのである。
さっそく「久留米焼き鳥学会」がこじんまりと発足した。
北部九州の焼き鳥には4つの特徴がある。まず具の間に挟まっているのはネギではなくタマネギ。
生キャベツのちぎったものに酢だれがかかって出てくる。
貝柱やエビ、イカ、シシャモなどの魚介類がネタに加わる。原則として塩焼きでたれはほとんどない。久留米の焼き鳥もほぼこの特徴を備えているが、一点違うのはネギ挟みも混在することである。
それに東京の焼鳥屋や焼き肉店でタンを頼むとスライスしたタンが出て多くはレモンに塩で焼くが、久留米のタンは塊を細切りにして串に刺す。
ラーメン、焼き鳥に加えて久留米には屋台がある。博多の屋台は有名だが、久留米の屋台は有名ではない。しかし、そこには日本で唯一のうなぎ専門屋台があったり、冬になるとテーブルの下に七輪(関西ではかんてき)を置き、上から布団をかけた「こたつ屋台」が登場する。これも我が国唯一のものであろう。
これら、完全B級食材と装置を有機的につなぎ、史上最大の町おこし作戦が始まろうとしているのである。私もこの作戦に乱入することになるであろう。
頑張るけんね。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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