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4月28日の日経ビジネスオンラインに掲載された、ノンフィクション作家の山根一眞さんが書いた「テレビ報道者も間違う『震度最大10』の誤解」を読み、「なるほどなあ……」とすっかり感心してしまった。本来なら感心などせず「そんな迂闊(うかつ)な人がいるもんだ」と「余裕で反応」すべきなのかもしれないが、私自身「勘違い」していたから恥ずかしい。

山根一眞さんのコラムに「なるほどなあ……」

山根:「この度、(熊本地震)震度7の報に接し、やはり、と思ったことがある~」

こんな穏やかな書き出しから徐々に、"山根ワールド"が高まっていく。

山根さんと地方の勉強会でご一緒したのはもう10年ほど前のことだろうか。私がチョークと黒板を使って不器用に話すのとは対照的に、山根さんはパソコンを駆使し、宇宙の星たちやロケットや、講義直前に撮影した動画を映し出した。教室が一転、プラネタリウムのようになった!

「わー」っと歓声が湧きあがり、そのとき客席で見ていた私も、ひたすら「へえ?!へえ!?」とうなるばかりの、素晴らしい講義だったことを思い出す。

その山根さんの日経ビジネスオンラインの記事に、私は目を覚まされた。山根さんは、熊本地震を報じるテレビでこんなことを口走る「論者の声」を耳にしてしまったそうだ。

論者:「今後、"震度8"以上の地震が来たら(この程度では済まないからもっと覚悟をして準備しておくべきだ?)」
山根:「『震度7』が震度階級では最大。震度7より上がないことを知らない人が、思いのほか多いのではと前々から心配していたが、報道人ですら理解していなかったとは……」

おっしゃるように、我が国に「震度8」は存在しない。改めて気象庁のサイトを見ればそのことは一目瞭然だった。

「震度5」や「震度6」だって、日本語としては不適切

「震度階級」の最大といえば「震度7」で、7強もなければ8も9も10もない。ちなみに「震度5」や「震度6」自体が、そもそも「不適切な日本語」だ。「そんなことは言われなくても百も承知だ!」とおっしゃる方も少なくないのだが、私のような人間は、この際頭にたたき込んでおいたほうがいい。

震度が4を超えたら、5も6も二つに分かれる。「震度5弱」「震度5強」「震度6弱」「震度6強」

とりわけ40歳すぎの「旧世代」で、阪神淡路大震災当時の記憶が生々しく残っている者(私を含む)は要注意。「旧震度階級」がこびりついて「誤解する原因」となる恐れありだ。あの震災の1年後、1996年までは、震度は0から最大震度は7まで。弱も強もなく、そのまま8段階だった。

新基準の前は、観測体制もまるで違っていた。

今では日本全国数千カ所に精巧な最新鋭の計測器が配置され、瞬時に地震の情報が集約されると聞く。だが、かつて取材した当時は、各気象台の「観測係の方」がご自分の身体の揺れ具合、自分の目で見た周囲の様子などを基に、「人間自身が地震計となって」個別に判定している、と伺った。

「揺れを感じる個人差は?」との質問に、「感性の優れたベテランを選りすぐっていますから、大丈夫。ただ、建物がヤワだと震度は強めに出るかな……」――なんて「牧歌的な世間話」を交わした記憶がある。

地震の世界は"名人芸"からITの最先端へとかじを切り、測定精度は格段に上がったものの、「予知」にはまだまだ時間がかかりそうだ。そもそも、その必要性を含めて、地震予知自体が"実現可能"かどうかに疑問の目が向けられている。

「一応矛盾しない10段階」だからややこしい

さて一方、その震度情報の受け手である、我々の体制はどうなのか?

