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グルメクラブ
食べ物 新日本奇行 classic

すき焼き鍋に脂身の残骸 家族で奪いあったあのころ…すき焼き(3)

2016/6/4

食べ物 新日本奇行 classic

お父さんを除く我が家ご一行様が春休み旅行を敢行した。行き先は台湾。香港や広東でSARSがはやっているのになぜわざわざ現場近くの台湾に行ったのか。それはすばり国内旅行より安かったからである。

お土産は現地のコンビニで売られているチープなお菓子類。免税店では決して手に入らない台湾バージョンのベビースターラーメンとかグミとかミントとかポッキー似のお菓子とかをわんさか買ってきた。これは結構喜ばれるらしい。

愚息はこれに加えてホテルに置いてあった歯ブラシや櫛(くし)もお土産袋に入れたのだった。そればかりか台北の牛野家に入り、トレーに敷いてあった紙や割りばしまで持ち帰ったのである。

日式大阪焼

愚息のお父さんへのお土産は写真である。「お父さんはこういうのが一番いいんだよね」とは敢えて口に出さず、黙ってデジカメで撮った写真を見せた。その顔に薄い笑いが浮かんでいるのを私は見逃さなかった。

「どれどれ……ほう大阪焼か。大阪煎餅と同義ね。お好み焼きのことなんだよ」

「行く前に、お父さんにそう聞いてたから店に入ったんだよ。そしたら、お好み焼きのくせして四角いの。大きな丸いお好み焼き作っておいて四角に切って出してたみたい」

「そんなことして角が立たんのか」

これ、カツ丼?

「……」

「台湾の牛野家は牛丼もありますって感じだろ?」

「そうそう。ボクはカツ丼が食いたくて、それらしいものを注文したらチキンを煮たもので、しかも甘ーいたれがかかっていて、あんまり甘いものだからセットでついていたレモンティーを飲んだらこれがまた甘くて。台湾は甘ーい」

これ、チキン煮?

「トンカツとチキン煮を間違えたおまえも甘い」

「……」

「このメニュー看板は?」

「とんかう定食が面白かった」

「つの上にてんを打っちゃったのか」

「それとこのアムうイスは最初読めなかった」

アムうイス?

「アムうイス?」

「オムライスのことらしい」

「おー、外国人にはうとラの区別がつかんのも無理はない。アとオも似てるなあ確かに。『焼うどえ』というのもあるな。考えてみると『ん』と『え』の下半身がそっくり。気がつかなかった」

「そんなことに今ごろ気がついてどうするの、お父さん」

烏龍麺?

「気がつかないより気がついた方がいいんだ、とりあえず」

「ところで、うどんて烏龍麺て書くんだね」

「でも烏龍茶に入ったうどんじゃないんだぞ」

「わかってるよ」

筑後の「うろん」

「うどんをウーロンとかウロンて発音するんだな、きっと。大阪ではきつねうどんをけつねうろんて言うし、博多にはかろのうろん屋(角のうどん屋)というのもあるから、これでいいんだ」

「お父さん、このお土産うれしい?」

「う、うれしい」(文末に続く)

すき焼きに入れるもの=PIXTA
ご意見 たまりかねて一言。野瀬さん、すき焼きにジャガイモを入れてみるのはやめてください。その食べ物は絶対にすき焼きではありません(中略)すき焼きに入れて良いのは牛肉のほかにはまず焼き豆腐、次にシラタキ、長ネギ(白ネギとは言われたくない)、それもただの長ネギではなく群馬県下仁田(または埼玉深谷)のネギ。これは極太で短いですがとてつもなく軟らかい。口の中で鉄砲になります。そして椎茸、白菜、春菊です。お麩は入れません。これはやはり肉ジャガに入れたほうがよろしい。醤油、砂糖それに出し汁を用意した方がベター(上水さん)
白ネギではなく長ネギ

