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慶大時代の教科書は無味乾燥なものが多かったが、現実社会のことが書かれた『現代の経営』を読み、経営を勉強したいという気持ちになった。

ドラッカーのこの本はあまりにも有名ですが、大学3年の頃に読み、非常に面白い本だと思いました。当時、米ノースカロライナ大学のビジネススクールからホワイト・ヒル教授がきていた。これでますます経営学が面白くなり、米国留学への道が開かれました。

キッコーマン名誉会長 日本生産性補陰部会長 茂木友三郎氏

キッコーマン名誉会長 日本生産性補陰部会長 茂木友三郎氏

いちばん印象に残っているドラッカーの言葉は「企業の重要な役割の一つは、人々の持つ欲求を有効需要に変えること」。人々が買いたいと思うような品物をつくれといっているのです。市場を創造する。需要を創造する。それによって企業に付加価値が生まれ、国内総生産(GDP)の増大として経済成長が実現するわけです。

キッコーマンは売上高の5割以上、営業利益の7割以上を海外で稼いでいます。食品会社の中では最も海外の比重の大きな会社ですが、米欧で現地の人がしょうゆを使い始めてくれたからこそ可能になったのです。

戦後本格的にマーケティングを始めたのは、1957年に米国に販売会社をつくってからです。私の先輩たちが「米国人を対象に商売をしよう」と決めました。

きっかけは戦後、米国のビジネスマン、ジャーナリスト、学校の先生や官僚が日本に来て、日本の街の中に住み、日本人と接触を持ったこと。米国人が日本人の生活を見て、しょうゆという調味料を知り、使い始めていた。

どうやって米国人の潜在需要を顕在化したのか。一つは、インストア・デモンストレーションというやり方です。米国のスーパーの店頭でしょうゆで味付けした肉を焼き、米国人に食べてもらいました。

もう一つはレシピ開発です。しょうゆの使い方を米国人に教えないといけないので、販売会社の中にテストキッチンをつくり、米国人社員に朝から晩までしょうゆを使った調理法を研究してもらいました。小さなレシピブックをしょうゆの瓶につけ、米国の料理に使ってもらえるようにと「需要の創造」をしたのです。私が強気でこられたのは、ドラッカーの本のおかげかもしれません。

 十数年前から社内で読書会を開いている。

30歳前後の若手社員を8人を選抜し、毎月、2人1組で4冊本を読んでもらい、その結果を報告してもらいます。私は今年80歳になりましたが、若手社員と接触する機会をつくろうと考え、続けています。

フランス人の人口学者エマニュエル・トッド氏の『アラブ革命はなぜ起きたか』も勉強会でとりあげた本です。キリスト教文明とイスラム教文明が衝突するという「文明の衝突」でとらえるのは違うといっています。

識字率が上がると出生率が下がる。そうなると親戚同士が結婚する「内婚」の比率も低下する。そうやって文明が進むプロセスの中でいろんな混乱が起きるが、さらに文明が進むと混乱が収まる、という論理で書かれています。一つの見方でしょう。

 成功体験からくる新しい考え方はビジネスにも役立つと考える。

『「はやぶさ」式思考法』も興味深く読みました。小惑星探査機はやぶさが日本を飛び立ち、相当な年数を経て帰還した。そこで得られた教訓を述べています。

重要だと思うのは、減点法ではダメで、加点法でないといけないと。新しいことを始めるには「原則禁止」ではなく政府の許認可を外して「原則自由」にすべきだともいっています。

面白いのは、他人がやっていないことをやるという意味で「あまのじゃくになれ」というのです。研究者が行き詰まった時にこれを読むといいと思います。

最近の読む本は人任せですけど、15分ぐらい時間ができると書店に行き、どんな本が売れているかをみています。

(聞き手は編集委員 瀬能繁)
【私の読書履歴】
《座右の書》
『現代の経営(上・下)』(ピーター・F・ドラッカー著、ダイヤモンド社)
《その他愛読書など》
(1)『アラブ革命はなぜ起きたか』(エマニュエル・トッド著、藤原書店)
(2)『「はやぶさ」式思考法』(川口淳一郎著、飛鳥新社)
(3)『政治と秋刀魚』(ジェラルド・カーティス著、日経BP社)
著者は米国の日本政治研究の第一人者。ポスト55年体制下の日本の政治家は国民を説得し、構造改革を進めよ、と説いた本。
(4)『稼ぐ力を取り戻せ!』(冨山和彦著、日本経済新聞出版社)
東北のバス会社を再生させている著者は実務をやっているので説得力がある。企画力と設計力という日本の製造業の弱点を分析。
(5)『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債(上・下)』(幸田真音著、角川書店)
(6)『日本料理の歴史』(熊倉功夫著、吉川弘文館)
(7)『伝える極意』(長井鞠子著、集英社)
[日本経済新聞朝刊2015年3月15日付]

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