山根さんは大学で教える学生450人を対象に、「『震度8』はあると思うか?」など震度階級についての認識を調査している。その結果、「ひょっとしたら」を超えるほど多数の学生が「震度7を上回る8や9や10だってあるものと思っていた」との回答を得たらしい。

優秀な学生なら優秀なほど、計測スケールといえば「10進法」が頭に浮かぶらしく、「震度は1から順に8・9・10」という発想が生まれた可能性がある。

しかし実際には震度は0から始まり、途中で"弱強"が入り交じり、結果的には10進法と「一応矛盾しない10段階」から成り立っているからむしろややこしい。これが「混乱」や「誤解」を生む元ともいえる。

「アホな私自身」に言い聞かせるため、ちょっとしつこくなるが、まとめれば以下の如くだ。

震度は0から始まり1、2、3、4。5からは二つに分かれ震度5弱、5強。6も強弱二つ。震度6弱、6強で刻まれて、指折り数えれば10階級目が震度7。震度7が10段階の頂点。これ以上はない、最悪の強度は震度7。そして震度8は、無い。

こう書きながらもどかしい。要するに、日本語は厄介だ。

災害が起こった日を「Anniversary」として記憶にとどめる

震度問題から外れるが、災害に「言葉」について考えさせられることもある。

「何が適切なのか?」

例えば「記念日」という言葉。我が国では「生誕記念日」「結婚記念日」「会社の創立記念日」など「祝うべきめでたい日、ポジティブな出来事だけに添える言葉」というイメージがある。

ところが例えばアメリカでは、おぞましいテロでたくさんの人が亡くなったあの2001年9月11日を「9-11Anniversary」と呼んだり、モーツァルトが亡くなって200年後を「Mozart's death Anniversary」と祝賀や戦勝記念日と同じAnniversaryという言葉で祈念する。

熊本も東日本も阪神淡路も、復興にまい進しつつ、その日々を心にとどめ、忘れてはならない教訓はきちんと後世に伝えていかなければならない。

ではなんと呼んでいけばいいのだろう……。

そもそも被災した方にかける言葉や態度はどうであるべきなのか?

取材する人は現地で何を考え実際にどうしたのか?

それが我々の日常とどう関係するのか?

我々が知っておくべきことはたくさんありそうだ。それを、拙著『不適切な日本語』(新潮新書)に書いてみた。

「日本語の適切な運用」なくしては前に進めない

地学も、物理も、科学も、数学も、歴史も、政治も外国語でさえも――母国語を日本語とする者にとっては「日本語の適切な運用」なくしては一歩も前に進むことができない。仕事にかかわらず、日常のお付き合い、対人関係のほぼ全てで「日本語」への関心抜きに、この世知辛い世の中を生き抜くのは難しそうだ。

結婚報告をどうするか?

サプライズってそんなにいいのか?

印鑑はどうして持ち運べないのか?

「奥が深いですね」はなぜ怪しいのか?

「元気は他人からもらうものなのか?」

……気がついたら25話の見出しの全てに「?」がついているのはなぜなのか?

日本語を「正しい」とか「誤りだ」ではなく「適切か?」「不適切か?」という視点で捉え、笑ったり怒ったりけなしたりしていただこうというのが『不適切な日本語』の目的だ、なんて、まるで本の前書きになってしまった。

一番不適切なのは「お前の日本語だ」と言われそうだ……。

[2016年5月12日公開のBizCOLLEGEの記事を再構成]

梶原しげるの「しゃべりテク」」は木曜更新です。次回は5月26日の予定です。
梶原 しげる(かじわら・しげる)
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーになる。92年からフリーになり、司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員を担当。
著書に『すべらない敬語』『そんな言い方ないだろう』『会話のきっかけ』『ひっかかる日本語』(新潮新書)『敬語力の基本』『最初の30秒で相手の心をつかむ雑談術』(日本実業出版社)『毒舌の会話術』(幻冬舎新書)『プロのしゃべりのテクニック(DVDつき)』(日経BPムック)『あぁ、残念な話し方』(青春新書インテリジェンス)『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)ほか多数。最新刊に『まずは「ドジな話」をしなさい』(サンマーク出版)がある。

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