ご安心ください。まだやってません。今夜やるかしれませんが。それにしてもきっぱりと反ジャガイモ派なんですね。それに「白ネギと言われたくない」と、またきっぱり。なんか「長ネギの主張」を代弁しているみたいですね。

煮詰まると何を足すかという問題がありますが、上水さんの場合は出し汁ですか。ところで「口の中で鉄砲になる」というのは、かむとネギの中身が飛び出すということですよね。

青ネギ入り
ご意見 水気は青ネギ、糸コンニャクから出るのですが、水気が足りなくなると酒のみをつぎ足しつぎ足ししますので、ビールを飲まなくてもすき焼きだけで酔っ払うという事態が生じることがあります。子供心にすき焼きは体が熱くなるものと思っておりました。今でも、酒自体は飲まないのですが、冬の消費量は2人で3パックです(滋賀県出身の望月さん)

それはすき焼きのふりをした酒蒸しです。酔います。

バンコクの豆腐はチューブ入りでした
ご意見 ここシドニーには日本食レストランが林立しておりますが、結構うさんくさいジャパニーズレストランもたくさんございます。シェフが韓国人であったりチャイニーズであったりする所です。一度、正真正銘韓国系ジャパレスですき焼きをいただきました。お肉は日本同様スライスされてOK。たまげるのはカニかまぼこやチンゲンサイが入っていたこと。しかもカニかまは日本のもののように品質がよくなく、ほとんどが小麦粉だろうと思われ、それが煮えるとブワブワ?っと膨れ、なんだか運動会のリレーの時のバトンほどにもなります(今回も絶対匿名さん)
さて、どんな味でしょう?

偏食アカデミーにあっては過去に海外取材網を動員し「外国で出ているトホホ系和食」を調査研究したことがあります。某国の例。「みそ汁を注文すると何も入っていない汁椀が出、よく見ると身と味噌が別皿に盛られている。適当に入れてお湯を注げということらしい。

その身というのがキュウリ。キュウリの味噌汁飲ませるなー」というリポートが届きました。別の国からは「カツ丼を頼んだ。溶き卵の中にニンジンの刻んだやつやコーンが入っていた。ここまでは許せるが、ご飯がチャーハンだった。泣いた」という報告も寄せられました。でも「リレーのバトンのような形に膨れる小麦粉系カニかま」という強力な事例は初めて耳にしました。外国で暮らすって大変ですね。

まっとうな久留米ラーメン

日本でも似たようなことがないでもありません。中央線沿線の某駅前で「久留米ラーメン」の看板をみつけ、いそいそと入りました。メニューの中心は沖縄料理の店なのですが、久留米ラーメンもいけますよというようなウリでした。カウンターだけで厨房は丸見え。マスターの手元を見ていたら「久留米ラーメン」と書いたインスタントラーメンの袋をやぶいたので「ああ、今夜はなかったことにしよう」とその時点で諦めたのです。忘れるつもりでした。

沖縄そば

ところが出てきたラーメンの丼の中身を見て、一生忘れられない一夜になってしまいました。何しろ刻んだてんぷら(薩摩揚げ)とモヤシが入っているではありませんか。「久留米のラーメンにそげなもんば入れたらいかーん。沖縄そばじゃなかとよー」と心の叫びをあげた私の両の目から涙がこぼれたことは言うまでもありません。泣いたと。泣いたとよ。久留米ラーメンにはてんぷらはもちろんのこと、モヤシも入らないのです。

私はこういう事態に遭遇した場合に備えて「チャブニチュード判定表」というものを持ち歩いています。「チャブ台をひっくり返したくなる怒りの5段階強度」で表します。

ちゃぶ屋(本文とは関係ありません)

チャブニチュード1 2度と来るものかと思う

チャブニチュード2 あの店はひどいぞと、知人に言いふらしたくなる

チャブニチュード3 新聞の投書欄に「ひどい店がある」と投書したくなる

チャブニチュード4 悔しくて眠れなくなる

チャブニチュード5 店に向かって大きな声で「ばかばか」と言いたくなる

この店は迷うことなくチャブニチュード5との判定が下りました。でも店の前では言えなくて、電車に乗ってから小さな声で「ばかばか」とつぶやきました。この判定表は拙著『秘伝「たこ焼きの踊り食い」』で提唱し広く世間の理解を求めたのですが、いまのところ全く理解を得られておりません。

牛脂のかたまりを使って鍋に脂を引く
ご意見 すき焼きを作る際、冒頭で牛脂のかたまりを使って鍋に脂を引くのは、割り下を使わない関西風の手順でしょうか(中略)その牛脂のかたまりはすき焼きの進行中放置され、最後にふやけたように煮汁の中に浮いているのですが、私の父(70過ぎ)が言うには、子供のころはこのかたまりの残骸が大好物で、取り合いになったものだと……(池田市のえしょさん)
取り合いに…

えしょさんも書いておられるように、肉が貴重品であった時代ではこの「脂」こそ肉の醍醐味だったような気がします。私も子供のころは大好きでした。

食べ物というのは個人史そのものでもありますから肉の一片、豆腐のひとかけ、そしてふやけてしまった脂身の残骸さえ記憶に残っていることがあります。いいところに目をつけられたと思います。名古屋に単身赴任されたパートナーはお元気でしょうか。

東京だって負けてない

名古屋といえば「オーキッドらん」さんから「名古屋駅に近いとある店に入ったらパスタの量がスナック(S)、レギュラー(M)、ジャンボ(L)、キング(LL)に細かく分かれ、普段は東京で小盛りでいいから100円引きしてくれーと思っているので、ありがたかった。

そばの喫茶店でも白パン、麦芽パンを選べるサービスをしていた」という趣旨のメールをいただきました。そうです、これこそ名古屋の「お値打ち主義」の一端です。究極のコストパフォーマンス都市なのです。

ちょっと京風=PIXTA
ご意見 私の家のすき焼きはちょっと京風です(中略)すき焼き鍋を温めて牛脂を引き、うっすらと脂がついたころにザラメを鍋底にまんべんなくうっすらと敷き、ザラメが溶けかかるころにお肉を広げて載せ、生醤油を回し入れます。肉に軽く火が通るころに肉をひっくり返して肉が温まり少し締まってくる直前であげて卵をかき混ぜずに黄身をつけて食べます。それを何度か食べた後、タマネギの輪切り、シイタケ、軽くゆがいた白菜を丸く巻いて絞ったもの、春菊などを入れ、ザラメ生醤油で味をつけて白身をつけて食べます(若いころから少々味にうるさい「カコ」さん)
軽い気持ちですき焼きに臨んで申し訳ありません

うちもそうですが、最初に牛脂なりサラダオイルで脂を敷き、肉を焼いてから仕事を始めるというのが標準型ではないでしょうか。豚肉でも同じだと思いますが。

いや、でも割り下を使う場合は最初に割り下を煮立たせて肉を煮るのかな? 我が家では割り下を使わないのでよくわかりません。日本酒やビールや水や砂糖や醤油なんかを適当に入れ、要は甘すぎず辛すぎずというところに落ち着けばいいや、というような軽い気持ちでやっております。軽い気持ちですき焼きに臨んで申し訳ありません。

入れますか?=PIXTA
ご意見 我が家のすき焼きには必ず「高野豆腐」が入るのです!(札幌の椿さん)

我が家のすき焼きには絶対高野豆腐は入りません。でも、麩は入れます。おいしいですね。高野豆腐もよさそうです。今度やってみます。でも、こう書くとジャガイモみたいに「それだけはやめてくれ」というメールが来るかもしれませんが。

すき焼き以外のメールを少し。

ザンギ
ご意見 北海道に住んでいたころ、お総菜売り場に「ザンギ」というどう見ても鶏の唐揚げが売られていました。北海道出身の友人によれば唐揚げとザンギは違うそうです。ぜひこのコーナーで調べてください(長谷さん)

多分、愛媛県今治市で戦後に生まれた「せんざんき」と同根の食べ物でしょう。「せんざんき」は骨つき鶏にショウガ、ニンニク、醤油、酒、各種スパイスで下味をつけ、かたくり粉と卵をまぶして揚げたものです。見かけは空揚げに似ていますが、下味が複雑で食べると違いがわかります。地元では略して「ざんき」と呼ばれています。

せんざんき

これが北海道に伝播する際「ザンギ」とカタカナ書きになり、語尾が濁ったのではないかと思いいます。「せんざんき」の語源ははっきりしませんが、初めてこの食べ物を出した店の主人が旧満州からの引き揚げ者であったことから「軟炸鶏(エンザーチ)」説が有力です。私も今治に行ったとき、鉄板焼き鳥とともにこの物件を実食しました。ぴりっとした味で、ビールに合いました。

ご意見 おにぎりに砂糖醤油をつけ、海苔で巻くのも変なのかな。遠足などで食べるとき海苔が砂糖醤油でべたべたになり、甘い佃煮をまぶして食べているようでとってもおいしかったが……(やっぱり北海道さん)
チタケ=PIXTA

非甘味的人生を送っている私としては、とくにコメントはありません。

ご意見 VOTEの選択肢のチタケってなんですか?

栃木県周辺だけで偏愛されているキノコです。栃木県向けの選択肢です。気になさらないでください。

沖縄のポーク卵おにぎり
ご意見 今度のGWは沖縄です。ローカルハンバーガー「ジェフ」のゴーヤー炒め卵とじと焼いたポークランチョンミートをはさんだ「ヌーヤルバーガー」290円はとてもおいしいですね。焼いたポークと卵焼き、それに油味噌もぬられた「ポーク卵おにぎり」は大好物です。「おにポー」と言うんだそうです(福島のテレジアさん)
これは馬肉のすき焼き

「ヌーヤル」ってどういう意味か現地で聞いてみてください。微笑を保証。

最新の三林京子さんの「ああ書けば、こう食う」は猪肉のすき焼きと「鮭缶白鍋」。鮭の缶詰めで鍋物を作る方法があるなんて思ってもみなかった。これは試してみる価値がある。

台湾続き。

「せがれよ、この『愛の小吃店』ってなんだい」

看板(本文とは関係ありません)

「いやべつに、ただ面白いかなと思って」

「この看板のえも言われぬ魅力に気がつくなんて、いいセンスしてるじゃないか。お父さんと同じ道を歩もうとしているのかな」

「いや、そんなことは……」

「ただの観光客はこんな看板の写真ばっかり撮ってこないぞ。やはりお父さんと同じ道を……」

「そんなことないってば。絶対ない」

「まあいいだろう。ゆっくり自分の生き方を考えなさい」

18:00ってモーニング? イブニング?

「お父さんが食品サンプルとか看板の写真を撮るのって、お父さんなりの『生き方』だったの?」

「ある意味で」

「……」

「ところで、お父さんはこの『しゃぶしゃぶ 東京都』というのが一番気に入った。よく見つけたね。ほめてあげよう」

「うれしくない」

北海道風ジンギスカン?

「『しゃぶしゃぶ東京』ならいかにもありそうだが、丁寧に『都』という行政単位までつけたところが正確でいい。日本人なら思いつかない。たこ焼き大阪風とか、ジンギスカン北海道風なら当たり前。これをたこやき大阪府風というとちょっとずれる。ジンギスカン北海道風も……あれ北海道には初めから『道』が入っているじゃないか。しゃぶしゃぶ東京都と同じではないか。妙なことに気づいてしまった」

「お父さん、もう寝よう」

「はい」

(本当にこんな会話を交わしたなんて思わないで下さい。少しは交わしましたが)

(特別編集委員 野瀬泰申)

[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]

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